平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

仰げば尊し(3)

2008-03-07 21:54:20 | 教育
栗栖先生(中一の時の担任)は、芦田伸介を上品にしたような風貌で、外見は紳士そのものだった。スポーツ万能で女子生徒に人気があった。一見、穏やかな紳士だけれど、外見とは裏腹に、実はたいへん怖い先生だった。叱るときはたいてい鉄拳が飛んできた。

あるとき、5人の男子生徒が叱られた。彼らは女の先生の授業時間にふざけていて、それが栗栖先生の耳に入ったらしい。先生は授業そっちのけで、5人を教室の前に立たせ、低い声で説諭する。5人は45分間立ったままだ。そのうち脚がだるくなってくる。真直ぐ立てなくなる。フラフラ左右に揺らぎだす。先生はそんなのお構いなし。前を右に行ったり左に行ったりしながら、説諭を続ける。
授業終了のチャイムが鳴った。チャイムがなると同時に、「歯を食いしばれ」の号令が飛ぶ。5人は、つぎに来るものが解っているから、思い切り歯を食いしばる。先生は、右から順番に、バシバシ殴っていく。最後の5人目のところでは、勢い余って腕時計が吹っ飛び砕け散ってしまった。

先生はとにかくよく殴った。だが、それが問題になったことは一度もない。殴られた男子生徒で、親に告げ口するやつなんか一人もいなかったし、告げ口しても「お前が悪いから殴られたのだろう」と反対に叱られるのが落ちだったからだ。
私は殴られたやつらを羨望の眼差しで眺めていた。先生の殴り方がカッコ良かったし、殴られたやつらは、殴られたことで男になったように見えた。彼らも殴られたことを誇らしげに語っていた。

私は殴られなかった。私が悪戯をしなかったから殴られなかったのだが、たとえ悪戯をしたとしても、先生は私を殴らなかっただろう。先生は、殴ってもよい生徒と殴ってはいけない生徒とを、はっきり分けていた。私は後者に分類されたことが悔しかった。「痛いだろうが一度は殴られてみたかった」。当時を振り返ってそう思うことがある。

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