懲りずに,法務省がHPに「『組織的な犯罪の共謀罪』をめぐる各方面からの御意見・御指摘について(2006/5/26) 」というページを掲載した(ここ←のtopics1番上。もしくはここ←)。しかし,自民党のHPでの釈明によって,疑問が確信となったのと同様(ここ←参照),疑問が深まるばかり…。結局,法務省も自民党も,「安全だよ,信じて下さい」と繰り返しているだけで,安全の根拠を示していない。以下,確認する。
◆御意見・御指摘1
共謀罪について,犯罪を実行することを話し合っただけで処罰されてしまうというような説明がされることがありますが,本当にそうなのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」は,犯罪について単に話し合っただけで処罰されるというものではありません。
共謀罪が成立するためには
① 実行しようとする犯罪が,重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)であること
② 実行しようとする犯罪が,組織的な犯罪集団の関与するものであること
③ そのような犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意をすること
が必要です。
○ したがって,①②の要件を満たす特定の犯罪行為について,いくら話し合ったり,相談を重ねても,そのような犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意に至らなければ,共謀罪は成立しませんし,また,組織的な犯罪集団の関与しない犯罪の相談であれば,仮に具体的・現実的な合意をしたとしても,やはり共謀罪は成立しません。
○ なお,与党修正案では,仮に①②③の要件をすべて満たした具体的かつ現実的な合意があったとしても,それだけでは処罰されず,更に実行に向けた段階に至ったことの現れとなる外部的な行為が行われた場合に,はじめて処罰することとされています。
○ こういうわけですから,共謀罪について,単に「話し合いに加わるだけで処罰できる「犯罪の実行を事前に話し合っただけで処罰される」というような表現」だけで説明するのは,極めて不正確であり,かつ,誤解を招きやすいものと思います。
◆私見
1)「重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)」としているが,万引きも置き引きもひったくりも自転車窃盗も入るのに,どうして,「重大な犯罪」という言い方ができるのか?
ほかの国で長期4年以上の懲役・禁固刑に処す犯罪類型としていかなるものがあるのか調べてから,こういうことは述べて下さいねぇ。
2)「組織的な犯罪集団」の関与というが,その定義が問題でしょう。だれが読んでも,それは組織的犯罪だなぁと思えるような書き方になっていますか?なっているというなら,条文の文言を指摘して説明して下さい。それができないなら,ただのプロパガンダに過ぎない。
3)「犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意」というが,条文のどこに,「具体的・現実的合意」とありますか?また,あったとして,その定義は何ですか?定義によって限定しないと,拡大解釈されるおそれを払拭することは出来ません。
◆御意見・御指摘2
共謀罪ができると,犯罪を実行してもいないのに処罰されてしまいます。思想・信条の自由が奪われてしまうのではないでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 御意見・御指摘1で御説明しましたように「組織的な犯罪の共謀罪」は,単に犯罪の実行について話し合っただけで成立するものではなく「重大な犯罪」であって,かつ,組織的な犯罪集団が関与する犯罪を実行することについて,具体的かつ現実的な合意をするという行為が行われなければ,処罰の対象となりません。特に,組織的な犯罪集団が,犯罪の実行を計画する場合には,それが実際に実行される蓋然性は極めて大きいものと思われます。
ここで処罰の対象となるのは,飽くまでも,このような合意をしたという行為であって,単に頭の中で考えたり,思ったりしたことが処罰されるというわけではありません。
○ このように,そもそも「組織的な犯罪の共謀罪」は,思想・信条の自由を侵害するものではありませんが,与党修正案においては,そのような御懸念があることをも踏まえ,共謀に加えて,一定の外部的な行為が行われなければ処罰されないという明文の規定が設けられています。
◆私見
ここは,重大犯罪という限定が意味がないこと,組織的犯罪集団の定義が限定不十分であること,具体的かつ現実的な合意という限定が明文化されていないことから,法務省の説明はまったく意味がないものというほかないですね。お疲れ様…。
◆御意見・御指摘3
