湖坊諒平っていうブログ

貧しくも 富士より高し わがモチベ

アンダーラブ vol.8

2015-12-30 12:30:58 | 小説
十一

 奈々子がふれあい園で働くようになって2ヶ月が過ぎた。とても暑い夏の夜だった。その日も喫茶の仕事を終えて帰ろうかと職員室に入ろうとしていたとき、中でスタッフの山本さんと石川さんが話しているのが聞こえた。共にふれあい園の若手美人スタッフだ。
「アルバイトの藤野さん、がんばってるわねぇ。」
「ホント。できればもっと仕事入って欲しいわ。」
奈々子はうれしかったが、驚いた。
「喫茶も宏子さんとの二枚看板ね。」
「聞いた?男性メンバーの間では宏子派、奈々子派ってあるそうよ。」
奈々子はさらに驚いた。
「まあ、やっぱり奈々子ちゃんでしょう。」
石川さんがぶっきらぼうに言った。
「石川派、山本派は隅に追いやられているわね。」
「スタッフに恋してもダメだって気付き始めたのよ、男たちも。」
奈々子ははっと息を飲んだ。 
「でも宏子さん、そんな可愛い?」
「年増で既婚で精神障害者なのにあの可愛さよ。病気にしてはいいほうよ。」
えっ、宏子さんが障害者? 奈々子は思った。
「健二クンも宏子さんのどこが良かったのかしら?」
「同病相哀れむ、よ。他にないじゃない。G大出身であのカッコよさで、ちゃんとお勤めもしてるのよ。精神障害者でさえなかったらきっともっといい奥さんもらえたのに。もったいないわ。まあ、朝倉夫妻はきぼう作業所からの移籍で・・・」
奈々子はドキッとした。健二さんも!と思った。
 そのとき、やっと二人が奈々子に気付いた。
「あら、藤野さん、お疲れ!」
「は、はいっ。お疲れ様です。」
無理に平静を装って奈々子は応えた。

 家への帰り道、奈々子はスタッフ二人の噂話を思い出していた。気がつくと奈々子は走り出していた。
健二さんと宏子さんも精神障害者だったなんて!自分の好きな人が障害者なんて!
 どうしよう、これからどうやって二人と接しよう。奈々子は思った。
どうやって・・・答えはすぐに出なかった。
 障害のことを心の中にしまいつつ、奈々子は健二、宏子と接した。実際にはその後何も起きなかったのだが、奈々子はずっと二人を色眼鏡で見ていた。健二たちはメンバーたちと同じだ、自分とは違う、と。火曜日の喫茶でも、秋のレクレーションである芋ほりに紅葉狩りのときでも。
 やがて季節は冬になった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンダーラブ vol.7

2015-12-28 09:17:54 | 小説


 火曜日に利用者の話し相手をすることから仕事を始めた奈々子だったが、しばらくしてふれあい園の喫茶コーナーを任されることになった。喫茶コーナーはこの施設の授産事業だ。コーヒーや紅茶を喫茶コーナーで出す一方で、メンバーたちがここで作ったクッキーやアップルパイを販売している。
 喫茶コーナーの担当者は健二の妻、宏子だ。宏子がメンバーたちのクッキー作りを監督し、アップルパイを手掛ける。宏子の作るアップルパイはとてもおいしく、ここの名物だ。遠くから買いに来る人もいる。一度地域の雑誌に紹介されたこともある逸品だ。奈々子も一度食べたことがあったが、確かにおいしかった。 
 喫茶コーナーに入る初日、奈々子は宏子から仕事を教わった。奈々子は飲食店での仕事はまったく初めてだった。
「私が厨房の掃除をしてコーヒー用のお湯を沸かすから、奈々子さんは喫茶スペースをほうきで掃いてくださらない?」
「そうそう。じゃ、次はモップで床を拭いて・・・」
宏子の指示が次々飛ぶ。いずれも的確な指示だ。奈々子も指示に合わせて頑張る。
「BGM、今だけポップスでいいわよね。本当はジャズがいい、って中川さんうるさいんだけど、準備中だから。」
と、宏子は有線のチャンネルを変えた。
「私もそうして欲しいと思ってました。」
奈々子もそれに同調した。それを見て宏子はにっこりした。
「さあ、あとはコーヒーののぼりを入口に立てて、表の看板を営業中に変えたら開店よ。」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンダーラブ vol.6

