昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(551)「暗黒星雲から還ってきたレロレロ姫」冒頭部分。

2019-08-22 06:12:11 | エッセイ
 「暗黒星雲から還ってきたレロレロ姫」冒頭。
 
 (1)神社の森
 昨日の大雨と風で神社の境内は濡れた落ち葉に敷きつめられていた。
 拝殿に向かう参道の右手の最近増築した社務所の白木もしっとりとした薄茶色に染まっている。
 小山内は秋祭りを控えて、その準備のために久しぶりで境内に足を踏み入れた。
 小山内 茂、56歳。
 熊本市の中心にいくつか所有する不動産業を営みながら、宮司として郊外の神社に催事の時だけ顔を出す。
 がっちりとした体躯に顔はいささか厳ついが、頭髪が後退しておでこが広くなっていることで優しさを醸し出している。
 仕事づきあいの面では、神職を兼ねているということもあって人望がある。

 湿った空気とサクサクという音に包まれて境内に足を踏み入れた。
 真ん中にブナ科シイ属の常緑樹、スダジイの大木が四方に枝を広げている。
 直径1メートルを超える幹、高さは15メートル以上もある。

 この社(やしろ)を父親から引き継いでから30年以上になる。
 ・・・私ははたしてこの木のように成長しているのだろうか・・・
 彼は、鬱蒼とした木々の濃い緑に包まれる感触に浸りながら歩を進めた。
 いつものように、至福のひと時となるはずだった。

 しかし、この時ばかりは何か得体のしれない、今までに経験したことのない、ぞーとするような気配を感じた。

 豊かな自然の香りの中に、
 何か生(なま)の異臭を嗅いだのだ。