昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

有名人(1)女の魅力(1)

2008-11-19 06:09:49 | 女の魅力
 赤坂のサントリーホール。
 開演一時間前に着いてしまった。
 幸い座席券の交換を行っていて、寒い中を行列しなくて助かった。
 目の前のサンドイッチ・レストランで食事を取る。
 屋内はすでに満員で外のテーブルになったが、柱のヒーターが点火されていてそんなに寒さを感じない。

 アークヒルズの二本の高層ビルの窓々には煌々と明かりが灯っている。
 それに挟まれたスペースには、これから始まる夜の歓楽に期待を膨らませる人、仕事はまだ宵の口とばかり胸を張って歩いている人、ひと息入れるために出てきた人たちが交錯する。

 幸い席は一階の前から八列目、真ん中に近い。
「何言ってるの、音楽を聴きにいくんでしょ。そんなもの必要ないでしょう。笑われるわよ」
 家を出るとき妻にオペラグラスを持っていくように言ったら笑われてしまったが、ここなら確かに必要ない。
 今日の主役は千住真理子なのだ。
 

 梅田俊明指揮の東京都交響楽団が演奏するヨハン・シトラウスのオペレッタ<こうもり>序曲から始まった。
 滑らかで、ソフトな、心を落ち着かせるような調べが、逆に何かを期待させるように胸を波立たせる。
 素晴らしい演奏に拍手が起る。
 
 さらに一段と拍手が高まると、腰高に尾羽をつけた白に輝くドレスの裾をなびかせ、ヴァイオリンと弓を胸の前に掲げ、千住真理子が胸を張り、颯爽と登場した。
 まだ一音も発しなくても胸をときめかす存在だ。
 
 彼女は、オーケストラの紡ぎ出すベートーヴェンの〈ロマンス>第2番、へ長調、作品50の音色に、目を閉じ静かに十分身を浸らせてから、しなやかに弓を撓らせて力強い音を繰り出す。
 ウイーンの古い民謡を基にしたというクライスラーの<愛の喜び、愛の悲しみ>では、魂に響くような低い音色で訴えるように奏でる。
 同じクライスラーの<中国の太鼓>では、ハイテンポのテクニックを惜しげもなく披露し、全体的に荒々しいとも言えるほどの力強さを示した。

 演奏が終ると、どうだと言うように弓を高く掲げ、笑みを含んだ口元をきっと引き結んで、白鷹のような鋭い目つきで観衆の大きな拍手に応える。
 今、最高に油が乗った千住真理子を十分に観賞した。

 「何?これ、まだ始まる前から書いていたの?」
 妻がぼくのアンケート用紙を見て笑った。
 <とてもよかった>に丸をつけ、<今後呼んでほしい演奏家>に千住真理子と書いてある。
 
 
 


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