共謀罪は,その対象となる犯罪の数が600を超えることからも,既遂罪を原則とする日本の刑罰法体系から大きく踏み出すのではないでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」は,すべての犯罪の共謀について,広く一般の方々を対象として適用されるものではなく,重大かつ組織的な犯罪の共謀に限って適用されるように作られています。
すなわち,その対象となる犯罪は
① 重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)であり,
② 組織的な犯罪集団の関与するもの
に限られています。
○ この点,ここでいう重大な犯罪の数が600を超えるということで,適用対象が広がり過ぎているのではないかという御指摘もありますが,これらの罪の共謀の全てについて「組織的な犯罪の共謀罪」が成立するわけではなく,その中で,組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪だけが対象とされていますので,適用対象は極めて限定的なものとなっています。
○ したがって「組織的な犯罪の共謀罪」が,これまでの日本の刑罰法体系から,大きく踏み出すということはないものと考えています。
◆私見
「重大な犯罪」とはいえない万引きなどにも適用がありうること,「組織的な犯罪集団の関与」というが条文上の限定が不十分であることから,ここも反論たり得ていない。プロパガンダというほかない。
特に共謀罪は,これまで未遂段階での処罰がなかったものさえ,処罰する規定となっている。犯罪は,共謀→予備→未遂→既遂と進むが,これまで,既遂になって初めて処罰されていた犯罪が未遂,予備をとばして,共謀段階で処罰されることになるというのは非常に問題があり,まさに,「これまでの日本の刑罰法体系から,
大きく踏み出す」ことになる。
◆御意見・御指摘4
共謀罪は,現代の「治安維持法」であり,拡大解釈されて,一般市民の自由を侵害するようになるとの批判もありますが,大丈夫なのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 本当に心配に思われる方は,治安維持法の条文を一度読んでみて下さい。この法律は,戦前の特殊な社会情勢の中で,国体を変革することを目的として結社を組織することなどを処罰の対象としていました。ここでは,犯罪行為と直接的には結びつかない文言を用いて,犯罪の構成要件が規定されていました。
○ これに対し「組織的な犯罪の共謀罪」は,御意見・御指摘1で御説明しましたように「重大な犯罪」であって,かつ,組織的な犯罪集団が関与する犯罪を実行することについて,具体的かつ現実的な合意をした場合に限って,処罰するものです。
このような要件を満たした犯罪の実行についての合意があった場合に限って処罰の対象としているものであり,必ずしも特定の犯罪と結び付かない結社を組織する行為自体を処罰するものではありません。
○ このように組織的な犯罪の共謀罪は治安維持法とはその趣旨や目的,犯罪の構成要件の規定の仕方,処罰の対象となる範囲などが全く異なっており,この両者が同じものであるという批判は全く当たらないと考えます。
◆私見
「本当に心配に思われる方は,治安維持法の条文を一度読んでみて下さい」というので,読んでみた。
1条1項に「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ10年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」とあり,以下,1条1項の目的に限定した行為(共謀)が犯罪となるとされている。「国体の変革」または「私有財産制度を否認することを目的」としたものに限定して処罰するということは,いまで言えば,「内乱罪」を防止したり,「共産党」を解体することに限定したものだいえるでしょう。このように限定されたはずにもかかわらず,その後,運用の拡大及び「改正」によって,
明らかな虐殺―――――――――――――65人
拷問・虐待が原因で獄死―――――――114人
病気、その他の理由による獄死――1,503人
逮捕後の送検者数―――――――75,681人
未送検者を含む逮捕者――――――――数十万人
治安維持法の犠牲者(1976年『文化評論』臨時増刊)
という結果となり,思想弾圧の道具となったのです。
共謀罪は,「内乱罪」「共産党結社行為」に限定されず,600以上の犯罪を目的とする団体に適用されるわけですから,治安維持法よりも濫用の危険があるというほかないのでは…。
仰せのとおり,治安維持法を読んで,ますます,共謀罪の危険性がよく分かった。
◆御意見・御指摘5
国際組織犯罪防止条約の締結のために必要としながら,国際犯罪とは関係ない国内犯罪の共謀も処罰しようとするのは,国民の取締りを強化したいからではないですか。
◆<法務省の考え方>
○ この点は,大変な誤解があるところです。
「国際組織犯罪防止条約」は,国際社会が協力して組織犯罪と戦うため,国際性の有無を問わず「重大な犯罪」を実行することの共謀を犯罪とすることを義務付けています。したがって,共謀罪の対象を国際的な犯罪に限定することは,条約上許されておりません。
