東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2020年06月06日 | Weblog

 スペインのある有名な闘牛士は最後の剣を繰り出す段になると、まず一歩後退した。いにしえのギリシャ、ローマの人々に似ていると、スペインの思想家オルテガが、指摘している。なにかに臨む時に、一歩下がって過去を見るところだという。<過去に根を下ろして生きる>人々であるとも(『大衆の反逆』)▼<何事も、古き世のみぞ慕(した)はしき>。徒然草にも、見習うべきは過去にあるという見方がいく度か登場する。時とともに人は進歩し、昔よりも今のほうが優れている−という現在支配的なものの見方と、くみするべきはどちらだろうか。考古学の大発見の報にそんなことを考えさせられた▼茨城大などの調査団が、メキシコでマヤ文明最古にして最大の建造物を発見したという。紀元前一〇〇〇年ごろに造られ、長さは約一・四キロ、幅約四百メートルと巨大だ▼延べ一千万人以上の労働力がいる規模であるらしい。なのに高位の支配者など社会の身分差を示すものがない。強権のない社会で、人々は力を合わせて造ったということだろうか。研究成果の続きが知りたくなる▼三千年後の文明社会はどうだろう。米国には、人種格差に根差した危機があり、人々を分断するような指導者の言動がある。香港の自由は強権の脅威を受けている▼科学や技術は進んだが、社会はどうだろう。一歩下がって考えたくなる発見の報である。