ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはんbyFb…宇部 『季樹魚』の、宇部近海の地魚料理

2012年11月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 宇部市の産業観光の視察にて、夕食に用意されたのは、近海の地魚料理。宇部新川駅そばの「季樹魚」では、厚狭の出身の若いご主人が腕を振るう料理の数々に、宇部の地魚の豊かさ、宇部の魚料理屋のレベルの高さを、ひたすら堪能した。この日は魚種ごとの一品料理が順に出され、それぞれの実力を楽しもうという趣向である。料理は宇部沖で水揚げされた魚が大半を占め、コンビナート前の海でどんな魚が揚がるのか、との懸念を一掃。宇部沖は潮の流れがあるためプランクトンが入り込み、栄養分が豊かな海なのだそうで、産業都市の海はなかなか豊穣なようである。

 最初のサワラは、普通のつくりと焼き霜づくりの2種盛り。普通のは身が瑞々しく、赤身の味わいがほんのりとクリア。焼き霜は炙ったところがほっくりした食感で、浅い脂の味が活性化している。セリにかけずに漁師から直送、夜中の水揚げ後5〜6時間寝かせてあるから旨味が熟成している、とご主人。4キロオーバーの大物なのに、繊細な味わいが地物の特徴です、と胸を張る。ヒラメも宇部沖で漁獲された天然ヒラメ。今朝刺し網でとれたもので、しゃっきり歯ごたえが楽しめる。ほのかに海藻のミネラル香が鼻に抜ける。

 ご主人によると、宇部は目の前の湾をはじめ、関門海峡や周防灘水揚げのものも流通していて、周辺の地物はかなり種類が多いそう。その中から、続くワタリガニは宇部を代表するローカル魚介のひとつだ。カニはゆでると旨味が逃げてしまうので、中国の上海ガニの技法から取り入れ、内子と身を塩水で蒸しただけという。土佐酢に軽くひたしていただくと、白身の滑らかな舌触りにオレンジ鮮やかな内子がからみ、ツルリ、ホクホクとまろみのあるうまさ。宇部沖でかに籠漁で漁獲され、メスは抱卵した秋口からが味か良くなるそうである。宇部では別名「月見ガニ」と呼ばれ、満月の夜に産卵のために浮いてくることから名がついた、何だかのどかなイメージの地ガニである。

 ご主人が宇部の魚の中で一押しという逸品は、昼にも丼でいただいたアナゴだ。昼のあっさりした炭火焼とは対象的に、トロトロに柔らかな蒲焼きは、白身の芳醇さが引き出されていてうれしくなる。江戸前風に柔らかく焼き上げることに加え、味の秘訣は10年間継ぎ足し、浸したアナゴの脂で味がついたツメにあり。宇部のアナゴは100グラムほどの中型が主流で、夏が旬だが海が富栄養のため、年間を通して味がいいという。

 そしてアナゴに並ぶ宇部沖のおすすめ漁獲との、トラフグの炭火焼が締めの一品となった。近海に産卵にやってきたのを底引きで漁獲しており、やや小振りなので「小トラフグ」と品書きにある。その分、骨を外した身をそのまま味わえ、プリプリとした歯ごたえは普通のトラフグそのまま、淡白なうまみは炙った加減で活性化している。これから冬にかけてが旬で、2月に入ると小さいながら白子が入るそう。一口でおいしいところを凝縮して楽しめるから、フグ刺もフグちりも超えた究極のフグの味わい方かも。

 ご主人は「自己流」と謙遜されるけれど、料理はいずれもダシも調味も出しゃばらず、魚介の持ち味をしっかり下支えしているのが見事な技だ。宇部の魚にこだわりがあり、その良さを尋ねたら「脂は少なめであっさりした中、『底味』がある」と表現された。素敵な地魚料理の堪能に加え、視察のお題である産業観光を巡ることで、宇部の魅力の「底味」も見極めたいものだ。



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