花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

本当の個性とは (下)

2012-04-09 22:42:34 | Book
 「イタリア紀行」におけるゲーテと「例の大尉」との比較を続けます。ゲーテは自分を磨くものが何かを知っていて、それにこだわる姿勢を貫きます。一方、「例の大尉」は「色々のことを、雑然として頭に持って」おり、専一に何かに励むということはなさそうです。この両者の態度を料理に喩えてみます。「例の大尉」は料理とも言えなさそうですが、「闇鍋」でしょうか。出来上がったものは変な味とは言えても、個性的な味と言える代物ではありません。では、ゲーテはどうでしょう。ゲーテは和食なのか中華なのか、あるいはイタリアンなのかは分かりませんが、ある料理を極めようとしている料理人で、その極めるべき料理と相容れない料理には手を伸ばそうとしません。自分が選んだ料理の道をひたすら極め、極め抜くことで前人を超えようとします。斯道において今まで誰も到達したことのない高みに達した時こそ、新しい料理の世界を創造出来ると信じています。奇を衒ったり、人と違ったものや、新奇なものを追い掛けることには背を向けて、和食なら和食の精髄を求めて研鑽を積みます。誰もが仰ぎ見るケルンのその上に、新たな石を積上げることで、自分だけの境地が切り開けると信じる、そういう立場です。ゲーテにおける本当の個性とは、自分が選んだ道をただひたすらに突き抜けていった、その先に見えてくる性質のものだと思います。人がやらないことではなく、人が出来ないことにこそ、ゲーテの目指す個性があるのだと思います。