新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

「書き替えられた国書」

2011年04月08日 | 本・新聞小説

Img_0002 副題は「徳川・朝鮮外交の舞台裏」。田代和生著、中公新書。タイトルからすると読みにくそうで硬い本にも思えますが、いい意味でこれほど予想を裏切って資料がわかりやすく面白く解説されているのに感激しました。

徳川の厳しい規制の世に、朝鮮外交の国書を対馬藩独自でひそかに文字の一部を書き替える、それも国をゆるがすほどの書き替え、つまり改竄・・・・。

そんな国書偽造を知ったのはNHKのドキュメントで、ほどなく展覧会でその国書そのものを見ました。それに関連した「朝鮮通信使」という言葉。ローマ帝国やルネサンスといった華やかな時代の本を読んでいた私には、ある意味で新鮮で身近な歴史の発見の驚きでした。

ちょうどそこに登場したのが日経の新聞小説、辻原登「韃靼の馬」。朝鮮通信使を軸に、朝鮮と日本の銀の流れ、大阪での先物買い、政治経済金融、各藩の通信使の接待の仕方と費用、供応した料理の細かいメニュー、大阪町民の暮らしなどが細やかに描写されて、深く資料を読み込んだストーリーの展開に驚きました。表現された文章も美しく、情景や心理描写もさすが芥川賞受賞作家だと納得がいきます。

辻原氏がどんな資料を参考にしたのだろうかと検索するうちに見つけたのがこの新書本でした。日本から見た朝鮮、朝鮮から見た日本、まさに歴史はドラマよりも面白く、きちんとした資料に基づいているのが印象的でした。

入院している母のもとに通う乗り物の中で一気に読み上げました。その母も見守りの中で一人で杖を使って歩けるようになりました。92歳、恐るべき生命力に深く感銘を受けています。

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