スズキ・クロスビー

助手　「スズキからスペーシアに続いて、クロスビーも発売されましたね。」

所長　「クロスビーはもう少しあとになると思っとったんじゃが、12月に2台も発売するとはな。」

助手　「やっぱり『スズキの初売り』での効果を狙ってるんですかね。」

所長　「どうなんじゃろうな。ま、目玉が二つもあるに越したコトはないしの。」

助手　「ですね。で、クロスビーですけど、どう思います、やっぱりデカいハスラーですよね。」

所長　「ま、見ての通りじゃな。」

助手　「雑誌なんかでは、やたらとハスラーとは別モノというのをアピールしてますけど、どう見たってハスラーでしょ。」

所長　「ま、言いたいコトはわからんでもないんじゃが。」

助手　「開発したヒトですら、お客からハスラーの小型車版の要望が多かったって言ってますけどね。」

所長　「それもわかるんじゃ。」

助手　「何が言いたいんですか。」

所長　「どっちも間違っとらんじゃろ。デザインや雰囲気は評判のいいハスラーのイメージを取り入れとるのは間違いないし、じゃがクルマ自体はハスラーを大きくしたんじゃなくって、ソリオやイグニスのプラットフォームを使って仕立てたモンじゃし、ハスラーとは別モンとも言えるじゃろ。」

助手　「ああ、そういう意味ですか。」

所長　「ま、スズキのコトじゃから共用しとる部分もあるかもしれんが、根本的には似たようなデザインの違うクルマなんじゃろうな。言ってみればアウディやマツダみたいなモンじゃ。」

助手　「あれはブランドで統一したデザインをしてるワケですし、ハスラーとクロスビーの関係とは違うでしょ。」

所長　「うーん、・・・じゃあフィアット500とフィアット500Xの関係性でどうじゃ。」

助手　「それなら頷けますね。でも500と500Xはコンパクトカーとクロスオーバーとで棲み分けが明確ですけど、ハスラーとクロスビーってどうなんでしょうね。喰い合いとかしないか心配ですけど。」

所長　「市場が違うじゃろうが。」

助手　「そうですか。軽自動車とコンパクトカーって結構、ユーザーが被ってるような気がしますけどね。」

所長　「ま、以前に比べたら、コンパクトカーに乗っとったモンが、躊躇なく軽自動車に乗りかえるようにはなったとは思うんじゃが、それでも市場としてはちゃんと両立しとるじゃろ。」

助手　「どっちのマーケットもよく売れてますからね。」

所長　「5人乗れるトコとか、絶対的なスペースもそうじゃし、あと国際基準の安全面なんかでコンパクトカーを選ぶモンもおるじゃろうしの。あと軽の規格ならではの、いびつなデザインや薄いドアが我満ならんモンもおるんじゃないかのぉ。」

助手　「あと一番大きいのが黄色いナンバーじゃないですか。ボクなんかあれがどうしても好きになれないんですけどね。」

所長　「そうかのぉ。慣れじゃと思うがの。ワシなんか全然気にならんわ。ほれっ、ラグビーのワールドカップかなんかの記念ナンバーで白ナンバーを付けとる軽があるじゃろ。あれの方がよっぽど違和感を感じるがの。」

助手　「ありますね。よりによって白色って、何を考えてるのかワケがわかりませんよね。料金所なんかいい迷惑だと思いますよ。」

所長　「既存で使ってない色にすれば問題ないじゃろうに。」

助手　「言えてますね。で、えーっと何の話をしてましたっけ。」

所長　「なんじゃったかのぉ。」

助手　「ああ、そうそう、ハスラーとクロスビーが共倒れにならないかって話でしたよね。」

所長　「じゃから似とるが違う市場じゃし、心配はいらんじゃろ。」

助手　「わかりました。」

所長　「ワシが思うにクロスビーってクルマを見るのは、いっぺんハスラーを脇に置いといた方がいいと思うんじゃ。」

助手　「どうしてですか。」

所長　「ハスラーと比べてどうのって言うのは、あんまり意味がないと思うんじゃ。さっきも言ったように軽のランニングコストの高さに魅力を感じるモンは、端からクロスビーに靡かんじゃろうしの。」

助手　「かもしれませんね。」

所長　「ハスラーってクルマがなかったとしてクロスビーを見るとじゃな、また違って見え方をしてくるんじゃ。」

助手　「どういうコトですか。」

所長　「コンパクトサイズのクロスオーバーSUVじゃけど、ありそうでなかったサイズじゃろ。」

助手　「そうですね。いわゆるBセグメントベースのC-HRやヴェゼルなんかよりもひと回り小さいですよね。」

所長　「ここんトコのSUV流行りで、気にはなっててもサイズや価格で二の足を踏んどるモンって結構おると思うんじゃ。そういうモンにとっては絶妙のサイズなんじゃないかのぉ。」

