突然の休暇に無聊を覚え、何と言うこともなく、「英霊の聲」などぱらぱらめくりました。
美輪明宏はこの小説の執筆時、三島由紀夫に2.26事件の青年将校や特攻隊員らの英霊が乗り移っていたと言っていましたっけ。
私はこの小説を高校生の頃読んで、背筋が凍る思いがしたことを、鮮やかに思い出します。
日本が鬼畜米英に敗れたことは、悔しいことこの上ありませんが、勝負は時の運。
敗れて悔しいのなら、次の戦争か、経済力か知りませんが、時代のスタンダードにしたがって、次なる争いに勝利するよう努力する他に道はなく、現実に自民党政権は経済分野において活路を見出し、米英をさんざん苦しめたのでした。
英霊の一人である2.26事件の磯部浅一の獄中記は、鬼気迫るものがあります。
今の私は、怒髪天をつくの怒りにもえています。私は今は、陛下をお叱り申し上げるところにまで、精神が高まりました。だから毎日朝から晩まで、陛下をお叱り申しております。
天皇陛下、何と言うご失政ですか。なんというザマですか。皇祖皇宗に御あやまりなされませ。
ここまで激しく天皇陛下を責めた近代の文章を、私は知りません。
よほど悔しかったのでしょうね。
しかしそれなら、霞ヶ関を占領するようなゆるい真似は止して、ひたすらに宮城を占拠すべきだったのです。
昭和天皇を銃で脅し、操り人形にすればよかったのです。
昭和天皇が抵抗したならば、即時に射殺して、別の言いなりになる宮様を立てればよかったのです。
昭和天皇を信じた、青年将校の負けです。
先日、久しぶりに、いるはずのない人を見ました。
全身黒ずくめで、黒いフードをかぶり、男か女かも判然としませんでした。
私の前に現れ、すうっと、消えていきました。
恐怖も何も感じません。
ただ、奇妙なものを見た、と思っただけです。
三島由紀夫が英霊に魅入られたように、時折みかけるこの世ならぬ者は、私を虜にでもしようというのでしょうか。
その者たちに言っておきます。
私は代弁者になることはなく、愚痴を聞いてやることもできません。
しかるべき人を見つけて、私のまわりをうろうろするのはお止しなさい。
英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫) | |
三島 由紀夫 | |
河出書房新社 |