ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

宗教の自殺

2012年05月30日 | 文学

 亡父の蔵書から、エキサイティングな対談集を読みました。
 宗教学者の山折哲雄と哲学者の梅原猛による、日本の宗教をめぐる対談集「宗教の自殺」です。

 ちょうどオウムによる蛮行が世間をにぎわせていた時期に出版されたもので、前半はオウム真理教に対する分析が語られ、後半は仏教や神道、儒教などの宗教について語られています。

 日本人にとっての善悪の問題、倫理観の問題、ニヒリズムの問題などが、広く浅く語られ、専門書のような難しさはなく、広く浅い知的な読み物に仕上がっています。

 その中で、江戸時代までは仏教・神道・儒教などが渾然一体となった日本教とでもいうべき倫理感が日本人の行動を律し、明治以降は天皇を現人神とする国家主義的な考えが日本人の道徳律となり、まがりなりにも欧米におけるキリスト教のような国民全般を律する考えがあったが、戦後はそれらが破壊され、日本人全般を律する一般的な考えがなくなってしまい、欧米におけるようなキリスト教を柱としたうえでの個人主義ではなく、無軌道な個人主義がわが国を覆い、それは今なお続いているということが、危機意識とともに語られます。

 さらには、神道の根本思想である、人間のみならず動物や植物も人間となんら変わらない世界を構成する一部であるという考え、また、日本仏教における山川草木悉皆成仏というような、人間も自然もすべて仏性を有し、仏になれるという考え、つまりは人間中心の宗教から全宇宙をも包含した古いようで新しい宗教の誕生が待たれる、と結論付けています。

 この対談集の話題はあまりに多岐にわたるため、その内容を詳細に紹介することはできませんが、概ね上のようなことが眼目であったかと思います。

 そしてまた、この対談集を通して、私は亡父と対談していました。
 この本が出版された1995年当時、17年前、50代半ばで、宗門の中で出世街道をひた走っていた亡父は、どういう思いでこの対談集に接したたのでしょうね。

 父は日蓮宗の坊主でしたから、私が読み取る以上に深い意味合いをこの本から学びながら、それでいて懐疑的な視点を失っていなかったのではないかと思います。
 私はただエキサイトしながら知的ゲームを楽しむ感覚でしたが、読書している間ずっと、亡父は私のそのような態度をいさめ続けたように感じます。

 学ぶな、批判しろ、というように。

 亡き父との対話を楽しませてくれた、優れた対談集であったように思います。 

宗教の自殺―日本人の新しい信仰を求めて
梅原 猛,山折 哲雄
PHP研究所

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