内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

シリーズ 増税は被災地復興に今必要か?

2011-07-20 | Weblog
シリーズ 増税は被災地復興に今必要か?
 6月25日、政府の復興構想会議(議長 五百旗頭真 防衛大学校長)は、東日本大地震により「想定外」の被害を受けた被災地復興に向けた提言をまとめ、菅首相に提出した。
 自然の力が人間の文明の力を超えることがあることを認識し、防災から「減災」を目指し、安全な生活環境や職場環境を再構築して行くことを提言しつつ、被災県の要望なども取り入れて、漁業や農業、商業地・宅地などの弾力的な対応を可能にするよう、規制緩和などによる「特区」制度なども提言に盛っている。筆者も4月までに復旧・復興への基本的な取り組み方を示しているが、今回の提言は被災地の具体的な要望なども加味したもので一定の方向性を示していると言えよう。
 しかし考え方は実務的、事務的で、スケールの小さい復興提言とも言えよう。被災地は、岩手、宮城、福島の3県の他、茨城県などにも及ぶもので、広域に亘り「さら地状態」の区域があるので、首都機能の移転や東北3県を中心とする東北州構想や東北の運輸、流通のハブとなるような東北日本運輸・流通センターを含む東北経済開発区(仮称)などの大構想などもあっても良いのではないだろうか。
 1、最大の課題、被災地復興の財源
 だが最大の問題は、財源である。今回の提言には、既存の予算の見直しをするとしつつも、「基幹税(所得、消費、法人の3税)を中心に多角的な検討を速やかに行い、具体的な措置を講ずるべき」としている。「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いにより確保しなければならない」と提唱しているが、宮崎県知事などは当初から“復興は国の責任で、消費税増税で”と主張しているので、そのような主張が取り入れられた形であり、一定の理解は出来る。しかしそれは選択肢の一つではあるが、実務者や事務方としての安易な増税依存ではないだろうか。
 日本の公的な債務残高は、2010年末で924兆円に達し、財務省の試算では11年末には1,000兆円超となる。これは将来世代の国民が負担しなくてはならない国家の債務である。現在膨らみ続けている1,000兆円はいずれ返済されなくてはならないが、高度成長期時代のような経済成長による大幅な税の増収は見込み薄である上、年金はじめ社会福祉費は増加すると予想されているので、いずれ増税が必要となると見られている。それが従来から検討されている「社会保障と税の一体改革」論であり、現民主党政権は「消費税を2010年代半ばまでに10%まで増税する」方向だ。破綻しつつある社会保障、特に納付が減り続けている国民年金や逆に増え続けている生活保護費など、社会福祉費をを賄うための増税である。
この状態で被災地復興の資金源として何らかの増税を行えば、被災地復興経費は国民への追加的な負担となる。増税論者は、消費税増税10%の内枠であると説明するかもしれないし、或いは一定期間の復興税の新設や所得税や法人税の増税をと言うかもしれない。しかし、経済自体と共に国民心理が萎縮しているこの時期に増税すべきなのであろうか。それ以上に、課税による復興資金の捻出は、可能ではあるが、被災地復興のための責任と負担を全て国民に転嫁することに等しく、安易であろう。
2、まず行われるべき特別会計を含む政府予算全体の節減
 被災地復興は、現在の日本の最優先事項である。被災地復興だけではなく、日本経済全体の発展のためにも最優先で取り組まなくてはならないことであろう。そうであれば、既存の政府予算全体の中で、その他の政策事業の優先度を見直し、復興費に振り向けるべきであろう。政府予算自体も国民により負担されている。
政策事業の優先度の見直しは、既得権益との調整が必要な大変な作業であるが、それが出来るのは国民から政治を信託されている国会議員しかない。その結果に基づいて国民が議員を選ぶことになる。行政組織の事務方は、法律により権限が省庁縦割りになっており、また省庁内も局ごとに縦割りになっているので、分野や事項毎に優先度を付すことは残念ながら実態上困難である。
 更に復興財源を税とする旨一旦表明すれば、行政各部は歳費削減や行政改革を進める必要がなくなり、行政改革は事実上頓挫することになろう。
 しかし戦後、高度成長期からバブル期に肥大化した行政組織や104に及ぶ独立行政法人や13種類にも及ぶ特別会計などの各種政府事業を見ると、それぞれ一定の必要性はあったのだろうが、これまで通り維持することは困難であると共に、財源に制約がある以上、廃止、縮減、民営化などの選択肢を検討せざるを得ない状況と言えよう。これまでの行政活動や政府事業に明確な優先度を付し、一定の必要性があっても、優先度の低い活動や事業は抜本的に縮小するなり、民間事業に転換することを検討して良い時期だ。無論それにより行政サービスが低下したりする分野が出てくるであろうが、どうしても必要な事業は利用者が費用を負担する民間事業とするなどにより補うことが出来る。
