ボクらは案内も乞わず、珍品を眺めるように辺りを見回していた。
奥のカウンターペースから店主だろうか、中年の眉毛の濃い、わし鼻の男が、笑みを浮かべるべきかどうか決めかねている表情で現れた。
「わたしどもは日本の東京で、工作機械関連機器、工具の販売を行っている者です。こちらが社長の渡辺です・・・」
ボクは英文の名刺を差し出した。
・・・貢物を奉る属国から来た使者みたいに・・・
「おお、東京! ずいぶん遠くからきたんだ・・・」
店主はしげしげと名刺を眺め、ボク達に目を移した。
今までの疑わし気な鋭い目つきが大きく見開かれて、貢物を眺める君主のような笑顔になった。
「商品がとても魅力的に陳列されていますね。こんなニューヨークの街中でお客さんが買いに見えるんですか?」
疑問に感じていたことが自然と口をついて出た。
「いや、いや、ここはわが社の顏さ。つまりウチのショーウインドーというわけだ」
・・・だよな、この辺には町工場なんてなさそうだし・・・
「商売はほとんど電話とかファックス、郵便で受けているんだ。ウチの販売部を見てみるかね?」
そう言いながら、大柄な店主はもう歩き出していた。
店主、社長、ボクは大中小のかたまりで階段を上った。
2階が事務所になっていて、何人かの男女がいたが、我々珍客にちらっと眼をくれただけで忙しそうに、日本ではまだ一般的でないパソコンを操作したり、電話に取りついて大声でしゃべっていた。
「これが、わが社の販売員だ!」
店主がとつぜんボクの目の前に分厚いカタログを突きつけた。
500頁はあるだろうか?
黄色い表紙にブルーの文字で「工作機械・機器・工具カタログ」とある。
手に取るとズシリと重い。
繊維が入っているような肌触りの丈夫なものだ。
「ジスイズセールスマン?」
渡辺社長がわし鼻に直接声をかけた。
「そうさ、これをウチのお客さんに予めお届けしてあるんだ。無料でね・・・」
「・・・」
「これを見てお客さんが注文してくるんだ。どうだ、優秀なセールスマンだろうが・・・」
わし鼻が膨らんだように見えた。
─続く─
奥のカウンターペースから店主だろうか、中年の眉毛の濃い、わし鼻の男が、笑みを浮かべるべきかどうか決めかねている表情で現れた。
「わたしどもは日本の東京で、工作機械関連機器、工具の販売を行っている者です。こちらが社長の渡辺です・・・」
ボクは英文の名刺を差し出した。
・・・貢物を奉る属国から来た使者みたいに・・・
「おお、東京! ずいぶん遠くからきたんだ・・・」
店主はしげしげと名刺を眺め、ボク達に目を移した。
今までの疑わし気な鋭い目つきが大きく見開かれて、貢物を眺める君主のような笑顔になった。
「商品がとても魅力的に陳列されていますね。こんなニューヨークの街中でお客さんが買いに見えるんですか?」
疑問に感じていたことが自然と口をついて出た。
「いや、いや、ここはわが社の顏さ。つまりウチのショーウインドーというわけだ」
・・・だよな、この辺には町工場なんてなさそうだし・・・
「商売はほとんど電話とかファックス、郵便で受けているんだ。ウチの販売部を見てみるかね?」
そう言いながら、大柄な店主はもう歩き出していた。
店主、社長、ボクは大中小のかたまりで階段を上った。
2階が事務所になっていて、何人かの男女がいたが、我々珍客にちらっと眼をくれただけで忙しそうに、日本ではまだ一般的でないパソコンを操作したり、電話に取りついて大声でしゃべっていた。
「これが、わが社の販売員だ!」
店主がとつぜんボクの目の前に分厚いカタログを突きつけた。
500頁はあるだろうか?
黄色い表紙にブルーの文字で「工作機械・機器・工具カタログ」とある。
手に取るとズシリと重い。
繊維が入っているような肌触りの丈夫なものだ。
「ジスイズセールスマン?」
渡辺社長がわし鼻に直接声をかけた。
「そうさ、これをウチのお客さんに予めお届けしてあるんだ。無料でね・・・」
「・・・」
「これを見てお客さんが注文してくるんだ。どうだ、優秀なセールスマンだろうが・・・」
わし鼻が膨らんだように見えた。
─続く─