花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

「1Q84」は楽しめました

2009-06-15 23:01:54 | Book
 あるところに大変流行っているレストランがありました。大勢の固定客がいて繁盛していました。このたび、7年振りに新しいメニューを出すことになりました。固定客の期待は、それはもう凄い盛り上がりようです。それらを考慮すると、大きな冒険も出来ませんでした。従来の味付けを踏襲しつつ、新しい素材を使うなどして新味を出し、新作料理を提供しました。変わらない部分と変わった部分のバランスが絶妙で、これまた人気メニューとなりました。

 これは、村上春樹さんの「1Q84」を読んだ感想です。行き帰りの地下鉄の中で、1000ページを超える長編を楽しむことが出来ました。

 天吾はため息をついた。「あまり明るい見遠しがあるようには僕には思えません。しかしいずれにせよ、もう後戻りはできないようですね」
 「もし後戻りができたとしても、もとの場所には戻ることはむずかしかろうね」と先生は言った。

 とか、

 「お客さん、そういえばどことなく、その頃のフェイ・ダナウェイに雰囲気が似てるんじゃないですか」
 「どうもありがとう」と青豆は言った。微笑みが口元に浮かんでくるのを隠すために、努力がいくらか必要だった。

 のような、村上さんならでは言い回しも健在でした。登場人物は多彩で、ディテールの描写が凝っているので、ひとりひとりが魅力的です。「サハリン島」や「猫の町」など小物類の存在感もバッチリです。ただ、味付けの妙や素材の豊富なバラエティが仇となってしまったのでしょうか。物語として見た場合、私には前作の「海辺のカフカ」の方が、胃の腑にすとんと落ちました。