巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
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青年と師

2018-10-02 19:59:39 | 
「青年と師」

時は魔法だと師に教わった
泣き虫だったあの青年は
大草原を駆け巡る駿馬を
操れるほどの大人になった

そっと耳を澄ませば
律動よく聞こえてくる足音
遠い未来を夢見た青年は
いつしか時の流れに追い付いた

辿り着いた先は新世界
海が、空が、大地が待ち受ける
時の魔法に身を任せてみる
自然と勇気と希望が溢れた

夜空の星屑に語りかける

あり得ない再会を信じて
灰色に時が流れた二十代
もう振り返る必要もない
新しい世界の幕を開いた

行き場のない魂を葬り
自身の源流と向き合う

誰にともなく、そう宣言した

新世界の主は言う
風の音を聴け、と
ごうごうと吹き荒ぶ嵐は
心の壁を突き破らないか
ふと不安に駆られて胸に手を当てる
それは母なる大地の胸
青年は思わず両手を空高く掲げた
流れる雲が指の間をすり抜けてゆく
師は他人事のように微笑んだままだ
不意に父が、母が恋しくなった

すっかり窶れた心を解すように
青年は束の間郷里の道を歩んだ

時は魔法だと師に教わった
青年は永遠に青二才であった

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