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「すでに起こったことは、明らかに可能なことがらである」
在台日本語教師の東アジア時事論評あるいはカサンドラの眼差し

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マスコミという病:朝日新聞の言論誘導の論理Ⅰ

2005年12月05日 | 市民のメディアリテラシーのために
 12月3日は、台湾の統一地方選挙だった。今回の選挙結果を日本の大手マスコミはインターネット版でどう報道しているか以下で比較してみる。
 毎日、読売、産経、朝日には報道があったが、日経にはニュースがないようである。各紙の内容を比較する意味で、全文を紹介する。なお、記事の引用について問題がある場合は、対応するので、著作権者の方はお知らせいただきたい。
(1)毎日新聞
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http://www.mainichi-msn.co.jp/
kokusai/asia/taiwan/news/20051204ddm007030033000c.html
台湾統一選:国民党大勝 政権奪回に弾み 蘇貞昌・民進党主席は辞意
 【台北・庄司哲也】3日に投開票された台湾統一地方選で大勝した国民党は、政権奪回を目指す08年の次期総統選に向けてはずみをつけた。今年8月の就任後、初の選挙となった馬英九主席は「党の勝利ではなく台湾すべての人々の勝利だ。だが、喜びは今晩限りだ」と語り、党内の基盤固めにも強い意欲を示した。
 国民党は、陳水扁総統の側近だった元総統府副秘書長が起訴された汚職事件を突き、「反汚職、反腐敗」をスローガンに掲げて民進党政権を激しく批判。清廉なイメージのある馬氏を前面に押し立てた。また、今春の連戦・前主席の訪中以後に進めてきた中台融和路線の成果を強調し、対中関係で打開策を見いだせない陳政権との違いを訴えた。馬氏は「11県・市長を獲得できなければ主席を辞任する」と述べ、不退転の決意を示していた。
 一方、民進党は、退職公務員の優遇金利カットや兵役期間の2カ月短縮など、一般住民の支持拡大を狙った政策を打ち出し、巻き返しを図った。国民党の中台融和路線に対し陳総統は「今回の選挙は中国化か台湾化かの選択だ」と、台湾で大多数を占める本省人(台湾出身者)の「本土化(台湾化)意識」に訴えかけた。
 だが、16年間にわたって死守してきた人口373万人と台湾最大の票田である台北県長のポストを失ったほか、伝統的な地盤である北部の宜蘭県も奪われる予想外の大敗。経済の低迷や、汚職事件で「清廉さ」「公正さ」というイメージが傷ついたことが、最後まで響いた。選挙結果を受けて陳政権は内政や対中政策でも戦略の立て直しを迫られる。辞意を表明した民進党の蘇貞昌主席は「台湾の人々が党に対し警鐘を与えた。謙虚に受け止めなければならない」と敗戦の弁を述べた。
 民進党は昨年12月、立法委員(国会議員)選挙で敗北し、陳総統が主席を辞任しており、わずか1年で再び主席が代わることになった。陳総統の求心力低下も予想される。
毎日新聞 2005年12月4日 東京朝刊
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国民党と民進党の双方の動きが紹介されていて、台湾のテレビニュース各局での報道の要約と言える。民進党の敗因を「経済の低迷や、汚職事件で「清廉さ」「公正さ」というイメージが傷ついたことが、最後まで響いた」と内政に重点を置いて分析しているのも、台湾のテレビニュース各局の傾向と一致している。後に見る朝日とまったく違って「対中政策」を敗因の重点にしなかったのは、高く評価できる。