国民の側も、これまでのように何でもかんでも行政に依存するということではなく、自己責任・受益者負担の意識を持って、行政が出来なくなった事業を民間事業やボランテイアにより行い、国民が必要とする事業、サービスで国民が行えるものは国民自身が行い、サービスの有償化やそれぞれの意志によって出資・拠出するという国民参加モデルを促進することが望まれる。もし国民がこれまでのような細かい行政サービスの継続を期待するのであれば、高負担を容認するということになろう。
3、巨額ではあるが捻出可能な復旧・復興に要する費用
内閣府の推計によると、東日本大震災による被害額は約17兆億円としているが、これには福島原発事故による被害が含めていないので、最終的な被災額は更に膨らむと予想されている。これらの被災地復興費を全て国費で賄うということではなく、一部は民間資金や復興過程での収益などで調達して行くことになるが、あるエコノミストの試算では、復旧・復興に要する費用は、福島原発事故関係は別として14兆円から20兆円としている。
 今後3年間を東日本被災地復興集中期間とすると、年間10兆円ほどを復興費として当てる必要があることになる。本年度については、4兆円規模の第1次補正は成立しており、2次補正以降どの程度の規模となるかは明らかではないが、その財源としては、基本的に予備費3,000億円の他、公債費及び年金給付費を除く一般会計歳出の一律10%程度を節約し、復旧、復興の財源に当てることとすべきであろう。本来であれば分野、事業ごとに優先度を設け、節約率に差を設けることが望ましいが、そうすると議論百出でまとまらないであろうから、各省庁とも独立行政法人への交付金、助成金、委託費の節減を中心として、一律10%節約を義務付ける。23年度の一般会計歳出予算は92.4兆円であるので、それから国債費21.5兆円及び年金費10.4兆円と予備費0.3兆円を引いた60.2兆円の10%相当の6兆円程度を今後の復旧、復興の財源に当てる。
 また13種類ある特別会計事業については、歳出の純計が170兆円前後に達しており、それから国債償還に当てられる額を差し引いても110兆~120兆円前後あるので、今後3年間で全体として毎年10%に相当する額を国庫に返納し、復興財源とすべきであろう。段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民営化などにより、特別会計の規模を現在の半分以下に整理して行くことを検討する時期だ。これにより行政的なサービスが低下するなどの影響は一部あろうが、それは有料の民間事業への転換などで対応することは不可能ではない。特別会計事業については仔細に見てみると、国有林事業特別会計、登記特別会計、食料安定供給特別会計、特許特別会計、自動車安全特別会計の他、貿易再保険特別会計・地震再保険特別会計、果樹・園芸施設・業務勘定などの保険事業は、その大部分は民間事業化することは可能であろう。これら特別会計事業のほとんどは、独立の事業である上、余剰、即ち収益は国債償還に当てるという官業ビジネス・モデルであるので、民間事業化は容易であり、また民間事業化後の税収が期待できる。また独立行政法人の中には特会と関連しているものも多いので、特会の民間事業化は関連する独立行政法人の民間事業化にもなろう。いずれにしても財源に制約がある以上、これまでのような官業事業を維持することは難しくなっているとの認識に立って検討されることが望まれる。
明年度以降の予算編成においては、一般会計歳出の復旧、復興費として優先して必要額を計上し、他の歳出や事業を優先度を付して調整・整理し編成することが望まれる。
 特別会計予算については、段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民間事業化などにより、特別会計の規模を抜本的に整理し、被災地復興のための財源として行くことが望まれる。
 またこのような行政、立法側の努力と平行して、財界も個々の企業の努力に加え、被災地の産業復興のために、財界全体として或いは産業グループ毎に、関係企業が出資、拠出等し、被災地の産業基盤の復興・再生や無利子の融資事業などが行えるシステムを構築することが望まれる。

 増税は、このような政府行政組織と国会の努力が十分に行われ、少子・高令化と低位成長の下での財政難という経済社会情勢に対応し、持続可能な行政モデルへの転換が図られる道筋がついてからが望ましい。消費者心理の更なる萎縮を避け、民間活力を最大限に維持、促進して行くことが、被災地復興の鍵であり、日本経済再生への早道となろう。
 なお将来的には、現行の消費税に付加する形で、ガソリンなど高率の暫定税が既に賦課されているものや、食料、子供用品など日常生活物資、日常的な必需品は除外する形の「付加価値税」については、影響が限定的となるので検討に値しよう。((2011.7.15)
(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
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シリーズ 増税は被災地復興に今必要か?
