情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

普天間移転問題・怒りの追撃シリーズ第5弾(`ヘ´)~読売のグアム移転費7割減報道、ねつ造の疑い濃厚

2009-12-30 08:55:04 | メディア(知るための手段のあり方)
 普天間移転問題で、移転先が決まらず米国が激怒しているという雰囲気を醸し出そうとして、国務省に呼び出されたと記者発表を行った藤崎大使及びその発言をそのまま報道したマスメディアについて、問題を指摘している本シリーズ、怒りの第5弾では、いよいよ、読売新聞が11月6日に1面で大きく報道した、米上院が日本側の対応に対する制裁としてグアム移転費を7割削減した、という趣旨の記事がねつ造であったのではないかという疑惑を取り上げる。この読売の記事のせいで、日本が辺野古移転を飲まないとまるで米国がグアム移転を中止するかのような誤解が広まってしまった。そういう意味でやや古い記事だが、検証の意味は大きいと思う(検証のため、記事は冒頭に掲載)。年末のあわただしさの中での渾身の調査結果をぜひ、お読みください。そして、できれば、このシリーズを一人でも多くの人に伝えてください。

 問題の紙面は、冒頭に掲げてあるとおり。「海兵隊グアム移転費7割減」という大見出しの横に「米上院『普天間』影響か」という見出しが立っている。

 そして、本文中では、ゲーツ国防長官が10月に来日した際、「普天間移設の道が閉ざされるようなことがあれば、米議会は海兵隊のグアム移転予算を認めないことになるだろう」と懸念を表明したなどとしたうえ、「予算法案は今後、下院などとの協議で修正される可能性はあるが、今回の米上院の対応の背景には、鳩山政権が海兵隊グアム移転の前提となる普天間移設問題の決着を先送りしていることを踏まえ、米議会がグアム移転費の予算化に慎重になっているとみられる。」と結び、いかにもこの7割減が日本に対する脅しであるかのように書かれていた。

 ところが、上院がグアム移転費を7割減としたのは、7月23日、つまり、鳩山政権発足前であることが分かった。いいですか、鳩山政権成立前ですよ。ですから、鳩山政権の姿勢が予算の削減に関係するはずなどないのです。


「S. 1390: National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010」(上院1390番:2010年度国家防衛予算法)の頁(http://www.govtrack.us/congress/bill.xpd?bill=s111-1390)を見ると、この法案は、7月2日に委員会を通過した後、7月23日に上院を通過した、とはっきり書かれてある。

そして、この法案が成立するに先立ち、大統領府は7月15日、上院に向け、委員会の意見について、修正をするように依頼する次のようなレターを出している。



その中に、グアム移転問題が取り上げられている。



Guam Realignment(グアム基地再編成問題)

The Administration objects to the $211 million reduction for Navy construction on Guam.(大統領はグアムにおける海軍基地予算の2億1100万ドルの削減に反対する)

The Government of Japan has demonstrated its commitment to the Realignment Roadmap and Guam International Agreement by appropriating $336 million to transfer to the United States to help fund Guam development in Japan’s current fiscal year. (日本政府は、3億3600万ドルをグアム基地設置ファンドに送金することを認めることで、ロードマップ合意を実行する意思を示している)

Failure of the Congress to provide a comparable amount for FY 2010 will place Japan’s $6 billion financial commitment to Guam at high risk. (国会が同様の金額を2010年予算で認めなかったならば、日本がグアムに支払うと約束している60億ドルの支出が困難となるだろう)

Furthermore, reductions to the program will increase the U.S. total cost of the realignment. (さらに、プログラムの縮小は、かえって、米国の再編成における出費を増加することになる)

The Administration looks forward to working with the Congress to provide additional details on program implementation to address concerns identified in the report.(大統領はレポートで指摘された改善すべき点についてさらに資料を提供し、国会の協力を得たいと考えている)

 …というわけさ。

(日本がありがたく金を出してくれるんだから、こちらの負担分もちゃんと予算化してくれないと日本がへそを曲げてしまいますよっていうのが大統領府の意見というのも覚えておくべき点だね)


 読売新聞の記者はおそらく、この7月の経緯を知りながら、あえてそれに触れないようにしつつ冒頭のトップ記事を書いたのだと思う。いわゆる「飛ばし」記事の一種だが、悪質さの度合いからいうと、ねつ造といってもいいくらいの記事だ。もし、知らずに書いたのだったら、能力があまりに低いというほかない。

 実は、この「S. 1390: National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010」(上院1390番:2010年度国家防衛予算法)は、7月に上院を通過したが、その前の6月23日に、下院は、「H.R. 2647: National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010」」(下院2647番:2010年度国家防衛予算法)を通過させていた。下院の法案は、2億1100万ドルの削減はなかった。

 そこで、両院で協議され、10月8日、下院の法案によって法律とすること(=2億1100万ドルの削減なし)が合意され、大統領が10月28日に署名した。(http://www.govtrack.us/congress/bill.xpd?bill=h111-2647)

 つまり、読売が1面で煽った記事を書いた11月6日には、すでに2億1100万ドルは削減されないことが決まっていたのだ。

 では、読売の記事は完全なでっち上げだろうか?

