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今日の筆洗

2021年10月28日 | Weblog
漫画で風をどう表現するか。やや細い斜線で空気の流れを描き、風に舞う木の葉でも描けばそれらしく見えてくる▼この人の筆は風に登場人物の心情まで乗せて描くことができた。穏やかな風ではない。一揆や決闘の場面。あるいはおびただしい数のしかばねが折り重なる原野。背景には冷たい風が吹いていた。『忍者武芸帳 影丸伝』『カムイ伝』などの漫画家、白土三平さんが亡くなった。八十九歳▼徹底的に弱い者の立場から物語を描いた。「だって強い者から見る経験がないから」。インタビューの言葉が印象に残る。戦中戦後の貧しい生活。中学の時、小松菜だけを弁当箱に詰めて持っていったそうだ。裕福な家庭の子が持ってきた餅を「食い飽きた」と捨てた。拾えなかった▼弱者の視点に立ちながら弱者に安易なハッピーエンドを用意する人ではなかった。農民が中心となる時代をつくろうと暗躍した影丸もついには信長勢に捕らえられ、処刑される▼白土さんが描いた冷たい風は人間の悲しみの象徴だったかもしれぬ。それでも闘い、幸せを求め続けよ。そう訴えたかったのだろう。影丸は死の間際、信長に伝えよとこう言い残す。「われらは遠くから来た。そして遠くまで行くのだ…」▼それは希望の言葉である。圧政をくじく第二、第三の影丸は必ずやって来る。希望を力強く描いた人が旅立たれた。風が冷たい。
 

 


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