 6月25日、政府の復興構想会議(議長 五百旗頭真 防衛大学校長)は、東日本大地震により「想定外」の被害を受けた被災地復興に向けた提言をまとめ、菅首相に提出した。
 自然の力が人間の文明の力を超えることがあることを認識し、防災から「減災」を目指し、安全な生活環境や職場環境を再構築して行くことを提言しつつ、被災県の要望なども取り入れて、漁業や農業、商業地・宅地などの弾力的な対応を可能にするよう、規制緩和などによる「特区」制度なども提言に盛っている。筆者も4月までに復旧・復興への基本的な取り組み方を示しているが、今回の提言は被災地の具体的な要望なども加味したもので一定の方向性を示していると言えよう。
 しかし考え方は実務的、事務的で、スケールの小さい復興提言とも言えよう。被災地は、岩手、宮城、福島の3県の他、茨城県などにも及ぶもので、広域に亘り「さら地状態」の区域があるので、首都機能の移転や東北3県を中心とする東北州構想や東北の運輸、流通のハブとなるような東北日本運輸・流通センターを含む東北経済開発区(仮称)などの大構想などもあっても良いのではないだろうか。
 1、最大の課題、被災地復興の財源
 だが最大の問題は、財源である。今回の提言には、既存の予算の見直しをするとしつつも、「基幹税(所得、消費、法人の3税)を中心に多角的な検討を速やかに行い、具体的な措置を講ずるべき」としている。「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いにより確保しなければならない」と提唱しているが、宮崎県知事などは当初から“復興は国の責任で、消費税増税で”と主張しているので、そのような主張が取り入れられた形であり、一定の理解は出来る。しかしそれは選択肢の一つではあるが、実務者や事務方としての安易な増税依存ではないだろうか。
 日本の公的な債務残高は、2010年末で924兆円に達し、財務省の試算では11年末には1,000兆円超となる。これは将来世代の国民が負担しなくてはならない国家の債務である。現在膨らみ続けている1,000兆円はいずれ返済されなくてはならないが、高度成長期時代のような経済成長による大幅な税の増収は見込み薄である上、年金はじめ社会福祉費は増加すると予想されているので、いずれ増税が必要となると見られている。それが従来から検討されている「社会保障と税の一体改革」論であり、現民主党政権は「消費税を2010年代半ばまでに10%まで増税する」方向だ。破綻しつつある社会保障、特に納付が減り続けている国民年金や逆に増え続けている生活保護費など、社会福祉費をを賄うための増税である。
この状態で被災地復興の資金源として何らかの増税を行えば、被災地復興経費は国民への追加的な負担となる。増税論者は、消費税増税10%の内枠であると説明するかもしれないし、或いは一定期間の復興税の新設や所得税や法人税の増税をと言うかもしれない。しかし、経済自体と共に国民心理が萎縮しているこの時期に増税すべきなのであろうか。それ以上に、課税による復興資金の捻出は、可能ではあるが、被災地復興のための責任と負担を全て国民に転嫁することに等しく、安易であろう。
2、まず行われるべき特別会計を含む政府予算全体の節減
 被災地復興は、現在の日本の最優先事項である。被災地復興だけではなく、日本経済全体の発展のためにも最優先で取り組まなくてはならないことであろう。そうであれば、既存の政府予算全体の中で、その他の政策事業の優先度を見直し、復興費に振り向けるべきであろう。政府予算自体も国民により負担されている。
政策事業の優先度の見直しは、既得権益との調整が必要な大変な作業であるが、それが出来るのは国民から政治を信託されている国会議員しかない。その結果に基づいて国民が議員を選ぶことになる。行政組織の事務方は、法律により権限が省庁縦割りになっており、また省庁内も局ごとに縦割りになっているので、分野や事項毎に優先度を付すことは残念ながら実態上困難である。
 更に復興財源を税とする旨一旦表明すれば、行政各部は歳費削減や行政改革を進める必要がなくなり、行政改革は事実上頓挫することになろう。
 しかし戦後、高度成長期からバブル期に肥大化した行政組織や104に及ぶ独立行政法人や13種類にも及ぶ特別会計などの各種政府事業を見ると、それぞれ一定の必要性はあったのだろうが、これまで通り維持することは困難であると共に、財源に制約がある以上、廃止、縮減、民営化などの選択肢を検討せざるを得ない状況と言えよう。これまでの行政活動や政府事業に明確な優先度を付し、一定の必要性があっても、優先度の低い活動や事業は抜本的に縮小するなり、民間事業に転換することを検討して良い時期だ。無論それにより行政サービスが低下したりする分野が出てくるであろうが、どうしても必要な事業は利用者が費用を負担する民間事業とするなどにより補うことが出来る。