2015-12-27 14:03:19 | 小説


 奈々子はゴールデンウィーク明けから本格的に障害者の施設ふれあい園で働くようになった。勤務日は奈々子の希望で火曜日の午後となった。最初にふれあい園のスタッフから頼まれた仕事は障害者の話し相手をすることだった。
「あら、学生さん?」 勤務初日、利用者の障害者から声を掛けられた。奈々子のきらいなやらしい視線だ。そう思われた。
「ハイ、そうです。」 やや緊張して奈々子は答えた。相手が障害者だと思うとやらしいのは不思議と気にならなかった。
「初めまして、ぼく田中言います。うつ病で来ています。よろしく。」
「田中さん。よろしくお願いします。藤野奈々子と申します。」
「きれいな子やなあ。看護学生?」
「いえ、普通の大学生です。」
「どこの大学?」
奈々子は自分の大学を田中さんに教えた。
「そんないいところ行っているの! ひゃー、秀才やわ。」
「いやあ、田中さん、どうしたの?」
50代くらいの女性が話に加わってきた。
「なあ、大崎さん。今度のアルバイトの学生さん、G大学の人やねんて。」
「うそぉー、すっごい!! 朝倉さんと一緒だ。」
「どうかしましたか?」
健二がメンバールームに入ってきた。
「朝倉さん、この娘すごい、G大学だって!」 大崎さんという女性が、やや誇らしげに健二に伝えた。
「そう、藤野さんはぼくの後輩。田中さん、大崎さん、みんなよろしくね!」
健二がうまくその場をまとめてくれた。奈々子にとって健二はもう初日から頼れる先輩だった。

 次の週末、ふれあい園は全体でハイキングに行った。利用者、スタッフ、家族計30名の大きな団体となった。健二は妻の宏子を連れてやってきた。奈々子もリュックサックに母の作ったお弁当にペットボトル、おやつを詰めて参加した。
 目的地の少年自然公園に着いたところで一行はお昼ご飯を食べることになった。天気も良かったので、木々のないだだっ広い草原に大きな円になって食べることにした。
 座る席をめぐって、少し揉めごとがあった。メンバーたちが奈々子の隣の席をめぐってけんかしたのだ。
「ぼくは奈々子ちゃんの隣がええ。」と、田中さんが言うと
「田中さん、バスの中でも奈々子ちゃんの隣だったじゃん。今度は俺が隣じゃん。」
と、若い佐々木さん。
「もう~! 男の人みんなナナちゃんにいって!おばちゃんも隣行きたいわア。」
と、川上さんも。
ほかにも奈々子の隣に座ることを希望するメンバーがいた。しかし、当の奈々子は明るく言った。
「私の隣に来たい人!みんな聞いて!!私の近くに座っていいわ。隣とか関係なくみんなでご飯食べましょう!! 奈々子班旗揚げよ! ねえ、健二さん、中川さん。それでもいいでしょう?!」
 健二も理事長の中川さんもこれには賛同した。こうして奈々子を囲むグループ、奈々子班ができた。グループは平等に奈々子の近くに距離を取って奈々子とお弁当を食べた。
 ハイキングの帰り道、歩きながら健二が奈々子に話しかけてきた。
「さっきのメンバーのまとめ方、奈々子さんすっごく良かったですよ。」
「そうですかぁ。ありがとうございます。」
「ふれあい園に来る人、みんなこのふれあい園を頼っています。車椅子に乗っている人の車椅子みたいなものです。確かに病気ゆえ常識のない人、遠慮の出来ない人、勝手な人、様々います。でもその人たちも当然れっきとした人間なのです。奈々子さんには失礼な人もいたかもしれません。そのことについてはぼくから謝ります。でも障害を持つメンバーの皆さんの要望に真面目に耳を傾け、応えようとした奈々子さんは立派でした。さっき、理事長ともそんな話しをしていたんです。」
健二からのお褒めの言葉。奈々子にはたまらない一言だった。『健二さんが私を尊敬している!ああ、奥さんさえいなければ!! ダメよ奈々子、もっと冷静になりなさい!』
 この日のハイキングはみんなにとって大変楽しい、いい思い出となった。もちろん、奈々子にとっても。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンダーラブ vol.5