○ 現実の社会では,表面上は,国際組織犯罪であるとは認め難いものの,実際には,その背後に国際犯罪組織が存在するという場合があります。
例えば,薬物密売組織が,他国から薬物を密輸入した上で,ある国でその薬物を密売することが多く見受けられます。この場合,薬物を密売する行為自体には国際性がないと言えますが,密輸入した薬物を密売することで利益を上げるという一連の活動全体をみれば,正に国際的な犯罪と言えます。そこで,このような場合,仮に,薬物を密売するという行為の共謀を犯罪として処罰できなければ,薬物密売組織の犯罪活動の実態に適切に対処することができなくなってしまいます。
○ また,実際にも,これまでこの条約を締結した120か国の中で,このような限定をするために,条約の規定を留保した国があるとは承知していません。
○ このように「組織的な犯罪の共謀罪」について,その対象となる犯罪を国際犯罪に限定していないのは,正に条約の要請に従ったことによるものであって,御指摘のような御批判は,全く的はずれのものだと言わざるを得ません。
◆私見
条約の留保ができないっていうことはないでしょう。条約の趣旨は,「この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。」のであり,まさに「国際的な組織犯罪」に対処することが目的である。したがって,日本の刑法体系とは相容れないから,国際性(越境性)を要件とするという留保をしても,何ら,批判されるものではなく,むしろ,日本政府の人権意識の高さを明らかにすることとなり,賞賛を得るでしょう。
また,「これまでこの条約を締結した120か国の中で,このような限定をするために,条約の規定を留保した国があるとは承知していません。」というが,それなら,120カ国の法律を説明して下さい。単に調査不十分なだけでしょう。
◆御意見・御指摘6
共謀罪は,一般の市民団体や労働組合などの正当な目的で活動している団体を対象として適用されることはないのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 政府案においても,正当な目的で活動している一般の団体の活動が「組織的な犯罪の共謀罪」の対象となることは,条文の解釈上考えられませんが,この点,与党修正案では,この罪の対象となり得る団体が「組織的な犯罪集団」,すなわち,「結合関係の基礎としての共同の目的が長期5年以上の犯罪等を実行することにある団体」に限られることが条文上も明記されました。そして,この「結合関係の基礎としての共同の目的」とは,正にそのために構成員が継続して結合しているという,構成員の継続的な結合関係を基礎付けている目的をいいます。
○ したがって,正当な目的で活動している一般の市民団体や労働組合などの団体については,その「結合関係の基礎としての共同の目的」が,そのような正当な活動を行うことにあることは明らかですのでおよそ組織的な犯罪の共謀罪の対象とされることはあり得ません。
◆私見
いままさに,ある組合の一部が今日は社長を帰さないで徹底的に団交するという方針を固めたとしましょう。そうすると,その組合の一部は,「結合関係の基礎としての共同の目的」が組織的強要罪になるわけです。限定としては不十分です。
◆御意見・御指摘7
捜査機関が,広く一般の団体を対象として,あるいは特定の団体を対象に,組織的な犯罪集団に変わるかどうかを日常的に監視することになりませんか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」についても,特別な捜査方法があるわけではありません。他の犯罪と同じく,与党修正案にいう「結合関係の基礎としての共同の目的が長期5年以上の犯罪等を実行することにある団体」という要件を含め,御意見・御指摘1で御説明しましたような犯罪の要件に当たる行為が行われたという客観的な嫌疑があった場合にはじめて,刑事訴訟法等の法令に従って,捜査が行われます。
○ すなわち,捜査機関においては,このような客観的な嫌疑が認められた場合にはじめて捜査を開始し,刑事訴訟法等の法令に従って収集した証拠に基づいて,共謀の時点において,組織的な犯罪集団が関与するものといえるかどうかを判断するのであり,広く一般の団体を対象として,あるいは特定の団体を対象に,組織的な犯罪集団に変わるかどうかを日常的に監視するわけではありません。
◆私見
ここ←を見て下さい。この事件で公安警察は,徹底的に調査をしたうえで,逮捕したのです。法務省がそういう捜査を違法だとして警察の暴走を止めるなら,まだしも,そういうのを野放しにしておいて,上のようなことを言われてもまったく説得力がない…。
◆最後に
共謀罪は,対象とする団体を「不特定複数人を殺傷することを目的とする団体」「複数の構成員が複数回にわたって,長期5年を超える犯罪において,有罪確定判決を受けている団体」に限定することで,十分,テロや暴力団に対処できるのに,そうしない法務省に重大な疑問を抱いています。
