飽食山河

詩を書いています。感想、コメント歓迎です。

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スティグマ(精神のゴミ箱・巨匠)

2017-01-02 03:36:15 | 2016.10

<精神のゴミ箱>
 私の友人は、精神の持って行き方を心得ているらしい。誰も害さないようにすれば、自分を傷つけなくて済むらしい。そんな単純な作用反作用があるだろうか。例えば、あなたの人生がだいぶ上手くいっているみたいで腹立たしいわと言われた場合、どうするのと問うたことがある。すると、彼女は数秒黙って考えた後、そう、実は私は過去に不正を働いたことがあるのと答えた。私は、不正とは何か気になったけど驚きのあまりそれ以上問うのをためらった。それを見て取ったのか彼女は、聞かないでくれてありがとう、と静かに言ってその場を去った。
 人間同士の真実の追究を避けているだけじゃないのかと私は思うのだけど、彼女のやり方は真正面から否定できないから困る。


<巨匠>
父は著名なエロ漫画家で、修業時代は当時恋人だった母がネームを切っていた。倒錯的な文学を下地にした母の知識は今日までの父の作風に大きな影響を与えている。父が「片方だけでは不十分な果実、の続きはわかるか?」と私に問うた。母のいる前でだ。私はその問いにすらすらと答え、さらに父の作品は物語を超えた物語性を持つことを指摘し、賛辞を表した。
真剣な会合を現実が侵し始める。「天」というキイ・ワードが重要になる度、私の頭に電流が走り、束の間覚醒させる。私はまたしても夢にしてやられている。そこで、「天王田竜太郎」を参加させることにした。彼が夢と現実の仲介役となりスムーズにことを運ばせる。さきほどのような時空の引き攣れは治まり、私も集中できる。しかし、一座の討論は尽きない。そこで、次回までに言いたいことを便箋にしたためて持ち寄り、朗読することと決め、今回の会合は解散した。私は言うべきことは忘れないうちにとすでにそこへ封筒を置いてきた・・・。

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スティグマ(孤独・空き缶)

2017-01-02 03:32:46 | 2016.10

<孤独>
 朝、目が覚めると孤独だった。さっきまで見ていた夢のせいだろうか。家族の夢だった気がするけれど。団欒があって、幸せだった。ところが、起きた途端に強烈に孤独を感じたのだ。後頭部の真ん中あたりを糸で吊るされ理屈をずるっと引き抜かれたように、容赦ない寂寥である。
 その感覚は昔に体験したことがある気がしていた。思いついたのは、恋だ。幸せな時のあとに、必ず我に返る時がくる。恋とは、自分が一人になったり二人になったりする感覚だ。どんなに素晴らしい知能を持つ人でも我を失ってしまう。立派な名のある人が驚くほど滑稽なことをしでかす。それもみな、世界は自分一人のものではないという受け入れ難い現実のせいである。恋をしているときは、航海の途中の嵐のように、頭の先からつま先まで全身で荒波に立ち向かっている気分になる。嵐が去り海が凪ぎ、高まった心拍数と穏やかな情景との間に違和が生じる。強烈な体感を忘れられずまた懲りずに追い求める。パーティーでは得られない冒険をせずにはいられないのだ。
 こうしてあの感覚を分析してみても、なぜ孤独感などに襲われたのか結論を導き出すことはできない。夢のせいかと思っていたら、次の日も同じ感覚で目が覚めたのである。また起きるのに余計に時間がかかりそうだ。


<空き缶>
 石山が崩れるような音がしたので玄関に様子を見に行く。何も変わったことはない。奥に戻ろうとすると再びカラカラと小山の崩れる音がする。音のする方へ視線を向けると、ビニール袋の空き缶が互いにぶつかって音を出しているのであった。普段はプラスチックのゴミ箱にビニール袋を被せ、そこにぽいぽいと飲み終えたビール缶を放り込んでいるのだが、いつもよりペースが早かったのか、週の半ばでゴミ箱から溢れそうになってしまったため、ビニールごと中身を引き抜き無造作に床に置いていたのだ。飲み終えたビール缶は水で簡単にすすいだ後軽く握って潰す。ビニールの口を縛っていないものだから、その適当な凸凹が自由に押し合いへし合いしていたというわけ。たまに入り込む小さな虫の他に生命を感じる僅かな時間である。

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スティグマ(母の中の私・鉄骨)

2017-01-02 03:27:27 | 2016.10

<母の中の私>
 粥のような薄暗い闇に息を詰まらせ横たわる。遠く、遠くと誰かが叫ぶ。汽車のように鼓動する。ポケットの中で溶け出した飴が恥、恥、恥と打刻する。水を一杯失敬、その都度、闇、闇があるだけ。
 母は花を植える。玄関先で作業に夢中で風に自分を翻す。耳鳴りの滝の狭間にムスカリの声がする。金属の唾染みわたる夢の別れ路。釈迦に抱かれむ我が身を思ふ。


