「部長、お忙しそうね」
気がつくと木村なつみが背後からボクの作業を見ていた。
彼女も専務の受注した物件の事務処理で残っていたのだ。
「いつまでやっているの? ねえ、もういいかげんにして帰りません?」
見回すと、いやに照明があかるくムダに隅々まで照らしている。
ふたりきりだ。
手が滑って在庫管理機に打ち込む数字を間違えた。
「ねえ、この発注書って、S社にファックスするんでしょう? わたし流してあげるわ」
発注は在庫数、出荷傾向、今後の売れ行きを在庫管理機で確認しながら、毎日ボクが発注している。
・・・管理の女子社員に任すこともできるが、ムダを生じないため、日替わりの細かな配慮が必要なのでボク自身が行っている。
「よろしくお願いします。S社のファックス番号はわかりますか?」
「もちろん分かりますよ。いつも横目で見ているから・・・」
彼女は弾むように立ち上がった。
「部長さんは車で帰っているんでしょう? 終わったら乗っけていただいていい?」
「・・・」
「部長さんって、たしか三鷹でしょう? わたしは高井戸だから途中よね・・・」
最後の発注書をS社に送り込むと、彼女は言った。
「いいですよ・・・」
いつもは専務に送ってもらうんだろうな、とふと思った。
「まあ、カワイイ車ね」
サニーの助手席に乗り込むなり言った。
・・・そりゃ、専務の車とくらべりゃ・・・ 専務の車は三菱デボネアだ。
彼女は本来ボクの補助で入社させた派遣社員だが、今は専務の受注したプラントの物件の処理が忙しいので手伝っている。
しばらく会話がなかった。
街のネオンが両脇を流れて行った。
部長、変なうわさがあるの知っている?」
突然、なつみが口を開いた。
「専務とわたしのことよ。そんなことあるわけがないじゃない。バッカみたい!」
「・・・」
「何? 部長! 信じているの? まさかそんなことないわよね?」
-続くー