たのしみは艸のいほりの莚敷ひとりこころを静めをるとき
たのしみはすびつのもとにうち倒れゆすり起すも知らで寐し時
たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外に能くかけし時
たのしみは妻子むつまじくうちつどひ頭ならべて物をくふ時
たのしみは物をかかせて善き価惜みげもなく人のくれし時
たのしみは朝おきいでて昨日まで無りし花咲ける見る時
たのしみは常に見なれぬ鳥の来て軒遠からぬ樹に鳴しとき
たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき
たのしみは門売りありく魚買て烹る鐺の香を鼻に嗅ぐ時
たのしみはまれに魚煮て児等皆がうましうましといひて食ふ時
たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来りて銭くれし時
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみは昼寝せしまに庭ぬらしふりたる雨をさめてしる時
たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮てある時
たのしみはとぼしきままに人集め酒飲め物を食へといふ時
たのしみは三人の児どもすくすくと大きくなれる姿みる時
たのしみはたのむをよびて門あけて物もて来つる使えし時
たのしみはつねに好める焼豆腐うまく烹たてて食せけるとき
たのしみは小豆の飯の冷たるを茶漬てふ物になしてくふ時
たのしみはいやなる人の来たりしが長くもをらでかへりけるとき
(橘曙覧)
たのしみはすびつのもとにうち倒れゆすり起すも知らで寐し時
たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外に能くかけし時
たのしみは妻子むつまじくうちつどひ頭ならべて物をくふ時
たのしみは物をかかせて善き価惜みげもなく人のくれし時
たのしみは朝おきいでて昨日まで無りし花咲ける見る時
たのしみは常に見なれぬ鳥の来て軒遠からぬ樹に鳴しとき
たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき
たのしみは門売りありく魚買て烹る鐺の香を鼻に嗅ぐ時
たのしみはまれに魚煮て児等皆がうましうましといひて食ふ時
たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来りて銭くれし時
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみは昼寝せしまに庭ぬらしふりたる雨をさめてしる時
たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮てある時
たのしみはとぼしきままに人集め酒飲め物を食へといふ時
たのしみは三人の児どもすくすくと大きくなれる姿みる時
たのしみはたのむをよびて門あけて物もて来つる使えし時
たのしみはつねに好める焼豆腐うまく烹たてて食せけるとき
たのしみは小豆の飯の冷たるを茶漬てふ物になしてくふ時
たのしみはいやなる人の来たりしが長くもをらでかへりけるとき
(橘曙覧)