2015-12-23 14:19:30 | 小説


 現実は甘くなかった。奈々子はG大学入試に失敗し、浪人生活を送ることとなった。
 センター試験までは良かった。合格ラインに乗ったのだが、二次でつまずいた。苦手の数学は自己評価で半分にも届かず、頼みの英語も伸び悩んだ。試験会場を後にしたとき、厳しいと思ったが、合格発表を見に行って自分の番号がないのを見てやっぱりか、と落胆した。後期日程も同じG大学経済学部だったのだが、こちらも不合格だった。
 とある大手の予備校に通うこととなった奈々子。女子の予備校生もいて、同病相哀れむとばかり友達になれた。もちろん、奈々子に興味を持つ男子生徒もいたが、なるべく無視した。やはり予備校でも自分のスカートの下にしか興味を持たない男には興味をもてなかった。たまに受ける健二からのメールが心の支えだった。
 予備校の授業を聴いて、奈々子は自分の勉強の理解度が低かったことに気づいた。特に苦手の数学だ。健二の話は確かに面白い。しかし、その面白さに予備校で新たに気付かされることもしばしばあった。健二の話はイメージでしかなかったのだ。それでもやっぱり健二は面白い人だった。G大へなんとしても行きたい、改めて奈々子はそう思った。
 
 次の春、奈々子はG大学に見事合格した。滑り止めに受けたB大や他の大学、すべて合格した。実力が現役の頃と大違いなのを感じた。
 G大には親元から通うこととなった。奈々子自身は下宿したかったのだが、両親はさせてくれなかった。大学は奈々子の家からは少し遠かったのだが、電車を乗り継ぎ大学へ通った。
 合格するまでも、してからも、健二からの心のこもったメールを受け取っていた。奈々子はきっちり返事を送り続けていた。
  
 大学生活がスタートした。戸惑いはもちろんあったが、1年早く大学に入学した美香から話は聞いていて大体のイメージはできていて、案外スムーズにいった。
 まずはアルバイトだ。美香のように家庭教師の派遣会社に登録した。G大学の名前のおかげでたくさんの生徒の紹介があった。近くに住む生徒を週1回ずつ2件、引き受けた。給料もまあまあの、いい仕事だと思った。
 それでも奈々子の本当の希望は家庭教師などではなかった。実は奈々子も健二がボランティアをする障害者の施設でボランティアをすることを考えていたのだ。
 さっそく健二にメールすると、しばらくして彼から返事が来た。
”奈々子さんへ
 メールありがとうございます。返事遅くなってごめんなさい。実は奈々子さんのボランティアの件をうちの施設の理事長に掛け合ってみると、朝倉君のご友人の方だし、うちも若い人が必要だからね、という返事をいただきました。いかがです、働いてみませんか?                              朝倉”

 奈々子はこの申し出をとても喜んだ。ぜひお受けしたい、と彼にメールの返事をした。
 すると2,3日して彼から電話があった。
「朝倉です。奈々子さん、改めまして合格おめでとうございます。」
「ありがとうございます。でも本当にいいんですか? ボランティア。」
「それなんですけどね。最初の3ヶ月は無給でボランティア、それ以降は時給をつけよう、ってうちの理事長が言ってるんですよ。」
奈々子にとってまさに福音だった。
「え~っ、そんなのありがたすぎます。」
「とはいっても時給は700円なんですけどもね。あと、週に1日、いや半日でもいい、月曜日から金曜日のうちどこかにはいるのと、後日曜の開所日とレクレーションがあるから月に2度、日曜日に入らなきゃいけないんですが、大丈夫ですよね。」
「ハイ、大丈夫です。」
「なら今度の日曜日、昼の1時にうちのふれあい園の事務所に来ていただけますか?大丈夫、奈々子さんなら絶対不採用になんてなりませんよ。堂々と面接を受けてください。早ければゴールデンウィーク明けからお仕事に入っていただきます。なお、面接にはぼくも立ち合わせていただきます。」
「ありがとうございます。一生懸命頑張りますのでよろしくおねがいします。」
「そうだ、事務所の電話番号は、ええっと・・・」
奈々子はメモに電話番号を控えた。

