玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

植生断面調査

2016-09-01 03:23:16 | わかってきたこと
2016.9/14
玉川上水、朝鮮大学校近くの送電線近くの植生
− ベルトトランセクト調査 −


はじめに
 玉川上水は東西に続く緑地で、東西にはほぼ同質な植生が続きますが、南北は大きく変化します。南からみれば直射日光があたる林縁があり、多くの場所では少し高くなって木が生えており、間接光があたり、柵があって林床群落があって崖のように上水となり、対岸の北側にはその逆が続きます。ただし小平の鷹の台周辺では南側には舗装道路があり、北側は遊歩道になっています。そして遊歩道の北側に小さな水路があります。このような推移を表現するにはベルトトランセクトという表現法が適しています。玉川上水に対して直交する帯(ベルト)をとって横切る(トランス)というイメージです。ベルトの幅のとりかたで結果に影響がありますが、私は1m幅のベルトを何箇所もとるのがよいと考えました。幅が広いと出現する植物は多くなりますが、上層の木や地形の違うものが入るので、植生の性格がはっきりしなくなるからです。

方法
 今回は上層の木があるかないかでどう違うかを記述しようとして、それにふさわしい場所として朝鮮大学近くの送電線が走っている場所を選びました(図1)。送電線管理のために樹木が伐採されており、上層木がない場合、下生えの植物がどうなるかを知るのに好都合だからです。


図1 調査地(黄色線)

 調査は上水の北側を2016年7月10日に、南側を9月11日におこないました。玉川上水に直交するように巻尺をおき、折尺で1m四方の方形区をとり、高さ2m以下に出現した種の被度(植物が被う割合%)と高さ(cm)を記録しました。南側は車道の縁から上水沿いの歩道を含む場所を経て、柵の内側まで、北側は崖の縁から柵を経て、遊歩道をすぎ、小さな水路までをとりました(図2)。被度と高さの積を「バイオマス指数」としました。これはいわば体積を表現します。もちろん実際には植物の形はさまざまなので、フキのように葉が上で広がる植物は過大に表現されるし、タンポポのように草丈が低いものは比較的正確に表現されるという違いがありますが、被度だけよりは植物の量をより適切に表現できます。


図2 調査範囲を示す概念図.左が南、右が北.

結果
 送電線のために上層木が除かれているため明るく、南側ではよく刈り取りがされており、草丈の低いイネ科が多く出現しました(図3)。中でも多かったのはシバとニワホコリでした。柵の中はケヤキが覆っており、下にはアズマネササが密生していました。


図3 南側の歩道沿い

 北側もアズマネザサが優占していました(図4)。


図4 北側の「落葉樹林」の下のようす(棚橋早苗さん撮影)

 全体で31種が出現しました。これらのバイオマス指数を計算すると以下の9種が平均値が10を超えた、量的に多いものでした。
 アズマネザサ、ヤマコウバシ、ヤマブキ、シバ、ニワホコリ、ススキ、サルトリイバラ、ガマズミ、マユミ
 これらを南から北に方形枠ごとに表現したのが図5です。バイオマス指数が1000未満のものは最大値を1000として表現しました。
 最も多かったのはアズマネザサで、南北ともに出現し、しかもバイオマス指数が数千という高いレベルにありました(図5a)


図5a 玉川上水の南側(図左)から北側(図右)に沿うアズマネザサのバイオマス指数の推移.横軸は南がわからの方形区番号.中央の青は上水の崖下部分で調査対象外.

 次に南側だけで多かったものに3種ありました(図5b)。ススキは道路沿いだけにあり、刈り取られているためにススキとしては小型化していました。シバとニワホコリは草丈が低いためにバイオマス指数は大きくありませんが、被度は大きく、出現頻度も高いと値をとりました(図3b)。これらはいずれもイネ科であったことが注目されます。


図5b 玉川上水の南側(図左)から北側(図右)に沿うシバ、ニワホコリ、ススキのバイオマス指数の推移.横軸は南がわからの方形区番号.中央の青は上水の崖下部分で調査対象外.

 次に玉川上水の崖に近く、樹木帯のあたりに多かった植物が4種ありました(図5c)。センニンソウとサルトリイバラはつる植物で、ここではあまり多くありませんでしたが、玉川上水ではまとまって生えていることがあります。ガマズミとマユミは低木で、玉川上水にはどこでもよくみかけます。このベルトには出現しませんでしたが、ムラサキシキブ、ナンテン、エゴノキ、ミズキ、ゴンズイ、コマユミなども同様のパターンをとります。これらは林縁の植物といえます。


図5c 玉川上水の南側(図左)から北側(図右)に沿うセンニンソウ、サルトリイバラ、ガマズミ、マユミのバイオマス指数の推移.横軸は南がわからの方形区番号.中央の青は上水の崖下部分で調査対象外.

 そのほか、北側だけで多かったものにヤマコウバシがありました(図5d)。同じように出現するものにイヌシデ、ミズキ、エゴノキ、ムラサキシキブなどもあり、上記の林縁植物と重複します。


図5d 玉川上水の南側(図左)から北側(図右)に沿うヤマコウバシのバイオマス指数の推移.横軸は南がわからの方形区番号.中央の青は上水の崖下部分で調査対象外.

