21世紀の徒然草

新しいブログ「がん哲学ノート」もぜひご覧ください。http://www.tobebook.net/blog/

第52回「21世紀の徒然草」

2007年07月22日 | Weblog
天下の士の仕事:配慮と哀れみ

 周知のように、先週は「7月としては最大級」の台風4号が沖縄から本土にかけて席巻した。それだけでも異常事態であるのに、16日には中越地方にまた大地震(中越沖地震)があった。まさに自然の威力である。原発のトラブルも連日報道されている。今後も不穏な空気を引きずっていくのだろうか。「落ち付いて住めぬ世を住めるようにしてやるのが、天下の士の仕事である」(夏目漱石)の言葉が鋭く胸に響く今日この頃である。

 地震当日の日に東久留米市で開催された「市民公開シンポジウム」(共催:「30年後の医療の姿を考える会」、「NPO法人白十字在宅ボランティアの会」、後援:毎日新聞社)と「『メディカルタウンの青写真を語る』(to be 出版)出版記念会」は、閑古鳥が鳴くかの事前の予想を大きく裏切り、立錐の余地なき大盛況であった。驚きである。「メディカルタウン」という言葉は数年後、人々の日常語となる予感がする。宮崎から「かあさんの家」(先日NHK「おはよう日本」で放映)の市原美穂さん、熊本から松本武敏先生も駆けつけてくださり、まさに「朋有り遠方より来る」である。聖路加看護大学の井部学長、順天堂大看護学部の稲富学部長も足を運んでくださったのは有り難いことであった。

 当日は、女性の参加者が目立った。病める貧しき人々を世話し、看取ったマザー・テレサの生涯は周知のことであるが、この度、「危機に際して聡明して勇気」ある王妃であった「エステル」、ミレーの「落ち穂拾い」を思い出す「涙をそそる忠実な母と嫁の物語」である「ナオミとルツ」を学ぶ勉強会が、地元の女性の有志でスタートするとのことである。「女を見るのは、やっぱり女の方が上手ね」(夏目漱石)が実感される。

 思えば、今回の出来事は、昨年4月22日東久留米市にあるCAJの女子高校生のレポート課題であった「高齢者社会時代への備え―人生 檜舞台の始まり―」のタイトルで急遽、講演依頼を受けたのがきっかけであった。その時の参加者(秋山正子さん、吉川厚子さん)との、その後の交流が起点にある。大いなる出会いは、どこにころがっているのか、人知を遙かに超えている。我々は「眼前」の与えられた任務を忠実に、全力を持って尽くしかないであろう。

 今回のシンポの盛況は、主催者の皆様の集客力および地元の人々の献身的な働きによるところが大であった。「愉快」な「同好の士」的な仲間の輪の中にいると、現在の自分の置かれた境遇がどうであろうと、「人生いばらの道にもかかわらず宴会」としての人間共同体の優しさをさりげなく感ずるのは、筆者のみであろうか? 「配慮と哀れみ」は、時代を超えた「人生の描写」であろう。

第51回「21世紀の徒然草」

2007年07月17日 | Weblog
「洞窟」から出て演台に立つ

 世の中の関心は間近の参議院選に向かいつつあるが、こちらは変らず「研究・教育」の傍ら、時々「洞窟」から出て演台に立つ日々である。

 まず先月30日(都市センターホテル)に、ビジネスマン対象のセミナーで、「新渡戸稲造とがん哲学に学ぶ」のタイトルで講演した。感想が多数寄せられたことには驚いた。その中で、「認知症のがん患者を持つ家族の視点」からの意見が寄せられた。確かに、いままで筆者は、「患者の視点」からと思い、「癌の研究の目的は、人のからだに巣食った癌細胞に介入して、その人の死期を再び未確定の彼方に追いやり、死を忘却させる方法を成就すること」であると述べて来た。今回は、大いなる気づきの時であり、深く考えさせられた。

 「高齢者社会時代への備え」として、いまや介護は、深刻な国民のテーマであり、且つ社会問題である。何故か、江戸幕府の将軍・徳川吉宗の時代の「目安箱」の意見書により実現したと言われる「老人の福祉施設」である「小石川養生所」が脳裏によぎった。「お茶の水メデカルタウン構想」を夢想する故であろうか。

 今月12、13日は「がん予防大会 in Tokyo」(学術総合センター、日本がん予防学会、日本がん分子疫学研究会、日本がん疫学研究会合同)の主催者の1人として、且つ、市民公開シンポジウム「がんの原因と予防法:アスベスト、ピロリ菌、肝炎ウイルスについて考える」では「環境発がんの温故創新」のタイトルで講演した。「環境発がん」については発がん研究者の見解が後世に大きく問われる。アスベストの事例が示す如く、「先楽後憂」から「先憂後楽」への発想の転換が発がん研究者には強く求められよう。

 14日は「日本高齢消化器病学会(北海道大学学術交流会館)」の教育講演「加齢と発がん:天寿癌の時代に向けて」であった。札幌での講演では、何故か「クラークと新渡戸稲造」に触れたくなる。15日は「日本小児肝臓研究会」(水月ホテル鴎外荘)で特別講演「がん哲学:小児肝臓病研究者へのメッセージ」であった。「山極勝三郎、吉田富三」の肝発がんの歴史的貢献を述べ、「日本肝臓論」(『われ21世紀の新渡戸とならん』イーグレープ刊、ページpp54−55参照)にも触れた。台風の接近の荒天に関わらず、会場の多くの聴衆には驚いた。企画者の熱い思いを感じた。早速、参加者からお葉書を頂いた。「大変示唆に富んだお話で楽しく聴かせていただきました。……特に若い世代へ向けての啓発活動には我が意を得た思いです」。「涙なくしては語れぬ」大いなる励ましの言葉である。

 人間のさりげない配慮と優しさと支えが身にしみる今日この頃である。