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◆御意見・御指摘1
共謀罪について,犯罪を実行することを話し合っただけで処罰されてしまうというような説明がされることがありますが,本当にそうなのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」は,犯罪について単に話し合っただけで処罰されるというものではありません。
共謀罪が成立するためには
① 実行しようとする犯罪が,重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)であること
② 実行しようとする犯罪が,組織的な犯罪集団の関与するものであること
③ そのような犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意をすること
が必要です。
○ したがって,①②の要件を満たす特定の犯罪行為について,いくら話し合ったり,相談を重ねても,そのような犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意に至らなければ,共謀罪は成立しませんし,また,組織的な犯罪集団の関与しない犯罪の相談であれば,仮に具体的・現実的な合意をしたとしても,やはり共謀罪は成立しません。
○ なお,与党修正案では,仮に①②③の要件をすべて満たした具体的かつ現実的な合意があったとしても,それだけでは処罰されず,更に実行に向けた段階に至ったことの現れとなる外部的な行為が行われた場合に,はじめて処罰することとされています。
○ こういうわけですから,共謀罪について,単に「話し合いに加わるだけで処罰できる「犯罪の実行を事前に話し合っただけで処罰される」というような表現」だけで説明するのは,極めて不正確であり,かつ,誤解を招きやすいものと思います。
◆私見
1)「重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)」としているが,万引きも置き引きもひったくりも自転車窃盗も入るのに,どうして,「重大な犯罪」という言い方ができるのか?
ほかの国で長期4年以上の懲役・禁固刑に処す犯罪類型としていかなるものがあるのか調べてから,こういうことは述べて下さいねぇ。
2)「組織的な犯罪集団」の関与というが,その定義が問題でしょう。だれが読んでも,それは組織的犯罪だなぁと思えるような書き方になっていますか?なっているというなら,条文の文言を指摘して説明して下さい。それができないなら,ただのプロパガンダに過ぎない。
3)「犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意」というが,条文のどこに,「具体的・現実的合意」とありますか?また,あったとして,その定義は何ですか?定義によって限定しないと,拡大解釈されるおそれを払拭することは出来ません。
◆御意見・御指摘2
共謀罪ができると,犯罪を実行してもいないのに処罰されてしまいます。思想・信条の自由が奪われてしまうのではないでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 御意見・御指摘1で御説明しましたように「組織的な犯罪の共謀罪」は,単に犯罪の実行について話し合っただけで成立するものではなく「重大な犯罪」であって,かつ,組織的な犯罪集団が関与する犯罪を実行することについて,具体的かつ現実的な合意をするという行為が行われなければ,処罰の対象となりません。特に,組織的な犯罪集団が,犯罪の実行を計画する場合には,それが実際に実行される蓋然性は極めて大きいものと思われます。
ここで処罰の対象となるのは,飽くまでも,このような合意をしたという行為であって,単に頭の中で考えたり,思ったりしたことが処罰されるというわけではありません。
○ このように,そもそも「組織的な犯罪の共謀罪」は,思想・信条の自由を侵害するものではありませんが,与党修正案においては,そのような御懸念があることをも踏まえ,共謀に加えて,一定の外部的な行為が行われなければ処罰されないという明文の規定が設けられています。
◆私見
ここは,重大犯罪という限定が意味がないこと,組織的犯罪集団の定義が限定不十分であること,具体的かつ現実的な合意という限定が明文化されていないことから,法務省の説明はまったく意味がないものというほかないですね。お疲れ様…。
◆御意見・御指摘3
共謀罪は,その対象となる犯罪の数が600を超えることからも,既遂罪を原則とする日本の刑罰法体系から大きく踏み出すのではないでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」は,すべての犯罪の共謀について,広く一般の方々を対象として適用されるものではなく,重大かつ組織的な犯罪の共謀に限って適用されるように作られています。
すなわち,その対象となる犯罪は