 アルバイトが入学した4月のうちにすぐに決まったせいで、奈々子はクラブやサークル活動の誘いをすべて断らなければならなくなった。授業もあるし、これ以上手を広げるのは無理だと判断したのだ。
 先輩らしき学生が勧誘してくる。チラシを渡された。
「すいません、テニスサークル・ナイスサーブといいます。テニスなんか興味ないですか?」
「ないです。」
奈々子はにべもなく答えた。
「うちのサークル、先輩から伝来の授業のノート揃っているんですけどもねぇ。」
「結構です。ノートくらい、自分でなんとかします。」
奈々子は立ち去った。
「ほんとにもう、どうしてあんないやらしい目で私を見るのかしら・・・」

他のサークルからの勧誘もあった。
「あのう、すいません。今そこでうちの説明会やっているんですけど・・・」
「私、サークルは入りませんから。」
「話だけでも、どうです?」
「いいです。だいいち何のサークルなんですか?」
「それは、人が生きる意味について考えるという・・・」
奈々子は美香が大学では宗教の勧誘もあるといっていたことを思い出した。
「つまり、宗教ですね。お断りします。」
奈々子はすぐに立ち去った。

 課外活動には関心のない奈々子だったが、大学の授業はむしろ新鮮で楽しかった。とりあえず、手当たり次第に出てみた。経済学部生が履修できない授業にまで出てみた。
 最初に奈々子が関心を持ったのが意外にも物理と化学だった。センター試験は生物で受験したのでどちらも中学・高校以来の久しぶりの勉強だったが、どちらの授業も先生の話がユニークで面白かった。G大学は理学部や工学部といった理系の学部も有する総合大学なのだが、奈々子の取ったそれらの授業は文系の学生向きのものだった。それでいっそう自然と受け入れることができた。
 政治学と哲学もなかなか興味深かった。政治学の後藤先生は新聞の社説にも登場するわりと有名な先生だ。独自の学説が奈々子には興味深かった。哲学はゼロからのスタートだが、ものの考え方というか、論理の手順が数学にも似て面白かった。数学は理系だけのものではありません、一種の哲学です、と教えてくれた健二の言葉を思い出した。
 数学の授業は経済学部の要望科目なので履修することにした。微分積分に、線形代数である。正直健二の話しほど面白くはなかったが、いつかこういうものを使った研究がしたい、と奈々子は思った。ただ、定理の証明の板書をノートに書き写すだけの授業だったが、奈々子は授業を休まなかった。教養課程の経済学の授業も難しくてよく分からなかったが、要望科目だったので出席した。
 逆に面白くなかったのが語学だ。英語は必修、第二外国語は独・仏・中・スペイン・ロシア語からの選択で、当然フランス語を取ったのだが、英語もフランス語もつまらなかった。英語はただ英文を和訳するだけ、フランス語はただ初級文法をのんびりするだけの退屈な授業だった。授業を聴く学生も総じて意欲がなかった。中級に進むまでは辛抱ね、奈々子は思った。この大学にはもっといいフランス語の先生もいる、それを信じて耐えるしかなかった。
 こうして奈々子のキャンパスライフが過ぎていった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンダーラブ vol.4

