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パレストリーナのJesu rex admirabillisに関して

2011年01月05日 | グレゴリオ聖歌
アヴェ・マリア!

愛する兄弟姉妹の皆様、

 もう一度、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 ところでパレストリーナのJesu rex admirabillisに関して次のような情報をいただきましたので、愛する兄弟姉妹の皆様にもお知らせいたします。愛する兄弟姉妹の皆様がますますパレストリーナのJesu rex admirabillisを好きになって下されば幸いです。

 パレストリーナのこの曲の楽譜は、ここにあります。
http://www.cipoo.net/downloads/scores/JesuRexAdmirabilis.pdf



*****


 YOU TUBEでのこの音源は、透明感のある柔らかい演奏です。当然のことながら発声の仕方を統一しています。




 この曲はルネサンス後期の対位法の技法が用いられ、各声部(パート)がそれぞれ独立しつつ、互いに調和させて重なり合わさっている曲です。縦の重なり(和声)とその進行に注意しながら、特に後半部分(8小節目以降)のメロディーの重要な部分(要素)が、「模倣(=カノン)」されて各声部(パート)に受けつがれていく特徴をとらえて歌っていくことは、徹底してやろうと思えば、かなり奥の深い練習になると思います。

 各声部(パート)を、高い声部からⅠ、Ⅱ、Ⅲ、とします。13小節あるので、小節番号をうって、1~13とします。

 アカペラでの3部合唱にすると美しいカノン(模倣、追いかけっこ)の旋律がくっきりとうき立ちます。

【ⅠとⅢのカノンに、途中からⅡが加わり主要旋律を歌う】後半部分8小節目以降ですが、ⅠとⅢは、4小節にわたるカノンが構成されています。Ⅲの小節番号8の4拍目のド、mfが付いているところからです。

言葉:to-tus de-si-de-ra-bi-lis、to-tus de-si
メロディーは、順次進行(音階的に隣の音に進む)で下降していきます。
ド ドシラーラ ラソファファ ファミレー 

 これの模倣(カノン)は、Ⅰの小節番号9の4拍目のド、mfが付いているところからはじまります。
言葉:to-tus de-si-de-ra-bi-lis、to-tus de-si
メロディーは、順次進行(音階的に隣の音に進む)で下降していきます。
ド ドシラーラ ラソファファ ファミレー 
リズムも音も言葉も全く同じカノンが構成されます。

 3部合唱ができるかどうかは、このカノンの部分、ⅠとⅢが言葉もずらせてできるかどうかが、一つのポイントだと思います。Ⅲを歌って下さる男声の確保が必要です。

★ⅠとⅢのカノンのメロディーの初めを切り落とし、少しリズムを変えた部分、
ラー ラソファーファ ファミレーがⅡの小節番号11、3拍目から現れます。
言葉:to-tus de-si-de-ra-bi-lis、
メロディーは、順次進行(音階的に隣の音に進む)で下降していきます。
最後のpのついているレで曲の終わり。
すべての声部がレの音で曲の終わり。

 この部分Ⅱの小節番号11「ラー ラソファーファ ファミレー」は、Ⅰのカノン部分の終わりの方、小節番号11の3拍目から、Ⅰのメロディーの3度上を並行(へいこう)して静かに下降していきます。この部分はⅢの低音とともに、Ⅱが重要なメロディーを担うことになります。


【パートⅡがパートⅠより高音を歌う部分】

★小節番号3の2拍目と3拍目…Ⅰの人が自分の音はどうなっているのかと戸惑われる箇所でしょう。

★小節番号11の3拍目から小節番号13の2拍目まで…
Ⅱが重要なメロディーを担う部分です。
カノンの末尾をⅡが受け取って、終曲に導く。

 この部分は、Ⅰの人が高い音を歌わないことを伝え、自分のパートの音をしっかり意識してもらうことが必要だと思います。

【バッハ以降の機能和声に基づく曲では通常ありえない和声の部分:完全5度の扱い】  
パレストリーナの時代(ルネサンス後期)特有の響きを持つ箇所  

いくつかありますが特に目立つ部分

★小節番号6  ⅠⅡⅢ各パート初めの音 
言葉:dul 
下から 「ラミラ」 ラミ(完全5度)+ミラ(完全4度)

機能和声では通常この構成音の中に、「ド」を加える。
たとえば、下から「ラミドラ」とする。
すると、完全5度や、完全4度の異質な特有の響きが解消(緩和)される。

★小節番号9の3拍目  言葉:si
Ⅰ休符   ⅡとⅢ 下から「ラミ」  下から ラミ(完全5度)
 
 機能和声では完全5度のみで和音を構成することは通常ありえないです。
(ただしモーツァルトの愛好した「ホルン5度」という牧歌的な使用法はあるのですが、パレストリーナの使い方は、それとは異なります。)
通常完全5度の異質な響きを解消(緩和)するために「ド」を加えます。


 実際パレストリーナは、完全5度の直後、小節番号9の4拍目で、パートⅠに重要な「ド」の音を加えています。
この「ド」の音…カノンの初めの「ド」の音。また、この曲全体でもっとも高い音。
この「ド」は和声の構成音としても重要。
メロディーとしても1オクターヴ下降するカノンの初めの音として重要。大切な音。

 完全5度を部分的に使用した直後は、後の時代(バッハ以降の機能和声の時代)を先がけるような、美しい和声進行が続きます。 このあたりの和声の処理はシンプルですが白眉です。後の時代の機能和声に基づく伝統聖歌の香りがします。