① 重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁錮の刑が定められた罪)であり,
② 組織的な犯罪集団の関与するもの
に限られています。
○ この点,ここでいう重大な犯罪の数が600を超えるということで,適用対象が広がり過ぎているのではないかという御指摘もありますが,これらの罪の共謀の全てについて「組織的な犯罪の共謀罪」が成立するわけではなく,その中で,組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪だけが対象とされていますので,適用対象は極めて限定的なものとなっています。
○ したがって「組織的な犯罪の共謀罪」が,これまでの日本の刑罰法体系から,大きく踏み出すということはないものと考えています。
◆私見
「重大な犯罪」とはいえない万引きなどにも適用がありうること,「組織的な犯罪集団の関与」というが条文上の限定が不十分であることから,ここも反論たり得ていない。プロパガンダというほかない。
特に共謀罪は,これまで未遂段階での処罰がなかったものさえ,処罰する規定となっている。犯罪は,共謀→予備→未遂→既遂と進むが,これまで,既遂になって初めて処罰されていた犯罪が未遂,予備をとばして,共謀段階で処罰されることになるというのは非常に問題があり,まさに,「これまでの日本の刑罰法体系から,
大きく踏み出す」ことになる。
◆御意見・御指摘4
共謀罪は,現代の「治安維持法」であり,拡大解釈されて,一般市民の自由を侵害するようになるとの批判もありますが,大丈夫なのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 本当に心配に思われる方は,治安維持法の条文を一度読んでみて下さい。この法律は,戦前の特殊な社会情勢の中で,国体を変革することを目的として結社を組織することなどを処罰の対象としていました。ここでは,犯罪行為と直接的には結びつかない文言を用いて,犯罪の構成要件が規定されていました。
○ これに対し「組織的な犯罪の共謀罪」は,御意見・御指摘1で御説明しましたように「重大な犯罪」であって,かつ,組織的な犯罪集団が関与する犯罪を実行することについて,具体的かつ現実的な合意をした場合に限って,処罰するものです。
このような要件を満たした犯罪の実行についての合意があった場合に限って処罰の対象としているものであり,必ずしも特定の犯罪と結び付かない結社を組織する行為自体を処罰するものではありません。
○ このように組織的な犯罪の共謀罪は治安維持法とはその趣旨や目的,犯罪の構成要件の規定の仕方,処罰の対象となる範囲などが全く異なっており,この両者が同じものであるという批判は全く当たらないと考えます。
◆私見
「本当に心配に思われる方は,治安維持法の条文を一度読んでみて下さい」というので,読んでみた。
1条1項に「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ10年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」とあり,以下,1条1項の目的に限定した行為(共謀)が犯罪となるとされている。「国体の変革」または「私有財産制度を否認することを目的」としたものに限定して処罰するということは,いまで言えば,「内乱罪」を防止したり,「共産党」を解体することに限定したものだいえるでしょう。このように限定されたはずにもかかわらず,その後,運用の拡大及び「改正」によって,
明らかな虐殺―――――――――――――65人
拷問・虐待が原因で獄死―――――――114人
病気、その他の理由による獄死――1,503人
逮捕後の送検者数―――――――75,681人
未送検者を含む逮捕者――――――――数十万人
治安維持法の犠牲者(1976年『文化評論』臨時増刊)
という結果となり,思想弾圧の道具となったのです。
共謀罪は,「内乱罪」「共産党結社行為」に限定されず,600以上の犯罪を目的とする団体に適用されるわけですから,治安維持法よりも濫用の危険があるというほかないのでは…。
仰せのとおり,治安維持法を読んで,ますます,共謀罪の危険性がよく分かった。
◆御意見・御指摘5
国際組織犯罪防止条約の締結のために必要としながら,国際犯罪とは関係ない国内犯罪の共謀も処罰しようとするのは,国民の取締りを強化したいからではないですか。
◆<法務省の考え方>
○ この点は,大変な誤解があるところです。
「国際組織犯罪防止条約」は,国際社会が協力して組織犯罪と戦うため,国際性の有無を問わず「重大な犯罪」を実行することの共謀を犯罪とすることを義務付けています。したがって,共謀罪の対象を国際的な犯罪に限定することは,条約上許されておりません。
○ 現実の社会では,表面上は,国際組織犯罪であるとは認め難いものの,実際には,その背後に国際犯罪組織が存在するという場合があります。
