巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

過ぎゆく時を知らず

2018-02-17 08:21:53 | 
「過ぎゆく時を知らず」

傷を負った一羽の水鳥
騙しだまし生きる人生の中で
僕は何かを見失ってしまった
決して消えぬ痛みとともに

誰にでもわかるだろう
生きることは容易くない

過ぎゆく時を知らず無邪気に生きれば
いつまでも永遠の子供でいられるのに

僕は浜辺から遠くの海をいつまでも眺めた
ポケットの携帯電話をオフにして、誰からの連絡も絶って

鮮明に甦る
迫りくる漆黒の海、海、海



不思議と怖さはない、もうそこまで足が向いているから
消え去っても仕方がないちっぽけな存在
すべてが終わるはずだった、二十年前のあのとき
誰が、何故、繋ぎとめたのだろう

《歩を進めるにつれて水面が脛、膝、腰へと上がってきた。水圧に押されて、だんだん思うがままに足を動かせなくなる。水が遂に胸の高さまで来た。俺は視線の先に見える青空を見た。もうこの青を二度と見ることはないと思った。そして目を瞑り、穏やかだがずっしりと重みのある水流に負けないよう、海底をしっかり足の指で掴んで脚をゆっくりと前に進める。既に思考は不可逆であった。》

あれから時は遥か過ぎゆき
生に対して冒涜を働いた僕は
もう大人になってしまった
随分と年老いてしまった
いつからか負った傷の癒えぬままに
いつまで生を紡ぐのだろう

現実は虚構よりも恐ろしい
悪魔が舞い降りた傷だらけの我が人生
それでも命を繋ぐ
人生は生き地獄

過ぎゆく時を知る僕は
衰え、劣化し、腐敗して
世界の素晴らしさを知りながらも
この人生からの退場を待つばかり