くせじゅ文庫

久世樹(Que sais-je?)の画文集です。

『年年歳歳』

2020-10-01 09:22:47 | 雑記
《年年歳歳花相似 歳歳年年人不同》
(毎年花は同じように咲くけれど 見る人は年毎に変わってゆく)【唐、劉希夷】

 この場合の花は、寿命50年のソメイヨシノではなく、樹齢2,000年の山高神代桜か1,500年の根尾薄墨桜(いずれもエドヒガン)が相応しいでしょう。対する人は、信長時代の人生50年から、せいぜい延びても100歳が定め。世代を繋ぐ「再生産年齢」を40 歳とすれば、一本の桜は40〜50世代もの人の世を見届けることになります。

《願わくば花のしたにて春死なんその如月の望月の頃》【西行】

 西行は己が身一代の儚さを辞世に遺しましたが、唐の詩人は40代余の栄枯盛衰を俯瞰して、パースペクティブ(遠近観)の対比が鮮やかです。ちなみに彼の国の悠久を我が国に探せば、さしずめ次の句などが近いでしょうか。

《光陰のやがて薄墨桜かな》【岸田稚魚】

 水墨画に「三遠」という構図法がありますが、劉は頂上から下界を見下ろす「深遠」、西行は身の丈から山頂を仰ぐ「高遠」、稚魚は前山から後山を遠望する「平遠」といえるかもしれません。

 いろいろあった9月が終わり、今日から10月。気持ちを切り替えて、囚われのない「三遠」の目で、残る幾年歳かの花を愛でて、「いざ生きめやも」。