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生と死の瞬間を捉える

2011-04-22 20:41:19 | 人:世相・若者の生き方
大地が激しく揺れ、津波が襲いかかった3月11日。宮城県石巻市の釜小学校の避難所の夕刻。10日後に出産を予定していた女性が突然陣痛を訴えた。周囲は泥と瓦礫なので、病院へ搬送することは不可能である。そこで、自宅が津波に呑み込まれたばかりの7人の男女の看護師たちが立ち上がり、停電中の小学校の保健室が臨時の分娩室になった。

暗闇の中で彼らは交互に懐中電灯を持ち、女性の背中をさすって励まし続けた。保健室にあった救急道具や裁縫道具などを分娩の道具とし、発泡スチロールの箱が乳児の保温箱となった。心を合わせた9時間の奮闘の末、余震が続く中、深夜の3時に男の赤ちゃんが産声を上げた。新しい生命が誕生した感動と、共に難関を乗り越えた喜びに、小学校の夜空には拍手が広がった。

このニュースを読んだ時、3年前の四川大地震の翌日にネット上に発表され、後に「ネット10大感動写真」に選ばれた「出産間近の妻をキスで勇気付ける夫」という写真を思い出した。緊張が続く地震の被災地の街頭で、手術服を着てヘアキャップをかぶった若い男性が、担架のそばに跪いて、衰弱した妊婦の手を握っている。彼らは無言で見つめあいながら、小さな生命が生まれてくるのを待っている。

突然男性は妻の手を唇に寄せ、キスをした。この誰も気づかなかった一瞬を、ある新聞記者がシャッターに収めたのだ。この静かなキスには、深い思いと幸福と感動の気持ちが込められ、彼は無言だったが、「恐がらなくていいよ。僕はここにいるよ。大丈夫だよ。」という心の語った言葉が伝わってくる。ふだんは当たり前だと思っている夫婦のキスに、災害の中で責任感と支える気持ちが加わり、愛といたわりの心が込められているのだ。

山が崩れ、地が裂け、無数の生命が呑み込まれる悲惨な状況の中で、一方では陣痛を経て新しい生命がこの厳しい世の中に生まれてくる…死亡と誕生という人生の二つの極が、同じ時空の中に生起している。そしてこの究極の時空の中で、人の優しさや夫婦の愛が、美しい地球の上で永遠に消えることのない賛美の詩となっているのである。

(C)2011 NY Times Co.


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