国民の側も、これまでのように何でもかんでも行政に依存するということではなく、自己責任・受益者負担の意識を持って、行政が出来なくなった事業を民間事業やボランテイアにより行い、国民が必要とする事業、サービスで国民が行えるものは国民自身が行い、サービスの有償化やそれぞれの意志によって出資・拠出するという国民参加モデルを促進することが望まれる。もし国民がこれまでのような細かい行政サービスの継続を期待するのであれば、高負担を容認するということになろう。
3、巨額ではあるが捻出可能な復旧・復興に要する費用
内閣府の推計によると、東日本大震災による被害額は約17兆億円としているが、これには福島原発事故による被害が含めていないので、最終的な被災額は更に膨らむと予想されている。これらの被災地復興費を全て国費で賄うということではなく、一部は民間資金や復興過程での収益などで調達して行くことになるが、あるエコノミストの試算では、復旧・復興に要する費用は、福島原発事故関係は別として14兆円から20兆円としている。
 今後3年間を東日本被災地復興集中期間とすると、年間10兆円ほどを復興費として当てる必要があることになる。本年度については、4兆円規模の第1次補正は成立しており、2次補正以降どの程度の規模となるかは明らかではないが、その財源としては、基本的に予備費3,000億円の他、公債費及び年金給付費を除く一般会計歳出の一律10%程度を節約し、復旧、復興の財源に当てることとすべきであろう。本来であれば分野、事業ごとに優先度を設け、節約率に差を設けることが望ましいが、そうすると議論百出でまとまらないであろうから、各省庁とも独立行政法人への交付金、助成金、委託費の節減を中心として、一律10%節約を義務付ける。23年度の一般会計歳出予算は92.4兆円であるので、それから国債費21.5兆円及び年金費10.4兆円と予備費0.3兆円を引いた60.2兆円の10%相当の6兆円程度を今後の復旧、復興の財源に当てる。
 また13種類ある特別会計事業については、歳出の純計が170兆円前後に達しており、それから国債償還に当てられる額を差し引いても110兆~120兆円前後あるので、今後3年間で全体として毎年10%に相当する額を国庫に返納し、復興財源とすべきであろう。段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民営化などにより、特別会計の規模を現在の半分以下に整理して行くことを検討する時期だ。これにより行政的なサービスが低下するなどの影響は一部あろうが、それは有料の民間事業への転換などで対応することは不可能ではない。特別会計事業については仔細に見てみると、国有林事業特別会計、登記特別会計、食料安定供給特別会計、特許特別会計、自動車安全特別会計の他、貿易再保険特別会計・地震再保険特別会計、果樹・園芸施設・業務勘定などの保険事業は、その大部分は民間事業化することは可能であろう。これら特別会計事業のほとんどは、独立の事業である上、余剰、即ち収益は国債償還に当てるという官業ビジネス・モデルであるので、民間事業化は容易であり、また民間事業化後の税収が期待できる。また独立行政法人の中には特会と関連しているものも多いので、特会の民間事業化は関連する独立行政法人の民間事業化にもなろう。いずれにしても財源に制約がある以上、これまでのような官業事業を維持することは難しくなっているとの認識に立って検討されることが望まれる。
明年度以降の予算編成においては、一般会計歳出の復旧、復興費として優先して必要額を計上し、他の歳出や事業を優先度を付して調整・整理し編成することが望まれる。
 特別会計予算については、段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民間事業化などにより、特別会計の規模を抜本的に整理し、被災地復興のための財源として行くことが望まれる。
 またこのような行政、立法側の努力と平行して、財界も個々の企業の努力に加え、被災地の産業復興のために、財界全体として或いは産業グループ毎に、関係企業が出資、拠出等し、被災地の産業基盤の復興・再生や無利子の融資事業などが行えるシステムを構築することが望まれる。

