他の店に行き

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カルテンが不機嫌そうにフ

2016-03-04 11:06:38 | 日記


 ウォーガンは目を丸くした。「間違いないのだろうな」
 スパーホークがうなずく。
「これ以上はない筋からの情報です。アルドレアス先王の亡霊から聞いたのですよ。王の妹君はいささか放縦なところがありました」
 ウォーガンは邪悪を祓《はら》う仕草をした。農民ならいざ知らず、一国の王にはいささか似つかわしくない仕草だ。
「亡霊だと。亡霊の言葉など、どのような裁判であっても証拠にはならんぞ」
「裁判に持ちこむつもりなどありませんよ、陛下」スパーホークはぼそりと言って、剣の柄に手を置いた。「わたしに時間ができ次第、主犯たちは最高の審判の場に立つことになるでしょう」
「いい男だ」ウォーガンは称讃の声を上げた。「しかし聖職者がアリッサと情を通じようとは思わなかったな」
「アリッサはときにすばらしい説得力を発揮しますからね。何にせよ、陛下のこの軍事行動も、アニアスの仕掛けた陰謀の一環ではないかという気がします。レンドー人の侵略者を率いているのはマーテルという男ではないかと、強い疑いを持っているのです。マーテルはアニアスのために働いていて、選挙のあいだカレロスから教会騎士団を引き離すべく、揉《も》めごとを起こそうと画策していました。騎士団長たちはアニアスの総大司教就任に反対ですから、邪魔者は遠ざけておこうというわけです」
「まさに蛇のような男だな」


「ずばり言い当てていますよ」
「おかげで今朝はいろいろと考えることができた。しばらく検討してみるから、あとでまた話をしよう」
 スパーホークの目に希望の色が浮かんだ。
「あまり期待しすぎんことだぞ。アーシウム国でおまえが必要になるという考えに変わりはない。それに教会騎士団はすでに南に向かって進軍を開始しておる。おまえはヴァニオンの片腕なのであろうが。おまえがいないと、寂しがるのではないかな」
 時間と距離が無限に引き伸ばされたような行軍が続いた。西へ向かった軍団はふたたびペロシア国に入り、夏の陽射しの中に地平線まで広がる平原をどこまでも進んでいった。
 ある晩、デイラ国との国境までまだだいぶあるというあたりで、ルートに詰め寄った。
「旅を短くしてやるとか言ってたんじゃなかったのか」
「やってるわ」とフルート。
「本当か」カルテンはありありと疑惑の表情を浮かべた。「もう一週間も行軍してるのに、まだデイラにも入ってないんだぞ」
「実際にはまだ二日しか経ってないのよ、カルテン。ウォーガンが不審に思わないように、長くかかったように見せかけてるだけ」
 カルテンは信じられないと言いたげにフルートを見ている。
「わたしも質問があるんだがな、フルート」ティニアンが声を上げた。「湖にいたときはあれほどグエリグに追いついてベーリオンを取り戻したがってたのに、急に心変わりしてアシーへ行くと言い出したのは、いったいどういうわけなんだ」
「家族から伝言を受け取ったの。ベーリオンを追いかける前に、アシーで済ませておかなくちゃならない仕事があるって」少女は顔をしかめた。「自分で思いついててもよさそうなものだったのに」
「話を元に戻そうぜ」カルテンが苛立たしそうに言う。「どうやって時間を短縮させたりできるんだ」
「やり方があるの」少女ははぐらかすように答えた。
「わたしならそれ以上は追及しませんよ、カルテン」セフレーニアが忠告した。「この子が何をしているのか、どうせ理解はできません。悩むだけ無駄というものでしょう。それにもししつこく尋ねつづけると、おそろしく動転するような答えを聞かされることになるかもしれませんよ」
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