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鳥の足のウロコは羽毛が二次的に変化したもので、爬虫類のウロコとは異なる


哺乳類には毛があり、爬虫類には鱗がある。鳥類には羽毛と鱗の両方がある。このうち鳥の足にある鱗の起源については、何十年も前から研究者の興味を引いていて、2つの考え方がある。1つの説は、鳥の鱗は爬虫類の鱗がそのまま残ったものである、というもの。もう1つの説は、鳥の鱗は二次的に羽毛に由来する構造物である、というものである。

鳥の足にある鱗は、いくつかの種類に分けられるが、主に中足骨・指骨の背面にある楯状鱗scutate scale と側面・腹側面にある網状鱗reticulate scale がある。ちなみにワニの身体は背面、腹面、四肢が重複鱗overlapping scale というヨロイ状の鱗で覆われている。

最近Wu et al. (2018)は、ニワトリの羽毛、ニワトリの楯状鱗、ワニの重複鱗の発生過程を比較し、それぞれの原基の全遺伝子発現プロフィールを比較した結果、鳥類の楯状鱗は爬虫類の鱗よりも鳥類の羽毛に近いものであると報告している。

ニワトリの羽毛と楯状鱗の原基は、両方とも初期の段階では円形のプラコード(外胚葉が肥厚したもの)からできてくる。羽毛原基ではプラコードが伸びて、bud状になっていく。楯状鱗の原基では円形のプラコードが、一部隣のプラコードと癒合して、長方形に近い形になることでヨロイ状の配列が形成される。一方、ワニの重複鱗の原基では丸いプラコードが形成されず、徐々に四角い碁盤の目状になっていく。楯状鱗の最終的な形態や配列は、ワニの重複鱗と似ていた。

著者らは過去に、ニワトリの羽毛原基と楯状鱗の原基の間で、全遺伝子の発現パターンを比較し、多数の“羽毛関連遺伝子群”と“鱗関連遺伝子群”を同定していた。そこで今回は、ニワトリの羽毛、ニワトリの楯状鱗、ワニの重複鱗の3つのサンプルの間で、これらの遺伝子群の発現パターンを比較した。(もちろんニワトリには存在するがワニには存在しない遺伝子もあるので、上記2つの遺伝子群のうちワニのゲノム上に存在する遺伝子群に注目した。)
 その結果、“羽毛関連遺伝子群”はニワトリの羽毛原基では高いレベルで、ニワトリの楯状鱗原基では低いレベルで発現していた。ワニの重複鱗の原基では全く異なるパターンを示した。次に“鱗関連遺伝子群”は、ニワトリの羽毛原基では低いレベルで、楯状鱗原基では高いレベルで発現していた。一方、ワニの重複鱗の原基ではどちらとも異なるパターンを示した。多くの遺伝子は楯状鱗原基と同様の発現レベルを示していないといっている。

結局Wu et al. (2018)は、ニワトリの楯状鱗とワニの重複鱗は、最終的な形態形成の様式は似ているが、前者は発生初期に羽毛と同じ丸いプラコードから生じること、全遺伝子発現のパターンが似ていないことから、収斂進化によって同じようなウロコの形態になったと結論している。

この“鱗関連遺伝子群”のデータに関しては、ややデータの解釈が難しいところがあると思う。ワニの重複鱗でいくつかの遺伝子はニワトリの楯状鱗と同様に高く発現しているようにみえる。それらが形態形成に関係しているのかもしれない。全体としては似ていないというが、動物種がかけ離れている割には、似ているようにもみえる。つまり何をもって似ている似ていないというのか、基準を決めて定量的に示す必要があるのではないか。その他コメントしたいことはあるが、ここでは割愛する。

ニワトリの楯状鱗が羽毛と同じ丸いプラコードから生じるなどの観察は、この研究が最初ではなく、何十年も以前から知られてきた。そして楯状鱗は羽毛原基から二次的に生じたという考え方も、以前から提唱されていた。その中でも重要なのは、Dhouailly (2009) の総説である。これは羊膜類の皮膚派生物について、ニワトリやマウスの実験発生学、発生遺伝学、ミクロラプトルなどの化石の発見をもふまえて、進化のシナリオを提唱したもので、EvoDevoに興味のある方は参照されたい。

Dhouailly (2009)の考えによると、哺乳類の皮膚は毛を形成する機構を、鳥類の皮膚は羽毛を形成する機構を、それぞれ基本的なプログラムとして持っている。それを調節することで、毛の代わりに皮脂腺を、羽毛の代わりに鱗を作り出しているという。
 もともと現生鳥類の中でもイヌワシやフクロウのように指まで羽毛で覆われている種類もいる。また家禽ではハトやチャボの品種で、指に羽毛が生えているものも知られてきた。さらに、ニワトリでは比較的簡単な実験操作で、羽毛と鱗を変換することができる。その仕組みは完全にはわかっていないが、重要な調節機構の一つはWnt/β-カテニンシグナルである。β-カテニンシグナルのレベルが高いと羽毛が形成され、やや低いと鱗が形成される。マウスではβ-カテニンシグナルのレベルが高いと毛が生え、低いと皮脂腺になってしまう。

ここからはDhouailly (2009)の考えではなく私の感想であるが、羽毛を獲得した恐竜は、ある段階以後は、比較的容易に羽毛と鱗の両方を作り分ける機構を獲得したと考えられる。そう考えるとティラノサウロイドの中でも、ディロングのように羽毛で覆われた種類より後の時代に、うろこ状の皮膚で覆われた大型種が出現しても不思議はなく、十分にあり得ることのように思える。また羽毛を獲得したのが獣脚類の祖先なのか、恐竜全体の祖先なのか、オルニトスケリダで1回なのかにもよるが、クリンダドロメウスやプシッタコサウルスのような状態もさして驚くべきことではないのかもしれない。



参考文献
Ping Wu, Yung-Chih Lai, Randall Widelitz & Cheng-Ming Chuong (2018) Comprehensive molecular and cellular studies suggest avian scutate scales are secondarily derived from feathers, and more distant from reptilian scales. Scientific Reports 8:16766 | DOI:10.1038/s41598-018-35176-y
https://www.nature.com/articles/s41598-018-35176-y

Dhouailly (2009) A new scenario for the evolutionary origin of hair, feather, and avian scales. Journal of Anatomy 214, 587-606.
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