助手　「それはそうかもしれませんね。」

所長　「全長はBセグメントベースなら4メーターちょいなんじゃが、どれも海外市場をにらんでつくっとるから、全幅が5ナンバー枠を大きく超えて1800近くもあるんじゃ。」

助手　「確かにコンパクトって言うのを躊躇うサイズですよね。1700をちょっと超えただけで敬遠されるのに、1800はいくら何でもデカ過ぎですよね。」

所長　「価格も平気で200万を超えてしもとるから、買うモンはコンパクトカーの延長線上とは思えんクルマになってしもとるじゃろ。」

助手　「C-HRなんか300万に手が届きそうですからね。」

所長　「そう考えるとクロスビーのサイズや価格って、ヴィッツやフィットなんかと比較してもらえる範疇じゃろ。それでいて室内空間はハイトワゴン並みじゃし、コンパクトカーに乗っとって、次はSUVをって考えとるお客にとっては願ってもないクルマじゃないかのぉ。」

助手　「言えてますね。」

所長　「ソリオのときも思ったんじゃが、そういうトコを突いてくるスズキってホントに上手いと思うんじゃ。ひと昔前は新しい市場を開拓するのってホンダの専売特許みたいな感じじゃったんじゃが、今の国内市場に限っては完全にスズキがその役割を担っとると言えるんじゃないかのぉ。」

助手　「ですよね。」

所長　「クロスビーがハスラーをモチーフにしたのも、その新しい市場にいち早く浸透させるのに、一番適しとったからに過ぎんと思うんじゃ。ハスラーの小型車版をって声があったのももちろん後押ししとるじゃろうけど、それよりもそこに可能性を見つけたからに他ならんじゃろ。」

助手　「かもしれませんね。」

所長　「そう考えれば、ハスラーに似とるとか別モンとかの議論なんかどうでもいい話じゃと思わんか。」

助手　「ですね。」

所長　「スズキがつくりたかったのは、ミニのクロスオーバーみたいなクルマなんじゃないかのぉ。言わば「可愛さと力強さを兼ね備えたモン」じゃ。それを「手が届く価格で」がワシの見たクロスビーってクルマの本質じゃ。」

助手　「プアマンズ・ミニクロスオーバーですか。デザインもよく見れば似てますよね。」

所長　「じゃがもっと似とるハスラーがあるせいで、ダイハツのミラジーノやキャストなんかと違って叩かれるコトもないしの。」

助手　「なかなかの策士ぶりですね。」

所長　「じゃな。願わくばもう少し価格を下げて欲しかったところじゃの。1リットルのターボエンジンにマイルド・ハイブリッドじゃろ。そんな凝ったエンジンだけじゃなくって、普通の1.2リットルのNAを用意して、スタート価格を150万円ぐらいに設定した方がよかったんじゃないかのぉ。」

助手　「確かに一番安いので176万もしますし、イグニスの138万、ソリオの145万なんかと比べると、少しハードルが高い気がしますよね。」

所長　「じゃろ。実際売れるのは1リットルターボになるのかもしれんが、安い価格のモンがあるのとないのとでは、敷居の高さが違うように思えるんじゃ。」

助手　「かもしれませんね。ま、それでも他社のクルマは軒並み200万オーバーですし、今のままでも十分魅力的ですけどね。」

所長　「そうも言っとれんのじゃ。ほれっ、東京モーターショーにダイハツが出しとったDNトレックってクルマがあったじゃろ。ダイハツもおんなじトコを狙ってきとるんじゃ。」

助手　「ありましたね。」

所長　「しかも顔つきを見てもわかるように、トヨタで売る気満々じゃろ。」

助手　「それボクも思いました。タンクみたいなキーンルックっぽい顔つきでしたよね。」

所長　「タンクとルーミーが、ソリオの市場をごっそり持っていったじゃろ。またおんなじコトの繰り返しになるのが目に見えとるじゃろ。」

助手　「内容もデザインもソリオの圧勝だと思うんですけどね。」

所長　「それを覆すだけのチカラがトヨタの販売力とブランドにあるというコトじゃ。」

助手　「ですね。」

所長　「それでも軽ではハスラーがキャストに圧勝しとるんじゃから、一旦人気に火がつけばトヨタですらひっくり返すのが難しいのも事実なんじゃが。」

助手　「ハスラーのように想定外の売れ行きになれば面白いですね。」


参考資料
スズキ・クロスビー（スズキ株式会社）
スズキ・ハスラー（轟クルマ文化研究所）
ラグビーワールドカップ特別仕様ナンバープレート（軽自動車検査協会）
ダイハツDNトレック（ダイハツ工業株式会社）