 増税は、このような政府行政組織と国会の努力が十分に行われ、少子・高令化と低位成長の下での財政難という経済社会情勢に対応し、持続可能な行政モデルへの転換が図られる道筋がついてからが望ましい。消費者心理の更なる萎縮を避け、民間活力を最大限に維持、促進して行くことが、被災地復興の鍵であり、日本経済再生への早道となろう。
 なお将来的には、現行の消費税に付加する形で、ガソリンなど高率の暫定税が既に賦課されているものや、食料、子供用品など日常生活物資、日常的な必需品は除外する形の「付加価値税」については、影響が限定的となるので検討に値しよう。((2011.7.15)
(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
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 6月25日、政府の復興構想会議(議長 五百旗頭真 防衛大学校長)は、東日本大地震により「想定外」の被害を受けた被災地復興に向けた提言をまとめ、菅首相に提出した。
 自然の力が人間の文明の力を超えることがあることを認識し、防災から「減災」を目指し、安全な生活環境や職場環境を再構築して行くことを提言しつつ、被災県の要望なども取り入れて、漁業や農業、商業地・宅地などの弾力的な対応を可能にするよう、規制緩和などによる「特区」制度なども提言に盛っている。筆者も4月までに復旧・復興への基本的な取り組み方を示しているが、今回の提言は被災地の具体的な要望なども加味したもので一定の方向性を示していると言えよう。
 しかし考え方は実務的、事務的で、スケールの小さい復興提言とも言えよう。被災地は、岩手、宮城、福島の3県の他、茨城県などにも及ぶもので、広域に亘り「さら地状態」の区域があるので、首都機能の移転や東北3県を中心とする東北州構想や東北の運輸、流通のハブとなるような東北日本運輸・流通センターを含む東北経済開発区(仮称)などの大構想などもあっても良いのではないだろうか。
 1、最大の課題、被災地復興の財源
 だが最大の問題は、財源である。今回の提言には、既存の予算の見直しをするとしつつも、「基幹税(所得、消費、法人の3税)を中心に多角的な検討を速やかに行い、具体的な措置を講ずるべき」としている。「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いにより確保しなければならない」と提唱しているが、宮崎県知事などは当初から“復興は国の責任で、消費税増税で”と主張しているので、そのような主張が取り入れられた形であり、一定の理解は出来る。しかしそれは選択肢の一つではあるが、実務者や事務方としての安易な増税依存ではないだろうか。
 日本の公的な債務残高は、2010年末で924兆円に達し、財務省の試算では11年末には1,000兆円超となる。これは将来世代の国民が負担しなくてはならない国家の債務である。現在膨らみ続けている1,000兆円はいずれ返済されなくてはならないが、高度成長期時代のような経済成長による大幅な税の増収は見込み薄である上、年金はじめ社会福祉費は増加すると予想されているので、いずれ増税が必要となると見られている。それが従来から検討されている「社会保障と税の一体改革」論であり、現民主党政権は「消費税を2010年代半ばまでに10%まで増税する」方向だ。破綻しつつある社会保障、特に納付が減り続けている国民年金や逆に増え続けている生活保護費など、社会福祉費をを賄うための増税である。
この状態で被災地復興の資金源として何らかの増税を行えば、被災地復興経費は国民への追加的な負担となる。増税論者は、消費税増税10%の内枠であると説明するかもしれないし、或いは一定期間の復興税の新設や所得税や法人税の増税をと言うかもしれない。しかし、経済自体と共に国民心理が萎縮しているこの時期に増税すべきなのであろうか。それ以上に、課税による復興資金の捻出は、可能ではあるが、被災地復興のための責任と負担を全て国民に転嫁することに等しく、安易であろう。
2、まず行われるべき特別会計を含む政府予算全体の節減
 被災地復興は、現在の日本の最優先事項である。被災地復興だけではなく、日本経済全体の発展のためにも最優先で取り組まなくてはならないことであろう。そうであれば、既存の政府予算全体の中で、その他の政策事業の優先度を見直し、復興費に振り向けるべきであろう。政府予算自体も国民により負担されている。