(2)読売新聞
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台湾民進党が地方選大敗 党主席が辞意表明
2005年12月04日00時45分
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051203i415.htm
台湾統一地方選、与党が大敗…蘇主席は辞任へ
 【台北=吉田健一】台湾の台北、高雄の両直轄市を除く23の県と市の首長(任期4年)を選ぶ統一地方選挙の投票が3日行われ、即日開票された。
 「台湾独立」志向の与党・民進党は陳水扁総統側近の不正疑惑などが響き、現有10ポストを大きく割り込む6ポストにとどまり大敗した。中国との協調を重視する最大野党・国民党は馬英九・党主席(55)人気に乗り、現有8ポストに大幅に上積みし14県市を制した。
 馬主席は「予想以上の勝利だ。住民は民進党に不信任を突き付けた」と勝利宣言した。
 民進党は大票田の台北県など激戦区でことごとく敗北。蘇貞昌・党主席(58)は同日夜、「民進党にとって重大な挫折だ」と敗北宣言し、党主席を辞任すると表明した。
 2008年総統選の前哨戦と位置づけられた今選挙での国民党大勝を受け、中国は国民党との連携を強め、陳政権に対し圧力を強めることが予想される。
(2005年12月4日1時6分 読売新聞)
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 選挙経過と民進党と国民党の党首発言を紹介するにとどめているのは、公平と言える。しかし、短い記事だが、毎日に比べると記者の見識の点では明らかに見劣りする。一つは敗因を書いていないことである。台湾のニュース各局を要約して「経済」と「汚職」を敗因にあげた毎日と違って、理由を書かなかったのは、民進党に気を遣っているためであろうか。もう一つは、民進党と国民党への評価である。「 2008年総統選の前哨戦と位置づけられた今選挙での国民党大勝を受け、中国は国民党との連携を強め、陳政権に対し圧力を強めることが予想される」と、まるで台湾の与党政治家あるいは野党の国民党には一切の自主性がないような中国主体の書き方になっている。
 日本のマスコミでは珍しく中国中心の視点ではない台湾に同情的な記事をときどき載せているだけに、もう一歩の公平さがほしい。

(3)産經新聞
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http://www.sankei.co.jp/news/051203/kok073.htm
与党敗北、陳総統苦境に 台湾・統一地方選
 2008年総統選の「前哨戦」とされる台湾の統一地方選の投開票が3日行われ、最大野党、国民党が23の県・市長(任期4年)ポストのうち、6増の14ポストを獲得して大勝、馬英九主席が同日夜、記者会見して勝利宣言した。与党、民主進歩党(民進党)は4減の6ポストにとどまり大敗、昨年12月の立法委員(国会議員)選敗北に続く痛手となった。
 国民党が総統選での政権奪還に向け勢いづくのは確実。5年半の政権の実績に対する有権者の十分な支持を得られなかった陳水扁総統は苦境に追い込まれ、内政や対中政策で戦略の練り直しを迫られることになった。
 元総統府高官汚職事件などでこれまでのクリーンなイメージを失った民進党に対し、国民党は清廉な印象の若手指導者、馬主席の人気に乗って躍進。8月に主席に就任した馬氏は、総統選勝利に向け好調なスタートを切った形だ。
 民進党の蘇貞昌主席は3日夜の記者会見で「すべての責任を取り、辞任する」と辞意を表明した。
 中央選挙委員会によると、今回選出された23県・市長ポスト(台北、高雄両直轄市を除く)の政党別獲得数は、国民党14(現有8)、民進党6(10)、親民党1(1)、新党1(1)、無所属1(3)。投票率は66.22%で、政党別得票率は国民党50.96%、民進党41.95%など。
 民進党は県長(知事)ポストを16年間押さえてきた台湾最大の選挙区、台北県のほか、同党が伝統的に強い宜蘭県、嘉義市でも国民党に敗れた。
 元部下の汚職事件が発覚した謝長廷・行政院長(首相)も更迭される可能性が高い。
 陳総統は政治体制の「台湾化(自立化)」路線を進め、台湾の実情に合わせた大幅な憲法改正を公約に掲げているが、今回の敗北で政権の求心力はさらに失われ、公約実現の可能性は遠のいたようだ。(共同)
(12/04 00:51)
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 4紙の中では、毎日と同様、公平な記事と思われる。敗因の分析も、直接書いてはいないが、修飾語として「元総統府高官汚職事件などでこれまでのクリーンなイメージを失った民進党」などと入れることで示して、「汚職」に絞っているのは、台湾のニュース各局の傾向と一致している。中国関係の視点を一切排除して、「陳総統は政治体制の「台湾化(自立化)」路線を進め、台湾の実情に合わせた大幅な憲法改正を公約に掲げているが、今回の敗北で政権の求心力はさらに失われ、公約実現の可能性は遠のいたようだ」と書いたのも台湾での視点になっていて的確であろう。