2015-12-20 13:04:41 | 小説


 奈々子はやがて3年生となった。
 3年の夏ともなると奈々子は嫌でも受験勉強に専念せざるを得なくなった。それでフランス語からも遠ざかった。大学にあがったらまた一からやり直そう、そんな具合に思っていた。
 健二と直接会うことはなくなったが、健二とはだいたい月1回のペースでメール交換をしていた。健二からのメールはもっぱら応援メールだった。『受験勉強大変だとは思いますが頑張ってください』、そんなメールだった。
 夏休みは奈々子は高校の図書館に来て勉強をした。高校まで通う時間はロスだが、家よりも集中できると思ったからである。分からないことがあれば職員室へ行き、先生を捕まえて質問できるというメリットもあった。親友の美香も図書館に顔を出して二人で勉強会をすることもあった。
 夏休みも中盤のある日、その日は美香と二人で勉強していた。二人で小休止をとって学校の自販機コーナーで話をしているときだ。美香が奈々子に話しかけた。
「ナナ、勉強の方はどう? ナナは確か志望、B大の法学部だったわよね?」
「うん・・・。でもやっぱり変更したんだ。」
「えっ、どこにするの?」
美香はちょっと驚いて聞いた。
「それが・・・、G大学なの。」
奈々子は少し言い難そうに言った。
「ええっ、ナナ、本気なの? G大学って力はあるけど東大に行けない人が行くところよ。ナナには難しすぎると思うけど。」
「いいの。私、本気よ。」
「どうして? 一体何があったのよ?」
「実は・・・私の知ってるある人がG大出身だったのよ。」
「ある人って、誰?」
「その・・・以前フランス語講座で一緒だった・・・」 言いにくそうに奈々子は言った。
「まさか以前カフェでデートしてた例の男だとか?」
「そう。でも、それは確かにそうだけど、関係ないわ。私の今の志望校はG大学の経済学部。」
「経済って! ナナはずっと法学部志望だったでしょう?! なんで?」
「私、決めたの。」
「でも・・・、ナナのお父さん弁護士なんでしょう。お父さんと同じ道へ行くってナナ言ってたじゃない?」
「私、正直言うと法律には興味がないの。前からよ。そこへ彼から経済学の話を聞いて、もう断然こっちだって思えたの。」
「やっぱりあの男ね。」
「ええ、まあそういうことになるけど・・・。」
「でもG大学だったら国立だからセンター試験で5教科あるわ。二次だって数学もあるし。ナナ、数学ダメでしょう?」
「私、頑張る。」
「それでさっき職員室に行って佐藤先生に質問してたのね。私立志望のナナが何で数学の先生のところへ行くのかな?って思ってたのよ。」
「佐藤先生も少し驚いているわ。藤野さんは確か私立じゃ・・・って。でも私、頑張りますから、って言ったわ。先生も分かってくれたみたい。現役ではG大経済一本槍。落ちたら浪人するわ。」
「ご両親反対しなかった?」
「したわ。特にお父さん。私が弁護士目指すと思ってたみたいだから。結局、一浪までは許してくれたわ。浪人したらB大も滑り止めに受けなさいって。美香、あなたはどうなのよ?」
奈々子は話を美香に振った。
「私はC大学よ。Cの文学部英文科。ねぇ、シェークスピアよ。シェークスピアの原書を読んで論文を書くの。C大学には専門の先生がいるからそこに決めたの。あとセンターで得意の英語の傾斜配点が高いし。数学は数ⅠAだけだし、理科もないし私に有利ね。模試もB判定2回取って、ナナとは違って安全志向よ。」
「あら、英語の配点が高いのはG大も一緒よ。私だって英語、美香に負けないわ。」
「お互い頑張ろうね。」
二人は笑いあった。

 志望校をG大学にしたことを奈々子は健二にも知らせた。思い切って電話したのだ。
 健二はびっくりしていたが、それでも喜んでくれた。
「そうですか。奈々子さんはぼくの後輩になるんですね。」
「いえいえ。受けるつもりというだけですから。」
奈々子は照れながら言った。 
「もう奈々子さんならご存知とは思いますが、うちの大学、2次の問題はむしろ簡単なんです。英数国、どれも基本的な出題ばかりです。きっと今でもそうじゃないかな。」
「健二さんのおっしゃるとおりです。最近の過去問を見てもそうです。英語だったら前置詞を入れる問題。あと英文和訳に英作文。数学は微分積分に行列の問題。国語は現古漢まんべんなく・・・」
「ハハ、相当研究されてるようですね。おっしゃるとおり。簡単だから高得点取らなきゃいけないんですが、まあ、あなたならきっと大丈夫でしょう。」
頑張ります! そういって奈々子は電話を切った。胸が高鳴るのを感じた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする