TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」9

2017年07月11日 | T.B.1962年
東一族との争い。
村はその噂で持ちきりになる。

「山一族と協定結ぶらしいぜ」
「なんで、山と」
「東と戦いが起こりそうなのに
 山までは相手に出来ないって事じゃないのか?」
「そんなにまずい状況なのか」

落ち着かない。
どこへ行っても皆がこの話をしている。

「もっと、明るい話をしたら良いのに」

タイラは思う。
いや、
別の事を考えて
避けているのは自分の方だろうか。

雪が降る時期が明けたら
いよいよ戦いが始まる。と
そう村人が噂している。

「おかしいよな。
 春になったら始まるのが戦いだなんて」

あ、と
タイラは湖の畔で
武器の手入れをしている青年に気がつく。

「ツバメ」

春の鳥の名を持つ、西一族。

どういう訳か
彼は黒い瞳を持っている。

敵の、東一族の色。
村内での立ち位置は
あまり、良いものではない。

だが、狩りの腕前は
かなり上位に位置していて
タイラとは違い、間違い無く、
戦いに引きずり出される。

「こんな時ばかりって思わないか」

少し離れた所から
タイラが尋ねる。

ん?

と、ツバメは彼を見る。
長い前髪の底から
黒い目が覗く。

タイラはかつて出会った東一族を思い出す。

「……えっと」
「ああ悪い、急に話しかけて」

多分、彼はタイラが誰だか
分かっていない。

うん、そうだよね。

「えっと俺は」
「やっと、戦えるって、俺は思う」

暫く沈黙した後
ツバメが答える。

「え?」
「多分、この目の色は
 敵地の潜入に役立つはずだ」
「……潜入」

戦地に赴くというそれだけではない。
命を落とす危険性は
格段に上がる。

「今まで何の役にも立たないって
 そう思っていたこの目が
 やっと使える」

「認めてもらえるって事か?」

「そんなんじゃない。
 悪いけど、そこまで村に忠義はない」

あっさりと、切り捨てるように
ツバメは言う。

ただ、と続ける。

「あいつを守れるのかな俺。ってそれだけ」

ツバメの言うあいつが
誰のことだかタイラは知らない。

けれど、
あぁ、いいな、羨ましいなと
そう思う。


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「彼女と母親の墓」4

2017年07月07日 | T.B.2020年

「さっき前列は見たから、その後ろから見るわ」

 彼女の言葉に、彼は頷く。

 彼と彼女は、順番に墓を見る。

 墓地は、広い。
 東一族すべての墓が、集まる場所。
 きれいな墓石もあれば、もう忘れられてしまった墓石もある。
 ところどころ、花が供えられている。

 ひっそりと参る人がいるのだろう。

 探しながら、彼が訊く。

「君のお母さん、どんな人だった?」
「私の?」
 彼女が考える。
「姿は、はっきりと覚えてはいないんだけど」
 彼女が云う。
「私と母様は、いつも部屋の中にいたよ」
「うん」
「母様は、絶対に部屋から出なかったなぁ」
「……なぜ?」
「なぜだろう」
 彼女が首を傾げる。
「父様がお外は危ないよ、て、云ってたのかな……」

 そう云いながら、再度、彼女は首を傾げる。

「父様と母様が一緒にいた感じが、思い出せないわ」

「無理に思い出さなくていいよ」
 彼が云う。
「思い出せることだけで」

「うん」
 彼女が頷く。
「あとね。覚えてるのは、母様は刺繍をよくしてた、てこと」
「へえ」
「母様、上手だったな」
 彼女が続けて云う。
「母様の一番の刺繍は誰かにあげちゃったんだって」
「そうなんだ」
「本当は父様のために、その刺繍をしたらしいんだけど、」
「…………」
「何でほかの人にあげちゃったんだろう……。私も見たかったな」

 彼女が云う。

「私も、刺繍出来るんだよ」
 彼が頷く。
「母様に教えてもらったの」
「そう」
「今度、私が縫ったの、見てくれる?」
「うん」

 彼女が呟く。

「母様、優しかったなぁ」
「……そっか」
「…………」
「どうかした?」
 話すのをやめた彼女を、彼は見る。

 彼女は、目を赤くしている。

「どうしたの?」

「哀しくなっちゃった」
「そっか……」

 彼が云う。
「ごめん」
「ううん」
 彼女が首を振る。
「あなたに、母様のこと聞いてもらえてよかったわ」
 彼が頷く。
「俺も、聞けてよかったよ」
 彼女は目を赤くしたまま、笑う。

 彼は、思わず、彼女を抱きしめる。

「ごめんなさい」

 彼女は泣く。

 彼は空を見る。

「今日は、もう、やめておく?」
「うん」
 彼女が云う。
「母様のお墓を探すの、また今度にする」

 彼女が云う。

「ありがとう」
「うん」
「帰るね」

 彼の手から、彼女が離れる。

「また、会える?」

 彼女の問いに、彼が頷く。

 彼女は走る。
 屋敷へと向かって。

 墓地の入り口で一度立ち止まり、振り返る。

 そこには、もう誰もいない。



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「タイラとアヤコ」8

2017年07月04日 | T.B.1961年

「なんだか、人が少なくない?」

狩りの班を見回しながら誰かが言う。

「少ないというか
 全体的に、若くなった?」
「だよね」

主力である20代の者達が
狩りに参加しないことが多くなった。
指示を出しているのも、また、若い者だ。

「村境に行っている、とか」
「なんで?」
「さぁ?」

一族の伝統である狩りよりも
大切な任務という事になる。

そんな会話を横目に
タイラは目を伏せる。

東一族との争いが始まる。

アマネの言葉を思い出す。
実力のあるもの達は
そちらに引っ張られている。
村境なら見張りだろうか、そう考えれば筋が通る。

「どうしたの、タイラ?」

アヤコが声をかける。

「ん?うーん、なんにも」
「なんにも無いようには見えないけど」

怪しいなぁ、と言うアヤコに
違うよ、と答える。

「なんにも出来ないんだなって」

北一族の村であったことも
誰かの璃族も、誰かの恋路も、
もしかしたらそれ以外の事も、
なにか大事な事がすぐ近くで起こっても

多分、タイラは
ただの通りすがりで
それに関わる事は無いのだろう。

言ってる事が分からない、と
アヤコは頭を捻る。

「んんん?
 よく分からないけど、何かしたかったの?」
「そうかもしれない」
「関わったら
 案外大変だったりするのよ」
「だろうね」

「でも、 自分だって少しぐらいはって
 思うんだよな」
「男の子ね~」

「おい、静かに、
 班分けをするからな」

そう言いながら今日の指示役であるノゾミが
二人の横を通っていく。

「タイラとアヤコと
 そうだな、あぁ、カナデに、テイコ」

すらすらと、
指さしながら行くノゾミに
えぇえ、とタイラとアヤコが声をあげる。

「ちょっと」
「また俺達同じ班かよ」

二人は誰が班を組んでも
同じになる事が多い。

ちょっとした呟きのつもりだったが
ノゾミは立ち止まって振り返る。

「……そういえばそうだな、
 考えたこと無かったけど」
「無かったのか」
「無意識というか何というか」
「無意識」

悪い次から気をつけるよと答えながら
ノゾミは言う。

「セットというか、そうだな
 お前ら二人で1つみたいな感じだからな」


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