昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(101)ある老人の一日

2011-12-14 03:51:32 | エッセイ
 朝ドラ<カーネーション>を見ていたら涙が出た。
 このところ涙もろくなってはいたが涙が頬を伝うなんて初めてだ。
「女のくせに」と腐されてもへこたれない娘。罵倒しても心の中では娘のことを人一倍思っているオヤジ。娘だってそんなオヤジの気持ちは痛いほど分かっている。
 
 突っ張っている父娘の葛藤が胸を打つんだよな。

 先週、先輩が自宅で突然意識不明になって救急車のお世話になった話をしていた。
 すぐ意識は回復し、検査の結果も異状なしだったとは幸いだった。
「三途の川の手前で引返してきたよ。いつお迎えが来てもおかしくない歳になったということだ。キミらも覚悟しとかなきゃ」
 歳のそう違わない我々は神妙な気持ちで拝聴していた。

 今日も、借りた本の期限がきているのであわててオタオタ探しまくったら、自分の本棚に入れ込んでいた。しかも、出がけに財布を忘れた。
 涙ばかりじゃない老人特有の現象が多くなった。

 「声がおかしいわね」日曜日の忘年会の帰りのエレベーターの中で言われた。
 そうなんだ。のどがイガイガするんだ。時々せき込む。夜がたいへんだ。がんがんせき込む。布団もベッドからずり落ちるくらいだ。
 それでも朝4時ごろにはブログを書かなければという意識が働いて目覚める。
 口がからからだ。口を開いて寝ていたようだ。晩年のオヤジを思い出した。

「どうなの? 風邪は」と家内から言われる。
「熱がないからどうってことないけど、たまに咳が出るな・・・」と強がっている。
「でも、今日の映画はムリかな。観ながら咳したらまずいだろ。ひとりで行って来てよ」
 山本五十六の映画の招待券を頂いたので楽しみにしていたのだが。
「病院へ行って診てもらいなさいよ」
 病院は嫌いだが行かざるを得なくなった。 

 朝9時早々だというのに15席ほどある待合室はほぼ満席だ。
  (こんな感じだ)
「どうしましたか? 風邪ですか?」受付の看護婦さんから聞かれて「咳が出るんです。特に夜が・・・」と答える。
 いつもと違って深みのある声だ。何かいつもと違う自分が表現できたような気がしてちょっとうれしい。
 そのうち診察室へ呼び込まれ院長先生の診察が始まる。
「痰は出ない? 鼻水は?」のどの奥に灯りを当てて覗き込み、何かカルテに書きとめながら先生が聞く。「はい、胸を開けて、深呼吸して」忙しなげに、申し訳程度に聴診器を当てて「咳止めの薬を出しておきます。胸に貼るやつもね。お風呂へ入ってもかまいません。それでも咳が止まらないようだったらまた来てください」それで終わりだ。
 聴診器って、背中にも当てるんじゃないの?
 でもこんな具合で処理しなかったら次から次へと来る患者を捌ききれないよな。

 薬を薬局でもらって、その足で借りた本を図書館に返して家へ帰ったら、いつもピーピーと迎えてくれる雀の声がしない。
 亡くなってからもう2週間経つが、何て言ったって12年も連れ添ったのだ。
 まだまだ頭の隅に引っかかってる。