<鉄骨>
 深夜2時の海のような闇の中で息を潜める鉄骨を私は眺めていた。4メートルの掘削の質量を無機に帰す骨組み。昼間に喘いだガランゴロンの音を見事に隠した夜の姿。不用品を運ぶ私を意に介さず佇む不遜。私は地揺れを味方にこの鉄塊を放り投げてやりたくなる。偉いのはこっちだと怒鳴りつけたくなる。
 渇く。水玉もようの上半身がパチパチ弾けて海綿になる。コーヒーも飴玉もビールもいらない。芝生に付いた朝露でもかまわない。枯葉を持ち上げる霜なら祝福だ。裸でコンクリートに身を投げるくらい狂った本能だ。

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スティグマ(列車)

2017-01-02 03:23:02 | 2016.10

 知らない列車に乗り目を閉じている人がいる。座席の一番端に腰掛け手摺りにもたれ顔を伏せている。何かを思い巡らせているのか、それとも何かを忘れようとしているのかは分からない。あるいはただつまらない想念と戯れているのかもしれない。冬至を通過してようやく出口が見えてきたトンネルをその人は目をつむったままで走っている。
 その人を私と呼ぼう。私はやるせなさを感じている。幾度も確かめたつもりだったものごとにまたもやびっくりさせられ、情けなく思っている。不安や絶望と言えば話は早い。私は怖い、そしてその怖さには慣れっこになっている。私は怖さと新しさの区別が曖昧になる。そう考えた瞬間に私は切り取られる。私の身体には新聞みたいな文字が前後不覚に書かれている。やがて別の一枚の絵になる。それが彼だ。私は彼になる。
 彼は列車に乗り移動する。駅をいくつか過ぎる間、彼はやわらかく腕を組んだまま安らかでいる。彼がもし誰かに見出されたとしても彼は意に介さない。停車する度に曇り空は彼を景色から消散させる。もう少しで彼は家に帰る。

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名前

2016-12-10 17:04:11 | 2016.10

この世のすべての芸術品から名前を奪ってみればどうだろう。

彫刻も本もスピーカーも額縁もいっしょくたに並べてみればどうだろう。愉快だろうか。

人は皆他の客をぬすみ見ることのないように衣服や匂いなどを工夫してみればどうだろう。

どれくらい大きな――もしかしたら小さな――空間が必要になるのだろう。

壁や天井やまたは毛織りマットの用意が要るとしたら誰が調整するのだろう。

武器や人間の体力で破損したら誰がそれらを修復するのだろう。

私は私の名前を好いたことはないが名前を奪われてみればどんなふうになるだろう。

賛成する人々の点呼を取ることはできないが人々は満足してくれるだろうか。

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とりもどす

2016-11-29 17:00:05 | 2016.10

ことばのかたちが

なんだかちがうように感じる

東京の交差点に

ほうりこまれたり

またそこからひきずり出されたり

いっぱいの足あとが体をベチャベチャと

うう

私はしゃべれなくなる

 

真ん中だ 真ん中

あたまのちょうどマグマのところ

手の平でそうっとなでる

これは宝物だ

失ってはいけない

つよくする

なでてちょっとずつかたちをつくる

 

ああ

やっぱりこれだ

さっかくではない

とうとい

私はだいじにする

一生 ほんものとする

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終わりの日 3

2016-11-23 17:52:15 | 2016.10

きれいなジャージに着替えて

雨に洗われた露地を行く

電話に出なかったのは

気付かなかっただけ

そんな言い訳も上手く伝えられない

 

少しくたびれたサンダルで

商店街を抜け郵便局へ行く

誠意はこれ限りだ

手続きをとる

郵便局員はとても愛想が良い

 

そして

コンビニの棚の間をさまよって

いつものカップラーメンを買う

四百六十七円ちょうどを散らかし

レシート一枚持って帰る

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2016-11-20 17:11:59 | 2016.10

命令下す

君は負けだ

早くおりてこい

もう一度言う

われわれの勝ちである

君には投降しか

ないのだ

 

無線聞かそう

発見したかい

わかったろう

そう

そういうことだ

ならばいさぎよく

示しなさい

 

わかっているね

誰にも言わないね

たとえ身内にも

だまっていないと

どうなるか

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きみにふれたい

2016-11-17 16:56:30 | 2016.10

細いつながりを見た気がした

まちがいだったら

そうだったらすまない

しかしきみの足首の白い

靴下の

なによりそれがそうだろう

連絡をくれないか

きみと分かち合いたいことがある

きみは額縁から出てきてほしい

帽子を被ったままでいいから

来て

きみにふれたい

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小犬とポスト

2016-11-12 16:52:42 | 2016.10

ワタシも辛くて困るのです

どうかこの小犬らに雨宿りをさせようと

通行人に訴えますが誰も振り返りません

思うにポストであるワタシは

日常紙ばかり食べていますゆえ

声を出す腑がしっかり育っていないのでしょう

 

雨は強く降ります

小犬らはきゃんきゃん吠え続けます

ワタシは傘もさしませんから

動物を助けてやる能力を持っていないのです

電信柱と対になって風景をつくる

たったそれだけの役割を負っているのです

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