(4)朝日新聞
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http://www.asahi.com/international/update/1203/013.html
台湾民進党が地方選大敗 党主席が辞意表明
2005年12月04日00時45分
 台湾の23県市の首長(任期4年)を選ぶ地方首長選挙は3日、投票が行われ、即日開票の結果、陳水扁(チェン・ショイピエン)政権を「無策」と批判し、中国との和解促進を主張した最大野党・国民党が14県市を押さえ、現有ポストを大幅に上回った。全有権者の約2割を抱える最大選挙区の台北県でも勝利した。陳総統らが支援した与党・民進党候補の当選は6県市にとどまった。民進党の蘇貞昌(スー・チェンチャン)主席は同日夜、記者会見で「大敗」と認め、辞意を表明した。
 直轄市の台北、高雄市を除く地域で、台湾の全有権者の8割近くを対象として実施された。地方選とはいえ、最終盤では「対中政策」が大きな争点になった。
 中央選管によると、政党別の獲得首長ポストは、民進党6(現有10)、国民党14(同8)、親民党1(同1)、新党1(同1)、無所属1(同3)。全土を通じた投票率は前回と同じ66%。
 民進党は、過去16年間、県長ポストを守ってきた台北県で敗退したうえ、伝統的に同党支持層が多く「民主の聖地」と呼ばれた北東部の宜蘭県、中部の嘉義市も失った。台南県・市、高雄県などの南部の地盤をかろうじて守った。
 一方、国民党候補は選挙結果が08年総統選挙のカギを握るとされた台北県でも差をつけた。総統選有力候補の馬英九(マー・インチウ)主席を擁する同党支持者の間で、政権奪還に向けた動きに弾みがつきそうだ。
 今春に連戦(リエン・チャン)国民党主席(当時)ら野党首脳が中国大陸を訪問し、胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と会談して以降初めての大型選挙で、同党側は選挙戦でも「対中和解の促進」を訴えた。一方、対中政策などで手詰まりが続く民進党側は陳総統に近い要人の汚職疑惑も不利に働いた。「国民党による対中交流は統一への道」とも呼びかけたが、劣勢を挽回(ばんかい)できなかった。
 中国国営の新華社通信は3日夜、台湾の地方首長選の結果を速報し、「特級の大型県」である台北県を失ったと伝えた。
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 一見すると、毎日、産経と同じく公平に民進党・国民党の動きを伝えているようだが、実は、巧妙なレトリックで特定国家に有利な分析になっている。
 問題は、最後の一段落で、視点を中華人民共和国に巧みに移しているのにお気づきであろうか。「今春に連戦(リエン・チャン)国民党主席(当時)ら野党首脳が中国大陸を訪問し、胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と会談して以降初めての大型選挙で、同党側は選挙戦でも「対中和解の促進」を訴えた」
 前半の国民党親民党関係者の大陸訪問は確かにそうだが、夏以降こうした話題は台湾のニュースでは消えてしまった。逆に、大陸を訪問した親民党党首は、その政治的な駆け引きが信用を失い、今回の選挙でも大幅に票を失っている。また、「同党側は選挙戦でも「対中和解の促進」を訴えた」と書いているが、台湾のニュース各局が報道し、民衆が呼応したのは、毎日、産経が書いているような「不正」「汚職」への国民党の批判で、「対中和解の促進」は三次あるいは四次の付け足しで、選挙の大きな争点ではなかったのである。つまり、朝日は、事実経過を書いているように見せかけて、実は、中国側に都合のよい事実だけをあげていくという「事実選択」による視点の限定を行っているのである。中国共産党はもちろん、オウム真理教など、煽動や洗脳を行うものがいつもしている常套手段である。この新聞社の性格をよく表している記事である。事実経過を詳しくあげることで読者に信頼感を与えているだけに、いっそう悪質さが際だつ。
 次の一文も同じレトリックである。
 「一方、対中政策などで手詰まりが続く民進党側は陳総統に近い要人の汚職疑惑も不利に働いた。「国民党による対中交流は統一への道」とも呼びかけたが、劣勢を挽回(ばんかい)できなかった」 とあるが、「対中政策などで手詰まりが続く民進党側」という形で、やはり「対中政策」が問題だと思わせる書き方になっており、「国民党による対中交流は統一への道」という民進党の発言もやはり「対中政策」だけがあがっている。つまり、「対中政策」だけが選挙での敗因であるかのように、同じ文言を繰り返し出して強調しているのである。そして、選挙の主な敗因である「不正」や「汚職」は、「陳総統に近い要人の汚職疑惑も不利に」と「も」をつけて、まるで副次的であるかのように見せかけている。
 
