花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

本を買うきっかけ

2011-08-10 22:36:29 | Book
 今年生誕500年となるイタリアの芸術家のジョルジョ・ヴァザーリが、ルネサンス期の美術家たちについて書いた「芸術家列伝」が白水社から刊行されました。ルネサンス期の美術を語るうえで古典中の古典の、その筋では有名な本だそうですが、私はモンタネッリとジェルヴァーゾの「ルネサンスの歴史」(中公文庫の上下巻)を読むまで、ヴァザーリ自身すら知りませんでした。「ルネサンスの歴史」の中では、芸術家を論じた箇所で必ずと言っていいくらいヴァザーリへの言及があるので、名前が頭に残っていました。
 そんなところに、朝日新聞朝刊の1面にヴァザーリの「芸術家列伝」の広告が載っているのが目に留まりました。会社の帰りに本屋に寄ってみると、「芸術家列伝」は3巻本で、2巻にはボッティチェルリやラファエルロとならんでティツィアーノが取り上げられていました。以前、何かの本で見たティツィアーノの絵が印象的だったので、ティツィアーノの本がないかと探したことがありましたが、ティツィアーノ単独の画集などはないようで、その時は仕方なく手元にある美術史の本の中でティツィアーノの絵を拾って見るにとどまっていました。こんな背景があったので、何となく気になっていたヴァザーリの本に、これまた何となく気になっていたティツィアーノの評伝が載っていると知り、この本を買おうかどうしようか、心の中の秤が右に揺れ左に揺れしだしました。つん読になっている順番待ちの本が何冊かあるので、決心しかねていたある日、通勤本をかばんに入れ忘れて家を出てしまいました。本なしで落ち着かない気持ちを、行きはなんとかしのぎましたが、帰りも本なしでは辛いなと思っていたところ、たまたま所用で社外に出たので、途中本屋に寄って「芸術家列伝2」を買いました。「今朝、本を忘れたのは神のご配慮なのだ」と屁理屈をこね、自ら背を押して片方の秤に分銅を置いたのです。 
 早速、帰りの電車で冒頭のボッティチェルリの章を読みました。ボッティチェルリはなかなかの悪戯好きであったとの記述があったりして、絵画の作者としてしか知らなかった人物が、当然のことながら、やはり生身の人間の面を持っていたことがとても新鮮に思えました。読み始めたばかりですが、同じルネサンスの時代を生きた著者ならではの、エピソード豊富で時代の雰囲気をよく伝える読み物のようです。朝、家を出る時、かばんの中をしっかり確認して、しばしの車中でルネサンス人の生き生きとした姿に触れたいと思います。