広島、長崎の被爆者は敗戦直後から、その体験を語り、書くことを禁じられていた。米占領軍総司令官の命令だった▼広島で被爆し、被爆者の治療にあたった医師、肥田舜太郎さんの著書にある体験が悲しい。東京でひそかに広島の体験を語り歩いたとき、米軍の憲兵からしつこい監視と威嚇を受けたそうだ▼1956年、この団体の結成に対しても米軍は警戒と監視を強化したという。「被爆者には反米活動の危険がある」。団体とは、ノーベル平和賞に選ばれた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)である▼核兵器が実際に使われたらどうなるか。つらい体験を証言し続けてきたことが評価された。一時は語ることさえ禁じられた被爆体験が約80年のときを経て核兵器のない世界をつくるために欠かせぬ大切な証言と見てもらえたのだろう▼ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻に絡んで核兵器の使用に言及するなど核の脅威は遠ざかるどころか現実味を帯びつつある。核の恐怖がちらつく時代にあって被団協の証言や核兵器廃絶の訴えは人類にとって数少ない「命綱」なのかもしれぬ▼朗報に複雑な気分にもなる。もし広島、長崎に原爆が投下されなかったら。もし人類がとうの昔に核兵器を廃絶していたらこの受賞はあったのだろうか。この平和賞で世界が目を覚まし、核兵器なき世界へと本気で踏み出す契機としたい。
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