 ルネサンス後期パレストリーナの時代の完全5度は、その響きそのものを「生のまま」使用しますが、彼は後の時代の和声を見越しているのですが、ポイントの部分で、完全5度を効果的に使う使用法にとどめたのだと思います。Jesu rex admirabillisでは、上に書いたように、フレーズの終わり(小節番号6)と新しいフレーズの初め(小節番号9)、2カ所にとどめています。

 この部分はあっさり処理する(歌う)ことだと思います。しつこく押さえつけるような発声で、完全5度の響きの部分を歌うことは避けたいものです。

 Jesu rex admirabillisに関してはここまでです。


【追記】
カトリック聖歌「御母マリア(カ305)」のフランス語版は、バッハ以降の機能和声で作られた曲です。フランス語版の楽譜は、前半が2声になっています。
Prends mon coeur
http://gauterdo.com/ref/pp/prends.mon.coeur.le.voila2.html

2声の部分の音の構成を見てみると、会衆用聖歌としての歌いやすさが主眼におかれた音の配置となっています。
ほとんどが3声(下から、ソシ、ラド、シレ…)で音がとりやすいようになっています。

★【完全5度】を含む「ホルン五度」の使用例が見られます。

小節番号:1小節目、3つ目の音、下から「レラ」
レとラの間には半音(間に黒い鍵盤がないミファ)が一つあるので、「レラ」は完全5度です。
「レラ」はどのような音にはさまれているか?

 下から「シソ」「レラ」「ソシ」 (1小節目の2番目、3番目、4番目の音) これが「ホルン五度」です。

 この音の縦の配置で「シソ」「レラ」「ソシ」と進む(進行する)完全5度の使い方を、「ホルン五度」というのです。

 理屈を言うとさらにややこしくなるのでやめますが、実際にこの進行「シソ」「レラ」「ソシ」を弾いてみると、ああ、どこかで聞く響きだなあという感じだと思います。モーツァルトもベートーベンもシューベルトもよく使います。完全5度特有の個性のある民族音楽的な異郷的な響きを、必ずサンドイッチではさむことによって、ホルンの響きのような牧歌的な雰囲気が出せるのですね。

 同じことは小節番号9小節目(上から3段目の初め)の、2番目、3番目、4番目の音にも現れます。これも、「ホルン五度」の使用例です。

★【減5度】はどのように使用されているか?

 この編曲はほとんど3度で主旋律を支えていく方法ですが、
小節番号15小節目、4番目の音 言葉: dou-ceのceの音  下から「ファ♯ ド(Fis-C)」

 これは、「減5度」となります。「ファド」は完全五度ですが、ファ(F)がファ♯(Fis)になることで、音の幅が半音狭くなり、完全五度ではなく、減5度になります。

 フレーズの終わりにふさわしい柔らかな5度です。

 この曲はト長調(G Dur)なので、導音(どうおん)は、「ファ♯」になります。
「ファ♯」は限りなく「ソ」に導く性質を持つ音です。
楽譜をご覧ください。「ファ♯ーファ♯ ソーー」
 導音「ファ♯」は、ソの音(ト長調では音階の第一番目の音、第一音:主音といいます)に導き、曲の小休止にいたりました。

 ト長調ではもうひとつの導音(どうおん)は「ド」です。この「ド」は、限りなく「シ」に導く性質を持っています。ト長調では「シ」の音は、音階の第3番目の音、第3音になります。
 楽譜をご覧ください。 「ドーシ」
原則通り、導音「ド」は「シ」に導きました。



【付録】
 完全5度:半音(ピアノで言えば間に黒鍵のない「ミファ」「シド」の部分)を1つ含む5度のこと。ハ長調では、下から「ドソ」「レラ」「ミシ」「ファド」「ソレ」「ラミ」の音の幅(音程)が完全5度。

 減5度:  (下から) 「シファ」は、間に黒鍵のない半音「シド」「ミファ」を2つ含むので、音の幅(音程)が完全5度より半音狭く、「減(げん)5度」と言います。「減5度」は完全5度より響きが柔らかで、対位法では多用されます。ハ長調で(下から)「シファ」の場合、「減5度」

 シは導音(どうおん)といって、限りなく「ド」に導く性質をもちます。
音階の7番目の音。第7音。ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ
シ→ド (曲が終わりますよという感じ)

また、ファも導音(どうおん)と言って、限りなく「ミ」に導く性質をもちます。
音階の4番目の音。第4音。ド-レ-ミ-ファ
ファ→ミ
       

 伝統聖歌では、和声進行の自然な流れを生かした旋律が多いので、ハ長調の聖歌では、シ→ド、ファ→ミ と進むことが多くあります。ただし、これは例外も禁則ではないので、たとえばシ→ラ→ソと進む(進行する)こともあります。
先日の主日に歌われた、聖歌もハ長調に直せば、この性質が生かされていることが分かります。
シ→(レ)→ドも大きい目で見れば、シの導音がドに導いているということになります。
ファ→(レ)→ミも大きい目で見れば、ファの導音がミに導いていることになります。
長く世界中で歌われているカトリック聖歌は、このような音階の性質を生かしたメロディーが多くあります。Adoro te、Panis Angelicus、みこころに、もろびとこぞりて、しらべもたえに(二)、オ・サルタリス(二)みなそうです。



--このブログを聖マリアの汚れなき御心に捧げます--

アヴェ・マリア・インマクラータ!
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