例えば,薬物密売組織が,他国から薬物を密輸入した上で,ある国でその薬物を密売することが多く見受けられます。この場合,薬物を密売する行為自体には国際性がないと言えますが,密輸入した薬物を密売することで利益を上げるという一連の活動全体をみれば,正に国際的な犯罪と言えます。そこで,このような場合,仮に,薬物を密売するという行為の共謀を犯罪として処罰できなければ,薬物密売組織の犯罪活動の実態に適切に対処することができなくなってしまいます。
○ また,実際にも,これまでこの条約を締結した120か国の中で,このような限定をするために,条約の規定を留保した国があるとは承知していません。
○ このように「組織的な犯罪の共謀罪」について,その対象となる犯罪を国際犯罪に限定していないのは,正に条約の要請に従ったことによるものであって,御指摘のような御批判は,全く的はずれのものだと言わざるを得ません。
◆私見
条約の留保ができないっていうことはないでしょう。条約の趣旨は,「この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。」のであり,まさに「国際的な組織犯罪」に対処することが目的である。したがって,日本の刑法体系とは相容れないから,国際性(越境性)を要件とするという留保をしても,何ら,批判されるものではなく,むしろ,日本政府の人権意識の高さを明らかにすることとなり,賞賛を得るでしょう。
また,「これまでこの条約を締結した120か国の中で,このような限定をするために,条約の規定を留保した国があるとは承知していません。」というが,それなら,120カ国の法律を説明して下さい。単に調査不十分なだけでしょう。
◆御意見・御指摘6
共謀罪は,一般の市民団体や労働組合などの正当な目的で活動している団体を対象として適用されることはないのでしょうか。
◆<法務省の考え方>
○ 政府案においても,正当な目的で活動している一般の団体の活動が「組織的な犯罪の共謀罪」の対象となることは,条文の解釈上考えられませんが,この点,与党修正案では,この罪の対象となり得る団体が「組織的な犯罪集団」,すなわち,「結合関係の基礎としての共同の目的が長期5年以上の犯罪等を実行することにある団体」に限られることが条文上も明記されました。そして,この「結合関係の基礎としての共同の目的」とは,正にそのために構成員が継続して結合しているという,構成員の継続的な結合関係を基礎付けている目的をいいます。
○ したがって,正当な目的で活動している一般の市民団体や労働組合などの団体については,その「結合関係の基礎としての共同の目的」が,そのような正当な活動を行うことにあることは明らかですのでおよそ組織的な犯罪の共謀罪の対象とされることはあり得ません。
◆私見
いままさに,ある組合の一部が今日は社長を帰さないで徹底的に団交するという方針を固めたとしましょう。そうすると,その組合の一部は,「結合関係の基礎としての共同の目的」が組織的強要罪になるわけです。限定としては不十分です。
◆御意見・御指摘7
捜査機関が,広く一般の団体を対象として,あるいは特定の団体を対象に,組織的な犯罪集団に変わるかどうかを日常的に監視することになりませんか。
◆<法務省の考え方>
○ 「組織的な犯罪の共謀罪」についても,特別な捜査方法があるわけではありません。他の犯罪と同じく,与党修正案にいう「結合関係の基礎としての共同の目的が長期5年以上の犯罪等を実行することにある団体」という要件を含め,御意見・御指摘1で御説明しましたような犯罪の要件に当たる行為が行われたという客観的な嫌疑があった場合にはじめて,刑事訴訟法等の法令に従って,捜査が行われます。
○ すなわち,捜査機関においては,このような客観的な嫌疑が認められた場合にはじめて捜査を開始し,刑事訴訟法等の法令に従って収集した証拠に基づいて,共謀の時点において,組織的な犯罪集団が関与するものといえるかどうかを判断するのであり,広く一般の団体を対象として,あるいは特定の団体を対象に,組織的な犯罪集団に変わるかどうかを日常的に監視するわけではありません。
◆私見
ここ←を見て下さい。この事件で公安警察は,徹底的に調査をしたうえで,逮捕したのです。法務省がそういう捜査を違法だとして警察の暴走を止めるなら,まだしも,そういうのを野放しにしておいて,上のようなことを言われてもまったく説得力がない…。
◆最後に
共謀罪は,対象とする団体を「不特定複数人を殺傷することを目的とする団体」「複数の構成員が複数回にわたって,長期5年を超える犯罪において,有罪確定判決を受けている団体」に限定することで,十分,テロや暴力団に対処できるのに,そうしない法務省に重大な疑問を抱いています。
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4 コメント
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- TBありがとうございます。 (fttv)
- 2006-05-28 21:41:40
- 治安維持法よりやばいってことですよね!?
