今夜訪れている前橋は「tontonのまち」と称し、豚肉料理で町おこしを展開している。畜産が盛んな土地柄に加え、紐解くとかつて上州で隆盛を極めた製糸業も、深い縁があるという。ヨーロッパからの技術者が多数居住していたことが、西洋の肉食文化の伝播につながり、地場産の豚肉が食材として注目される。前橋の繁華街には当時にしては珍しく、西洋料理店やレストランが目立っていたそうで、工員たちがたまのハレの料理に、カツやポークカレーやソテーを味わっていた、なんて具合だったのか。
とんかつ、豚丼、焼肉、カツカレーと挙げればきりがない中、前橋のソースかつ丼は近所の桐生と並び、一説には発祥の地ともいわれている名物料理だ。昼のイベント会場でいただいたのは、市内のそば処である「大村」が供する、その名も「おそば屋さんのソースかつ丼」。店ごとに工夫するタレは、そば屋だけに「かえし」をベースにしたのがポイントという。
かえしとは、そばつゆの基となる濃縮ダレのことで、醤油と砂糖とみりんを加熱し、じっくり寝かせたもの。そのため、衣に染みたタレは砂糖甘さが分厚いのに、スキッとキレがいい。角のとれた甘さと香りが、どこか郷愁をそそる芳香で、ずっしり詰んだヒレカツの食味をガッチリ支えている。
当時の人々にとって、レストランはちょっと高価でよそ行きだったろうが、和テイストなカツ丼なら手が出やすかったのでは。外国人技師が伝えた「西洋料理」が、前橋の「庶民派ローカル洋食」になる過程は、ひょっとしたら彼らが普段使いしていた大衆食堂やそば屋こそが、担っていたのかもしれない。
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