かねて読み進めていた村田沙耶香の「地球星人」を読み終わりました。
この人の小説を読むのは「コンビニ人間」、「消滅世界」に続いて3冊目です。
「コンビニ人間」や「消滅世界」はジェンダーレスの世界を描いていて、それだけでも世の中の常識から反する、いわば反社会的な作品でした。
しかるに「地球星人」はそんな生半可な小説ではありません。
人間社会の全てを否定しているかのごとくなのです。
最初は世の中というものに違和感を持つ少年少女の淡い恋物語の様相で始まります。
その違和感はますます大きくなり、長じて、人間社会を工場と呼ぶにいたります。
勉強を頑張り労働する、女の子を頑張り生殖する、この二つが地球星の成り立ちであり、それは社会というより工場だというわけです。
それに順応して何の違和感もなく生きるのが地球星人であり、違和感を持つ者は異星人ととらえます。
そこでは価値観が錯綜し、逆転し、また反転します。
さらには殺人、人肉食までもが正当化されます。
それは彼らの合言葉、異星人として、なにがなんでも生き延びる、という価値観からすれば合理的とされるからです。
怖ろしい小説です。
半端なミステリーなど足元にも及びません。
この物語は多くの人に不快感をもたらすでしょう。
私もそうです。
つまらない、のではなく、不快です。
しかし誰もが社会というものに何らかの違和感を感じているものと思います。
それら全ての人々に突き付けられた刃のような作品です。
刺激的な物語を好まない方にはお勧めできません。
この世に対する違和感を強烈に感じている人だけが共感できるものと思います。
少年の頃の私だったらこの物語に共感したかもしれません。
しかし工場の中で暮らし続けてきた私には、もはや懐かしい感覚でしかありません。