- 団体の対象の限定の程度 (ヤメ蚊)
- 2006-05-28 22:03:42
- という点では,そのように考えられるのではないでしょうか…。
- 拡大解釈? (ks2394)
- 2006-05-29 03:57:02
- 共謀罪は拡大解釈されやすい文みたい!ア-ア、怖い怖い!
- Unknown (fttv)
- 2006-05-29 19:30:56
- さすがに、治安維持法よりは段違いにましやろ思ってたのに
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- 「『組織的な犯罪の共謀罪』をめぐる各方面からの御意見・御指摘について(2006/5/26) 」ここ と5.26付けで法務省が公表している。 法律家としての専門的な突っ込みは「情報流通促進byヤメ記者弁護士」さんここが批判されているので、そちらを熟読下さい。 ...
- この人を見よ:亀井静香 (人工楽園)
- ・共謀罪TV(ティーブイ)亀井静香国民新党代表代行も共謀罪に反対(THE INCIDENTS) 亀井静香氏というと、放言・失言の類も多く、一般にはいい加減な人物のように見られているかもしれないけれども、一方で氏は死刑廃止論者だったりもして、なかなか一筋 ...
- 転載:治安維持法の教訓と共謀罪 (タカマサのきまぐれ時評)
- ■インターネット新聞『JANJAN』から、共謀罪関連の記事を転載。■反対する市民団体の集会の概要を紹介したものだが、なかなか論点がうきぼりになっていて、便利。■リンクは、末尾のもの以外、ハラナが、かってにつけた。 治安維持法の教訓と共謀罪 2006 ...
- 【地震・共謀罪】ジャワ島地震解析、共謀罪日程5/31の危険 (散策)
- ジャワ島、報道によると大変そうです。中山佳子さんのEIC地震学ノートを見にいったがまだ更新されていなかった。土日だからなあ。 おばば東京様のところで、阪神大震災と同タイプの横ずれ断層型と説明されています。 日本も、注意しておきましょう。どうやら地震 ...
- 6月1日、小泉暴走にSTOP!集会@日比谷野音 (grevoの視点)
- レイバーネットより転載 「共謀罪を廃案に追い込もう! 6・1日比谷へ」 6月1日、日比谷野音で「小泉暴走にSTOP!ー共謀罪・憲法改悪国民投票法案・ 米軍再編に反対しよう」の集
- 共謀罪創設の是非~東京新聞の記事(「刑事が反対する理由」)が5月19日の法務委員会で言及 (Because It\'s There)
- 平成18年5月19日衆院法務委員会の会議録を見ると、民主党の平岡秀夫議員が、「五月十八日に報道された」ものと述べて、東京新聞の記事を質疑に利用していました(第164回国会
- ネット規制への道(学術研究弾圧!) (戯言と音楽(ココログ避難編))
- なんか知らぬ間に凄い事になっていた。ほんとに全く知らなかった。ネット規制がいきな
- 残った診断書 (只今修行中)
- 昨年の少額訴訟と任意整理と告訴状作成 の続きから 私が怪我を負った時の診断書にて 都内の警察署へ送付した内容の一部。 昨日の出来事のように頭に焼き付いてます。 打撲と内出血の酷い顔写真(左)と… 私が相手を反撃した時に、 手が腫れてしまったという
- 昨年の少額訴訟と任意整理と告訴状作成 (只今修行中)
- 昨年は凄まじい年でした。住まい先にて災難に遭い、 それが理由で、勤務していた会社を、自主退社することになり、 住んでいた賃貸マンションも解約して転居することになりました。 そして引っ越した先で早々、 解約したところの大家さん方と 敷金とは別の修繕費用...