 一瞬、疑ったが、さすがに、そこまではしていなかった。

 ようは、基地建設の関連法案(H.R. 3082 — Military Construction and Veterans Affairs Appropriations Act, 2010)の処理が残っており、これについても、上院の決議を前に、大統領府が、退役軍人に関する項目に関する書簡を送ったのだが、その中で、

「The Administration would like to take this opportunity to share additional views regarding the Committee’s version of the bill.」(大統領は、この機会に、委員会の法案について少し見解を述べておきたい)としての念のために、

「Guam Relocation(グアム再編)
The Administration is concerned with the $211 million reduction in military construction funding related to the Marines realignment from Japan to Guam. (大統領は日本からグアムへの海兵隊の再編に関する基地建設予算を2億1100万ドル削減してあることを憂慮する)
This level of reduction will adversely impact the agreement reached between the United States and Japan in February 2009.(このレベルの削減は、2009年2月の米日合意に悪影響を与えるだろう)」

と軽く触れてあるだけのだ。

つまり、基本的な法案はもう成立しているが、従前の上院側の国家防衛予算法との関係で、形の上では、こちらの関連法案も2億1100万ドルの削減がなされる形式になっているので、その点を大統領府が注意しただけなのだろう。

というわけで、読売の記者は、以上の経過を知りつつ、前の大統領府の文書などは完全に黙殺した形で、11月6日、さも米国が怒っているかのような記事に仕立て上げ、日本の読者をミスリードしようとしたのだ。まったくけしからん話だ。

この問題は、ほかのメディアも追いかけているが、いずれも、7月時点のことには触れていないようだ。みんな揃って、日本市民をミスリード~。いったい、日本のメディアって…。年が明けたら、この点について各メディアに抗議をしたいと考えています。

皆さんもこのブログを読んで、読売の記事に疑問を感じたら、問い合わせてみてください。




 




【関連記事】

「普天間移転問題・怒りの追撃シリーズ第4弾(`ヘ´)~歴史のねつ造に加担する大新聞+小沢辺野古反対表明」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005?sess=e9eb06a99cbcc3aa7fab07f6f7026767)

「普天間移転問題・怒りの追撃シリーズ第3弾~国務省記者会見でロードマップが最良と暴言した記者は誰?」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/7c405cba3fa9a8a434aac3724dd7c322)

「普天間移転問題・怒りの追撃シリーズ第2弾(`ヘ´)~国務長官と大使の会議録の情報公開を請求しました」 (http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/e928f1d84b8721b5890b8ef42de9527c)

「頭に来たので、米国務省に誰が大使を呼び出したのかを質問しました~普天間移転問題で」
(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/a23e6f4de4948eb6a03c012b2ca5a0a6)

「普天間移設で米国務長官が現行案受け入れ要請のため大使を呼んだというが、違うでしょう(^^) 」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/aaa7f69e6792bcbffa520e2e027fb0b9)

「ほらね、やっぱり、国務長官が大使を呼び出したんじゃなかったでしょ~普天間移転問題」
(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/4fcd6ce38e643e2fe43c4a8835a87a35)

「グアムに67機+9機を移転するという米国文書原文~普天間+岩国を十分カバー」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/0322e2681ac6a7d746c1330e408044a4)

「朝日新聞の米軍基地特集記事はプロパガンダ?~公開質問状、本日発送」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/d2a25bc47e365601dbb9546f4e66e7bc)

「日本の米軍基地維持費負担は世界の80%~みかじめ料を払うのはやめよう!」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/4efdf7f0142dc0f61376a9dedce10eea)

「国会図書館が米兵らに対する裁判権放棄に関する資料を隠した理由~ひき逃げ死亡事故の遺族らに説明してみよ」(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/f3d52bb9d63bafb68956773b7b18be93)




【PR】






★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。なお、多忙につき、試行的に、コメントの反映はしないようにします。コメント内容の名誉毀損性、プライバシー侵害性についての確認をすることが難しいためです。情報提供、提案、誤りの指摘などは、コメント欄を通じて、今後ともよろしくお願いします。転載、引用はこれまでどおり大歓迎です。