ベトナム戦争時、ナパーム弾の誤爆で服を焼かれ、裸で逃げる9歳の少女の写真が撮られ、優れた報道を称(たた)えるピュリツァー賞に選ばれた。世界の反戦機運を高めた1枚である▼撮影はベトナム出身の21歳のAP通信写真記者ニック・ウト氏。少女はやけどがひどく、撮影をやめバンに乗せ病院へ。命は助かった▼ニック氏にはAPの写真記者の兄がいたが、戦争取材中に27歳で死亡。遺志を継ぎ同じ道に進んだ(藤えりか『「ナパーム弾の少女」五〇年の物語』)▼今年のピュリツァー賞の特別賞に、特定の社や個人ではなくパレスチナ自治区ガザ情勢を取材する全ての記者らが選ばれた。「悲惨な状況下での勇敢な功績」があったという▼昨年12月配信の共同通信ガザ通信員ハッサン・エスドゥーディー氏の手記でも状況は分かる。20代。ガザで取材しエルサレム支局に伝える仕事で両親や兄もガザにいる。「16階にあるオフィスの窓からは空爆の炎や黒煙が見え、市民の泣き叫ぶ声が響く」。殉職した同業者もいる。さらに数カ月たち状況は深刻化したことだろう▼ニック氏の兄は生前、過酷な現実を写真で世界に伝えベトナムに平和を、と願った。ニック氏はナパーム弾の現場を撮った際に「この写真で、今度こそ戦争を終わらせてほしい」と言われた気がしたという。ガザにはあとどれぐらい、写真や記事が必要なのだろう。
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