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今日の筆洗

2016年12月29日 | Weblog

 フォークランド紛争の勝利に英国が沸いていた一九八二年の夏、カンタベリー大主教のロバート・ランシー氏が戦争終結への感謝の礼拝で語った言葉は、サッチャー首相を激怒させたと伝えられる▼勝利を祝し、愛国心の尊さをうたい上げる。首相らは、そういう言葉を期待していた。だが、第二次大戦を将校として戦い、戦争の現実を目に焼き付けた大主教は、国民に「殺されたアルゼンチンの若い兵士のために祈ろう」と語り掛けた▼「悲しみをともにすることが、戦い合った者を再び結び付ける力となるはずです。苦悩を分かち合うことが、和解への橋を架けてくれることでしょう」。それは「和解」のための祈りの言葉だった▼日米開戦から七十五年。米大統領と真珠湾を訪れた安倍首相は「耳を澄まして心を研ぎ澄ますと、風と波の音とともに兵士たちの声が聞こえてきます」と語り、開戦の場となった美しい入り江を「和解の象徴」としようと語った▼そんな言葉を、沖縄の人々はどう受け止めたろうか。辺野古の美しい入り江を埋め立てて新基地とする工事がおととい、再開された。耳を澄まして沖縄の声を聞こうとせぬ政府の姿勢に、翁長雄志知事は「沖縄県民を日本国民として見ていない」とまで言っている▼あの戦争から今なお続く沖縄の苦悩を分かち合う。首相には、自ら架けるべき「和解への橋」がある。


今日の筆洗

2016年12月28日 | Weblog

 作家の五木寛之さんが歌謡曲について、こう分析している。「日本人の意識下に渦巻(うずま)くルサンチマン(怨念)をすくいあげて商品化」しているという。そういう部分もあろう。名曲がすぐ浮かぶ▼<泣けて 涙もかれ果てた こんな女に誰がした>(一九四七年『星の流れに』)。「アカシアの雨にうたれて このまま死んでしまいたい」(六〇年『アカシアの雨がやむとき』)。「人の世を泣いて怨(うら)んで夜が更ける」(六六年『悲しい酒』)▼ままならぬ世の中への憂いと絶望。自分自身の存在さえ無価値なものといわんばかりの嘆きだが、その切ない歌が同じ境遇にあえぐひとびとの心を慰めた▼「ナンバーワンにならなくてもいい」。おそらく、このフレーズこそ戦後歌謡曲の「怨念」の歴史を大きく変えた。SMAPの「世界に一つだけの花」(二〇〇三年)である。成功、成長という画一的なゴールや評価を疑い、たとえ世の中とうまく折り合えなくても誰もが個性あるきれいな花。そう歌った▼低成長期が続く。大震災もあった。自信を失いかけた時代にあって、すべての人の存在を力強く肯定する歌を救われる思いで聴いた方もいるだろう▼そのオンリーワンのグループとの別れである。<悲しみっていつかは消えてしまうものなのかな>。そう思えぬほど今は寂しさの方が先に立つ。<冬の風のにおい>が濃い。


【私説・論説室から】

2016年12月27日 | Weblog

【私説・論説室から】

「ただ乗り」はどっちだ

 トランプ次期米大統領が主張する「安保ただ乗り論」で思い出した。

 防衛省は日米地位協定五条二項に基づき、在日米軍が演習場へ向かうなどの公務で高速道路を使う際の通行料を負担している。

 在日米軍はこの条項を拡大解釈して、米兵とその家族にレンタカーを貸し出す際にも通行料が無料となる「軍用車両有料道路通行証明書」を渡している。レンタカーは軍用車両ではないし、レンタカーを使ったレジャーは公務ではない。

 二〇〇八年五月、横田基地を管理する第三七四空輸航空団のホームページに「レンタカーは高速料無料」の記述があり、判明した。

 米軍発行の通行証明書は、料金所から防衛省に回され、通行料を肩代わりする。一五年度、防衛省が負担した通行料は延べ七十二万台分、七億二千九百万円に上った。レジャーなど公務外の使用は肩代わりしないが、通行証明書をみただけではレジャーか公務かわからない。在日米軍は「米兵がレンタカーを使用するのは公務の福利厚生に当たる」と主張し、無料配布をやめようとしない。結局、日本政府による全額負担が続いている。

 日本が負担する在日米軍経費は米兵の光熱水料まで含まれ、本年度五千五百六十六億円。基地を抱える各国中、ダントツの負担額、負担割合である。加えて高速道路の「ただ乗り」だ。米兵の天国ではないか。 (半田滋)