巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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哀悼

2016-12-26 21:07:53 | 
静かに、この両の瞳を閉じると
心の中にうっすらと視界が開け
幻想的な我が町の情景が広がる
静謐な川の流れ
神秘的な雪化粧
色鮮やかな冬花火
響き渡る除夜の鐘
いつの日か僕が帰るべき故郷の地

そして僕は目の前の現実に愕然とする
ポップなアートに彩られたビル群に囲まれ
僕に似た僕じゃない僕はやはり僕ではなく
発狂したように無色透明の叫び声を上げる
無関心な人々
無抵抗な群集
無意味な行動
無価値な存在
誰もが誰でもないこの都会のど真ん中で
僕は自分を正常に保つ術を見失ってしまった

僕は僕じゃない僕をひととき救うために
とっておきの隠れ家にひっそり身を潜める
長髪のマスターは不敵な笑みを浮かべ
僕の前で腕組みしたまま、壁の油絵に見入る
僕は声を振り絞り、ラムコークを一杯頼んだ
マスターから手渡されたタンブラーを掴み
黒褐色の液体を勢いひとくちで飲み干すと
僕はカウンターに頭をガクリと垂れる

嗚呼、GM
自由ってヤツは一体何処にあるんだい
いつだって教えてくれていたじゃないか
僕を束縛する総ての箍を解き放ってくれ
なあ、お気に入りのナンバーがあるんだ
お願いだ、聴かせておくれよ、マスター
肉声ではもう二度と聴けないけれど
今ここで、この場所で聴きたいんだ

freedom! '90

壊れた世界はテンポよいリズムに身を委ね
僕じゃない僕は初めて僕自身と融和する
この掃き溜めから逃げ出せないことなど
愚かな僕だってとっくのとうに気付いている
だからこそ、声高に自由を叫ぶ君に憧れた
僕はこの一曲とこの一杯で正気を取り戻し
もう少しだけこの掃き溜めで生きる力を得る
永遠に自由を訴える君の亡骸を弔いながら

キューバリバー
クバ!リブレ!

僕は君の教え通り自由を勝ち取るために
ラムコークの力をほんの少しだけ借りる
かつて君が孤独の中で追い求め続けた自由
君は此の世を離れ、自由に近付いたのか
魂は帰るべき場所へ帰り着いたのかい
僕はまだ当分の間、不自由とともに生きる
この息苦しい現世に別れを告げるまで

Rest In Peace, George.