毎年、ホタルイカ漁が最盛期とのニュースを聞くと、いよいよ春本番なのを感じる。最近は、産地でなくても季節を問わずとも味わえるようになったけれど、この時期の新物の地物はやはり、モノが違う。
花冷えの晩、ぬる燗のアテに軽くボイルして酢味噌をかけたら、もうこたえられない。プクプクの身にホックリしたワタがパンパンに詰まり、モチッと心地よい弾力とともにはじけ出る。立山連峰の豊かな栄養分を蓄えた雪解け水が流れ込む、富山湾に育まれたローカル魚介。小さな体ながら、北陸の春の息吹をいっぱいにため込んだ味に感じられる。
新物ホタルイカの味の良さには、ニュース映像で見る漁の風景も、深みを与える。漆黒の闇の湾で網をたぐると、海中から次第にせり上がってくる、青白い光の糸塊。まさに富山湾の豊饒さを具現する「生命の光」だ。そしてそれを取り込むことが「食」であり、生命を繋ぐことであるのを、改めて思わせる光景でもある。
5月初旬まではホタルイカ漁の見学ができ、毎年訪れようとしつつも未だに叶わないでいる。「生命の光」を生で拝めば、自身の中での三大酒肴のひとつに一層、造詣と味わいが深まるはず。2013年の春味に舌鼓を打ちながら、心は早やくも来春の網揚げの場に飛んでみたりして。