ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

新入生に読ませたい

2011年08月26日 | 文学

 数年前でしたか、東京大学教員に、学部問わず、新入生に読ませたい本は何か、というアンケートをとったことがありました。

 一位をとったのが、ドフトエフスキー「カラマーゾフの兄弟」でした。
 この結果をどう考えればいいんでしょうね。
 
 俗物の地主と、三人の息子をめぐる物語。

 長男は放埓な退役軍人、二男はニヒルな無神論者、三男は純真で真面目な修道僧。
 彼らが異性の問題、信仰の問題、社会制度の問題、ついには親殺しの問題にまで手を広げた、小説に詰め込める要素をすべて詰め込んだ総合小説ともいうべき大作です。
 骨太な大作ではありますが、私には毒気が強すぎたようで、読後しばし落ち込みました。

 作り物めいた虚構の美を歌う幻想文学や浪漫文学に慣れ親しんだ私には、あまりに鋭利な刃だったのです。

 東大の先生が学部関係なくこれを読めということは、過酷な、身も蓋もない現実を見据えて、力強く生きよということなのでしょうか。
 それはあんまり学生を買い被ってはいませんかねぇ。
 
 いやなものからは目を背けたいのが人の性。
 それをことさらに取りだして並べなくたって、生きているだけで分かってきましょう。

 私が東大の先生なら、迷うことなく、石川淳「紫苑物語」を勧めるでしょう。
 近代作家では最も美しい文章。
 三島谷崎川端も、彼の前では裸足で逃げだすでしょう。
 紡がれる不思議な世界。
 そして繰り返し語られる、精神の運動。

 新入生には、それが文学部以外の学生であればなおさら、文学は人生の生き方を指南したり、人間の生きざまを提示するだけのものではない、ということを知ってもらいたいと思います。
 まるで麻薬のように心に作用してしまう怖ろしいものでもあり、この世ならぬ美を構築するものであり、社会的には害悪を及ぼす、日陰の存在であることを、「紫苑物語」を通して知って欲しいと思います。

紫苑物語 (講談社文芸文庫)
立石 伯
講談社
カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
亀山 郁夫
光文社
カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)
亀山 郁夫
光文社
カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)
亀山 郁夫
光文社
カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)
ドストエフスキー
光文社
カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)
亀山 郁夫
光文社

にほんブログ村 本ブログ 純文学へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしいすごいとても良い良い

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 怒鳴らないで | トップ | どこにいるの? »
最新の画像もっと見る

文学」カテゴリの最新記事