 今回の選挙について、『台湾の声』は以下の三つを紹介している。
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http://www.emaga.com/bn/?2005120011654699000889.3407
件名:「台湾の声」【主張】台湾民主の危機:統一地方選挙の敗因は独立への空手形と不公正
【主張】台湾民主の危機:統一地方選挙の敗因は独立への空手形と不公正
                  建国塾塾生頭 多田恵
今回の敗因は、汚職スキャンダルだけではなく、
1.陳水扁総統が何度も独立派を空手形で愚弄し、求心力を失ったこと、
2.中国資本のケーブルテレビTVBSの追及の手を緩め、その一方、
  自らを勝利させた「非常報導」への弾圧を許すなど、正義の公正な
  実施に消極的で、将来の希望をもてなくしたこと、
3.中国との関係が焦点になったのに独立を打ち出さず、目標を示さな
  かったためである。
台湾の民主は、危機に瀕している。
台湾人は覚醒し、2007,2008年に屈辱を晴らすためにあらゆる手段を取るべきである。
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 台湾独立派の視点からは、以上のように書かれていて、やはり「汚職」が非常に敗因に響いたことが分かる。”台湾が独立するかいなか”あるいは”対中関係を改善するべきか”という政治的理由は、作用はしているが、今回の選挙では副次的なものだったことは、ここからも分かる。

 台湾人は非常に知的に柔軟で進取の気性に富み文化的に寛容な民族であると私は思っている。従って、90年代の経済発展と民主化の進展の中での海外からの知識の流入や留学からかえった人々の社会参加が本土の人々に大きな影響を与えていると思われる。私が知っているのはいくつかの大学での変化に過ぎないが、アメリカやヨーロッパあるいは日本という民主主義の先進国の経験が様々な形で、社会に反映されつつあるとも言える。そして、変化は早く日本の10年は台湾の5年である。
 その点で言えば、今回の選挙は、台湾での一種の民主社会の成熟を意味していると考える。つまり、選挙の機能は、イデオロギーの闘争による対立党派の破壊ではなく、バランス確保による社会建設の促進にあるということが、最近の体験をとおして理解され、かつては前者に傾いていたところから、より一歩進んだところへ成熟してきたということである。
 だからこそ「汚職」「不正」「隱蔽」「不公平」など、民主社会では最も忌避されるテーマをマスコミが流したとき、それがたとえ大陸の情報工作であったとしても、大衆は重大な事実と受け止めて敏感に反応し、そうした問題を無視し続けて、かえって今まで通りに涙を流して情に訴えたり、「スキャンダル」攻撃で反対党への不信感を煽るという選挙戦術の側に、「NO」と宣言したのである。
 今回の選挙は、日本で言えば、1980年代後半、かのTなど、金権腐敗政治、あるいは官僚主導利益誘導政治に最初の「NO」を日本の有権者が突き付けた自民党の政権交代に類似の状況であろう。従って、独立意識の衰退とか大陸との統一を第一に心配する必要はない。今回の問題はそこにはなかったのである。
 民主社会である台湾の大衆が、今回のような「不正」にたいしてではなく、「政治」にどういう選択をするかは、今後の各党の動き次第であり、小泉首相のような改革とは何かを理解し、的確な人材を集めながら、反対派に屈しない意志を持てる人物が表に立てるかどうかにかかっているであろう。

 全く関係ない話になるが、昨日(12月4日)、たまたまNHKの『義経』を見ていて、印象的な一句があった。頼朝(中井貴一)が、泰衡から来た書状を見て”「義経は渡さない」とはっきり書く人物なら、手強い相手だが、「義経は居ない」と書いてきた。こうした相手ならば、何度も圧力を掛ければ、操るのは容易い”という趣旨のことを言っていた。ドラマでは、何度も来る圧力に次第に泰衡が動揺していく様子が描かれていた。
 中国という頼朝に、日本という平氏や台湾という藤原氏はどうこたえればいいであろうか。

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1 コメント

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日本でも結構報道されてましたね! (tsubamerailstar)
2005-12-05 14:25:22
こんにちは! 私は北京語は全くわからないので、是非聯合報とか台湾日報とか自由時報とか中国時報等の社説も是非宜しくお願いいたします。



それにしても、↑の「台湾の声」に投稿している右翼団体構成員みたいな人、KTTの地滑り的圧勝を以て「台湾の民主は、危機に瀕している」ってちょっとおかしくないですか? 選挙それ自体は民主的なものだったわけでしょうし、何か「語るに落ちた」という感じがするんですけど・・・・



惰性でメルマガは取ってますが、途中から「これって台湾の声違うんじゃ?」と思うようになりました。靖国神社何ちゃらのご案内とかマスコミや地図にいちゃもんつけたりとか、何か「あんたら右翼プロ市民養成活動でも目論んでいるの?」と苦笑いしちゃうことが多いのですが。

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