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精神科医師のブログ。
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「せん妄」の対応について

2013年03月14日 | Weblog
精神科ローテした研修医に質問されたので・・。
ドクター向けの内容です。

「せん妄」はどの病院でも多い問題だと思います。
記憶、見当識障害のある認知症の方が入院した場合、本人の立場になって考えると、
「気づいたら、よくわからない場所にいて、やたら愛想のいい白い服を来た人に囲まれて・・、いろいろなものが繋がっていて不安で仕方がない。」
という状態からの治療スタートであり、生活感のある介護施設と違い、病院はじっとしていなさいという場所ですので混乱は必至です。

看護記録などにしばしば登場ずる「不穏」ということばがありますが、これは正式な医学用語ではなく状態であり、「おちつかない」くらいの意味です。
せん妄には活動性せん妄と低活動性のせん妄があり、活動性のせん妄では不穏になりますが、軽い意識障害が変動しながら持続する低活動性のせん妄は認知症の鑑別診断にあがるような様子になります。

まず、「せん妄」はほとんどが身体疾患であるという認識が何より大切です。

①認知症や脳梗塞などで弱った脳に環境の変化や身体の不調が重なって起きます。
②軽度~中程度の意識障害(レベルは変動)にさまざまな精神症状があわさります。
  認知症や精神病、通過症候群などが鑑別にあがります。
  意識レベル(MMSEやJCSなどでも可)の変動をみるためには頻回の観察が大切です。

③大半には肺炎などの感染症、低酸素、低血糖や高血糖、電解質異常などの全身疾患、脱水、便秘、尿閉、疼痛など不快な症状(訴えられない)、あるいはベンゾジアゼピンやオピオイド、ステロイドなどの薬物の影響があります。メジャー(抗精神病薬)をつかっていたらアカシジアなども有るかもしれません。
  身体診察に応じて胸部レントゲンや一般採血、頭部CTやMRIなどを追加しましょう。
④ちなみに高齢者でせん妄がおきるような状態はどの疾患であれ生命予後、機能予後不良です。
  家族にもしっかり伝えておく必要はあります。


治療は、

①原因となる身体疾患の治療、不快な症状の除去、マイナーなどの薬物は中止。

感染症などの治療や排便コントロール、疼痛の除去などは最優先してください。
慢性尿閉があり、本人にしっかり説明してバルンカテを挿入したらせん妄がおきなくなったケースもありました。

②オリエンテーションをつけ昼夜のリズムをつける。
(日中はしっかり起こす、院内ディケアやリハビリに参加、窓際の光の当たるベッドに変更、夜に寄せる形で少量のメジャーを使用。ロゼレム(メラトニンアゴニスト)などもいいかもしれません。)
③それでも無理なら抑制、持続鎮静・・。


せん妄に対して使うメジャーはセレネースやリスパダールなど何でもいいのですが・・。
定期+頓服という形で処方しておいて頓服使用が多いようなら定期を増量というのがいいと思います。
家族に適応外使用や生命予後を悪化させるリスクについて説明が必要です。
(出来ていないことも多いですが・・。)

・セレネースも0.5mgくらいからなら錐体外路症状もあまりおきず、今でも以外とといいようで年配の先生方はよく使っているようです。(自分はあまり使っておらず手応えはわかりません。)身体科の医師が、高齢者のせん妄であまりに気軽にセレネースやヒルナミン注の指示を出しているのでびっくりします。

・リスパダールは液剤や口腔内崩壊錠などの剤型もあり使いやすいのが利点ですが、即効性のある鎮静作用を認める人とそうでない人の二つに分かれます。そうでない人にリスパダールを増量しても錐体外路症状がどんどんひどくなる一方なので使用にあたっては見極めが必要です。場合によっては中止して別の抗精神病薬に切り替えることを検討します。

・最近はルーランも副作用がすくなく使いやすいです。4mgずつ漸増など。

・糖尿病が無ければセロクエルが錐体外路症状がプラセボと同程度と出にくく、抗幻覚妄想作用の他、抗うつ作用、抗不安作用や用量依存性の鎮静作用もあり使いやすいです。夕、寝る前などに12.5mgずつ漸増しています。(私はこれが第一選択です。)抗うつ効果もあるせかたまに賦活される方もいます。(パラドキシカル反応)

・ジプレキサはあまりに本格的な統合失調症の薬すぎてせん妄には使わないかもしれませんが、副作用として過食発作をひきおこすくらいの食欲増進作用があり食欲が無い末期がんの方のせん妄に使ったりはします。2.5mgくらいから漸増など。

・糖尿病があれば、高齢者用メジャーのグラマリールも使いやすいです。グラマリールの鎮静効果はセロクエルの半分程度の印象です。100mg/日を超えると錐体外路症状がでる人がいます。

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