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今日の筆洗

2017年05月19日 | Weblog

 英語の辞典でtrump(トランプ)と引けば、「切り札、奥の手、最後の手段」とあり、「切り札で勝つ、出し抜く」などの意味も並ぶ。trump upという言葉もあって、こちらは「人を陥れるために、偽の事実などをでっち上げる」との意味だ▼昨年の米大統領選に、ロシアが介入していたのではないか。サイバー攻撃でクリントン氏に不利な情報を流出させていたのではないか。そして、この動きにトランプ陣営も関与していたのではないか▼「そんな疑惑はでっち上げ」と言い続けてきたトランプ政権の面々だが、事はtrumpの切り合いの様相となってきた。大統領が、疑惑の解明を目指していた米連邦捜査局の長官を電撃解任する「切り札」を出せば、司法省は特別検察官の任命という「奥の手」で応じる。息詰まる神経戦だ▼昨年の大統領選は、一九六八年の選挙に似ていたと指摘される。社会に閉塞(へいそく)感が満ち、憎悪を煽(あお)る候補が躍進し、社会は激しく分断された▼「米国が抱えるいかなる問題も、正しい選挙によって癒やされるはずです」と訴えたニクソン氏が勝ったが、やがて疑惑にまみれ、特別検察官の解任という「奥の手」が、辞任への流れをつくる悪手となった▼昨年の大統領選は、「正しい選挙」だったのか。疑惑の真相はどうなのか。癒やされようもないほど政治不信を膨らませつつ、トランプ劇場は続く。


今日の筆洗

2017年05月17日 | Weblog

「人というものは、はじめから悪の道を知っているわけではない」。池波正太郎さんは火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官(おかしら)にそう語らせている。『鬼平犯科帳』の一編から引いた▼平蔵の部下である与力がこともあろうに人を殺(あや)め、悪の道へと転落する。「何かの拍子で、小さな悪事を起こしてしまい、それを世間の目にふれさせぬため、また、つぎの悪事をする。そして、これを隠そうとして、さらに大きな悪の道へ踏み込んで行くものなのだ」。人を悪の道へと導いてしまう「何かの拍子」が憎い▼いったいどんな拍子やきっかけが襲い掛かったのか。東京都台東区で高校三年の少年が交際していたとみられる同級生の女子生徒を殺害したとして逮捕された事件である▼少年は殺害後、現場マンションの部屋に火を付けたという見方がある。つぎの悪事、さらに大きな悪の道へと踏み込んでしまったのか▼少年のスマートフォンに「油での火の付け方」をネットで検索した形跡があったと聞く。時代とはいえ、その幼さと過ちの大きさの不釣り合いが悲しい。事件の前に少年がその便利な道具で、検索すべきは「心の落ち着かせ方」や「人の命の重さ」だったはずだ。それに気が付かなかった▼明るい笑い声が似合わなければならぬ年ごろである。亡くなってしまった女の子のために時計の針を戻してあげたい。そして、その少年のためにも。


今日の筆洗

2017年05月15日 | Weblog

 用意いたしますものは、まず昨夜のシチューの残り。ここに刻んだラッキョウ、しば漬けを投入する。さらには残っていたようなチーズケーキも加える。そこに納豆のタレ、ケチャップ、中濃ソース。黒豆、オイスターソースなども入れ、煮込むこと二時間。「談志カレー」の出来上がりである▼立川談志さんの弟子、立川談春さんが『赤めだか』に書いている。入門の日、談志さんに作り方を教えてもらったそうだ。目をつぶって一口食べたところ「意外にもうまかった」とあるが、お試しにならぬ方がいいかもしれぬ▼「談志カレー」はシチューの残りをベースにしているが、前の晩にこしらえたカレーはより味が深く、まろやかになったように感じられるものだ。いわゆる「二日目のカレー」▼そのファンには悲しいお知らせである。なんでも作り置きのカレーにはウエルシュ菌なる菌が発生しやすく、食中毒の原因となるそうだ。東京の幼稚園では今年三月、前の日のカレーを食べた園児が食中毒症状を訴えている▼煮込んでいるから大丈夫なはずだと怒るファンもいるか。残念ながらその菌の中には熱に強いのもいて、常温で放置すれば、増殖することもある▼<秋風やカレー一鍋すぐに空>辻桃子。句の季節とは違うが、ものの傷みやすい時季である。その日に食べきって、鍋は空にしてしまった方が良さそうである。


今日の筆洗

2017年05月14日 | Weblog

 その俳優の母上はとにかく、息子をほめるのだそうだ。「おまえは本当に役者に生まれてきたような子だよ」「おまえはなんてうまい役者だろう」「おまえは最高だよ」。「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」などの風間杜夫さんのおかあさん▼ある日、終演後の楽屋にやって来るなり、息子の名演に喜びのあまり、こう大声を出した。「仲代達矢よりよかったよ。勝ったね」。隣の楽屋には共演の仲代さんがいる。風間さんがどんなに肝を冷やしたことか▼たとえ、それが聞こえたとしても、仲代さんは怒らず、ほほ笑んだのではないかと想像する。仲代さんにも同じ「記憶」がある▼俳優座時代の若き日、イプセンの「幽霊」で大役をつかんだ。上演中、どうも客席が騒がしい。騒ぎのもとは仲代さんのおかあさん。舞台を指さして、「アレ、私の息子なんです。いい男でしょ。アレ息子!」▼いずれも『この母ありて』(木村隆さん・青蛙房)から拝借した。母の日である。どの母も子の成長、幸せに喜びを爆発させる。笑う。母とはそういう生き物である。そして子どもは母の喜びに照れくさく感じつつも、勇気づけられ、励まされ、その道を歩んでいく。母の笑いは子の道を照らす▼なにも名優にならずとも母の笑いは手に入る。カーネーションさえいらないかもしれない。電話で、魔法の言葉を唱えればいい。「元気だよ」


今日の筆洗

2017年05月13日 | Weblog

 <♪戦争の親玉どもよ/銃を造る者たちよ/死の飛行機を造る者たちよ/強力な爆弾を造る者たちよ…>と、ギターをかき鳴らしながら、ボブ・ディランさんは歌った。「戦争の親玉」と名指しされたのは、ベトナム戦争などで潤っていた軍需産業のことだ▼<安心してこの世に/子供たちを産み落とせない恐怖を/未だ生まれず名もつけられていない/子供たちを脅かしている>(『ボブ・ディラン全詩集』中川五郎訳)▼戦争が終わっても、その恐怖は次世代の子どもたちを脅し続ける。そんな兵器の一つが、一発の親爆弾から数百の子爆弾が拡散するクラスター爆弾だ▼ベトナム戦争時に米軍がクラスター爆弾を雨と降らせたラオスでは八千万発もが不発弾となり、二十一世紀になってからも子どもらの命を奪い続けた。「未来を殺し続ける兵器」である▼製造・使用を禁止する条約が七年前に発効し、欧州などでは製造企業への投融資を禁ずる動きも広がった。なのに、日本の公的年金を運用する組織は、この爆弾を製造する企業の株を大量に保有しているという▼老後の安心のための私たちの大切なお金を「戦争の親玉」に使わせていいのか。<おまえは人に銃を持たせて/…自分は安全な場所に引っ込んで見物しているだけ/その間にも死者の数はうなぎ登りに増えて行く…>というディランさんの歌が、痛烈に響く。

Bob Dylan - Masters of War - lyrics