司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合における代表取締役の予選の問題

2018-03-18 14:00:44 | 会社法(改正商法等)
 取締役会設置会社において「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合に,定時株主総会における任期満了改選の方法については如何?

 取締役会設置会社でない株式会社においては,取締役は,原則として代表権を有する(会社法第349条第1項本文)のであり,「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合の株主総会の決議は,代表取締役以外の取締役から代表権を剥奪する行為である。したがって,会社法第349条第3項には「取締役の中から代表取締役を定める」とあるとはいえ,取締役の選任を決議する定時株主総会において,同時に代表取締役を選定する決議を行っても,全く問題はない。

 しかし,取締役会設置会社にあっては,これとは異なる。取締役会設置会社においては,「取締役会は,取締役の中から代表取締役を選定しなければならない」(会社法第362条第3項)のが原則であるから,「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合においても,株主総会は,取締役の中から代表取締役を選定しなければならないのである。

 すなわち,取締役会設置会社にあっては,「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合においても,株主総会は,未だ取締役に就任していない者の中から代表取締役を予選することはできない。定時株主総会における任期満了改選の場合には,定時株主総会の終結後に取締役会を開催して代表取締役を選定するように,いったん定時株主総会を終結させて,取締役の退任及び就任の効力が生じた後に,臨時株主総会を開催して,代表取締役を選定しなければならないこととなる(取締役の構成が同一であれば,定時株主総会における選定であっても医療法人等のように予選として救済され得るが,構成が変わる場合には,不可である。)。

 この理は,臨時株主総会において,ある者を取締役に選任し,当該者を代表取締役に選定したい場合にも当てはまる。例えば,4月1日から取締役に就任し,代表取締役にも就任する予定の者を3月中の臨時株主総会において選任しようとする場合においては,4月1日に取締役に就任する効力が生じた後に開催される取締役会又は株主総会で代表取締役に選定しなければならない。「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合であっても,未だ取締役に就任していない者の中から代表取締役を予選することはできない,である。

cf. 平成29年2月24日付け「株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めは有効(最高裁決定)」


 ところで,原則的には上記のとおりであるが,「条件付き決議」ということであれば,OKということになりそうである。

 「代表取締役選定の件」の議案の内容として,

「第〇号議案「取締役選任の件」が承認可決されて,被選任者〇〇氏から就任承諾がされ,平成〇年4月1日に取締役の就任の効力が生ずることを条件とする」

という点を明記すべきということである。

「平成〇年4月1日から就任する」という「期限付き決議」ではなく,上記のとおりの「条件付き決議」である。

「そんな当たり前のことを・・」であるが,3月の臨時株主総会の時点では「未だ取締役に就任していない者」について,代表取締役に選定する決議を行う上では,議案の内容として,「条件」を明記すべきである。

 となると,話は戻って,定時株主総会における任期満了改選の場合においても,「条件付き決議」ということをきちんと明記すれば,定時株主総会における選定決議もOK(明記しなければ不可)ということになりそうである。

「株主総会の決議によって代表取締役を定める」旨の定款の定めがある場合であっても,取締役会における選定権限が奪われるわけではないというのが通説であるので,定時株主総会における任期満了改選の場合においては,原則どおり取締役会で選定決議を行う,というのが無難な選択であるが。


 なお,前提となる「取締役の選任」の議案は,複数名を選任する場合,一つのパッケージと考えがちであるが,本来,1候補1議案であると解されている(中間試案の補足説明「株主提案権」の項を参照。)。したがって,複数名の候補者のうち,一部の者については賛成多数で選任され,その余の者については賛成少数で選任されないという事態も起こり得る。賛成多数で選任された者が3名を割り込めば,権利義務承継の問題も生ずる。万一このような事態が生じたとしても,代表取締役の候補者が取締役として選任されていれば,代表取締役の選定決議については,特段の問題はない。

cf. 平成20年6月13日付け「代表取締役権利義務者」
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