 送電線の下は直射日光があたるために、アズマネザサは林内よりもさらに被度が大きく、密生していました(図6)。


図5 「送電線下」のようす(棚橋早苗さん撮影)

 この場所は直射日光があたるので、草原に出現する植物が多いのではないかと予測しましたが、アズマネザサがびっしり被っており、ほかの植物が生育できないほど密生していました。わずかにオニドコロ、センニンソウ、エビズル、ツルウメモドキなどのつる植物がアズマネザサの上に茎をのばしていました。


まとめ
 このように、予備的にベルトトランセクト調査をおこないました。植物生態学的な視点からは次のようなことが指摘できます。
 玉川上水はもともとは用水確保のために、岸に草木が生えると枯葉が入るので、木を切り、草刈りをする管理をされていました。ただし、小金井のサクラのように木を植えていた場所もあり、また周りの畑には雑木林がたくさんありました。上水の機能が終わってからは緑地として保護されてきたので、低木や木が育ち、小平あたりでは雑木林のようなようすになっています。この調査地はそうした場所のうち、送電線管理のために高い木を除いた場所です。
 南側には車道があり、一段高くなったところは草刈りをして管理しているようです。そのため草丈の低いイネ科が優占していました(図3)。刈り取りに耐性のあるイネ科が多いのが特徴ですが、刈り取り頻度が高いようで、ススキのような草丈の高くなるイネ科は少なくなっています。人がよく歩く道があり、そこにはオオバコやセイヨウタンポポのようなロゼット状で踏みつけに耐性のあるものが散見されました。
 柵の内側にはアズマネザサが密生しており、ほかの植物は抑制されていました。このことも柵の外側が頻繁に刈り取られていることを示唆します。
 北側は遊歩道があり、自動車は通りません。南側のようすとは全く違い、ススキやシバは見られませんでした。この場所では、南側に樹林があるせいで、直射日光があたりにくいためだと思われます。ここもアズマネザサが多く、上層木がなくて明るい場所ではさらに多くなってほかの植物を被陰していました(図5)。
 このように、事前に予想していた「上層木がなくて日当たりがよいから草原的な植物が多いだろう」という予想ははずれました。もしここにアズマネザサがなければ大きく違っていたと思われます。実際、少し離れた場所にはツリガネニンジンやバイモなども見られます。アズマネザサがあるのも玉川上水の一つの植生ですが、今後はササのない部分での調査をおこないたいと思います。
 予想ははずれたものの、南側の日当たりがよく、頻繁に刈り取られるところではイネ科が多くなり、樹林帯沿いに低木類、つる植物が多いことは玉川上水の特徴であり、そのことをベルトトランセクト法はうまくとらえ、表現できる方法だと思います。カバーするのがわずか1メートル幅なので捉えきれない植物もありますが、植物の性質を知っていれば、なぜこれが多いかがベルト沿いに変化する理由がよく理解できます。
 こういうベルトトランセクトを集中調査の範囲である鷹の台周辺で10本以上とれば、このあたりの玉川上水の植生の特徴がみえてくると思います。

 最後に出現した植物31種のリストをあげておきます。これを見ると、都市にある緑地ながら、外来種や畑地雑草(アキメヒシバ、オオバコ、カタバミ、キツネノマゴ、セイヨウタンポポ、ニワホコリ、ヒメジョオン、ヒメムカシヨモギ)が比較的少なく、里山的な自然度の高い植生であることがうかがえます。またギンラン、オニドコロ、ヒメンカンスゲなど森林的植物があるかと思えば、ミツバツチグリ、ノカンゾウ、ヤマハギなどのような草原的植物もあり、こうした異なる性質の植物が隣接しながら共存しているということも玉川上水の特徴だと思います。

アキメヒシバ、アズマネザサ、イヌシデ、ウワミズザクラ、エゴノキ、エノキ、オオバコ、オニドコロ、カタバミ、ガマズミ、キツネノマゴ、ギンラン、ケヤキ、コオニタビラコ、コナラ、コマユミ、サルトリイバラ、シバ、スイカズラ、ススキ、セイヨウタンポポ、センニンソウ、ツルウメモドキ、ニワホコリ、ネズミノオ、ネズミモチ、ノイバラ、ノカンゾウ、ヒメカンスゲ、ヒメジョオン、ヒメムカシヨモギ、ヘクソカズラ、ボケ、ホソバヒカゲスゲ、マユミ、ミツバツチグリ、ムラサキシキブ、ヤハズソウ、ヤマカモジグサ、ヤマコウバシ、ヤマハギ、ヤマブキ、ヨモギ


 調査に際しては楠本未来さん(武蔵野美術大学)と水口和恵さんに記録をお願いしました。お礼申し上げます。


付録 主要な9種のうち、「どんな植物なの?」と思う人がいそうなものの写真を添えておきます。


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