政策事業の優先度の見直しは、既得権益との調整が必要な大変な作業であるが、それが出来るのは国民から政治を信託されている国会議員しかない。その結果に基づいて国民が議員を選ぶことになる。行政組織の事務方は、法律により権限が省庁縦割りになっており、また省庁内も局ごとに縦割りになっているので、分野や事項毎に優先度を付すことは残念ながら実態上困難である。
 更に復興財源を税とする旨一旦表明すれば、行政各部は歳費削減や行政改革を進める必要がなくなり、行政改革は事実上頓挫することになろう。
 しかし戦後、高度成長期からバブル期に肥大化した行政組織や104に及ぶ独立行政法人や13種類にも及ぶ特別会計などの各種政府事業を見ると、それぞれ一定の必要性はあったのだろうが、これまで通り維持することは困難であると共に、財源に制約がある以上、廃止、縮減、民営化などの選択肢を検討せざるを得ない状況と言えよう。これまでの行政活動や政府事業に明確な優先度を付し、一定の必要性があっても、優先度の低い活動や事業は抜本的に縮小するなり、民間事業に転換することを検討して良い時期だ。無論それにより行政サービスが低下したりする分野が出てくるであろうが、どうしても必要な事業は利用者が費用を負担する民間事業とするなどにより補うことが出来る。
国民の側も、これまでのように何でもかんでも行政に依存するということではなく、自己責任・受益者負担の意識を持って、行政が出来なくなった事業を民間事業やボランテイアにより行い、国民が必要とする事業、サービスで国民が行えるものは国民自身が行い、サービスの有償化やそれぞれの意志によって出資・拠出するという国民参加モデルを促進することが望まれる。もし国民がこれまでのような細かい行政サービスの継続を期待するのであれば、高負担を容認するということになろう。
3、巨額ではあるが捻出可能な復旧・復興に要する費用
内閣府の推計によると、東日本大震災による被害額は約17兆億円としているが、これには福島原発事故による被害が含めていないので、最終的な被災額は更に膨らむと予想されている。これらの被災地復興費を全て国費で賄うということではなく、一部は民間資金や復興過程での収益などで調達して行くことになるが、あるエコノミストの試算では、復旧・復興に要する費用は、福島原発事故関係は別として14兆円から20兆円としている。
 今後3年間を東日本被災地復興集中期間とすると、年間10兆円ほどを復興費として当てる必要があることになる。本年度については、4兆円規模の第1次補正は成立しており、2次補正以降どの程度の規模となるかは明らかではないが、その財源としては、基本的に予備費3,000億円の他、公債費及び年金給付費を除く一般会計歳出の一律10%程度を節約し、復旧、復興の財源に当てることとすべきであろう。本来であれば分野、事業ごとに優先度を設け、節約率に差を設けることが望ましいが、そうすると議論百出でまとまらないであろうから、各省庁とも独立行政法人への交付金、助成金、委託費の節減を中心として、一律10%節約を義務付ける。23年度の一般会計歳出予算は92.4兆円であるので、それから国債費21.5兆円及び年金費10.4兆円と予備費0.3兆円を引いた60.2兆円の10%相当の6兆円程度を今後の復旧、復興の財源に当てる。
 また13種類ある特別会計事業については、歳出の純計が170兆円前後に達しており、それから国債償還に当てられる額を差し引いても110兆~120兆円前後あるので、今後3年間で全体として毎年10%に相当する額を国庫に返納し、復興財源とすべきであろう。段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民営化などにより、特別会計の規模を現在の半分以下に整理して行くことを検討する時期だ。これにより行政的なサービスが低下するなどの影響は一部あろうが、それは有料の民間事業への転換などで対応することは不可能ではない。特別会計事業については仔細に見てみると、国有林事業特別会計、登記特別会計、食料安定供給特別会計、特許特別会計、自動車安全特別会計の他、貿易再保険特別会計・地震再保険特別会計、果樹・園芸施設・業務勘定などの保険事業は、その大部分は民間事業化することは可能であろう。これら特別会計事業のほとんどは、独立の事業である上、余剰、即ち収益は国債償還に当てるという官業ビジネス・モデルであるので、民間事業化は容易であり、また民間事業化後の税収が期待できる。また独立行政法人の中には特会と関連しているものも多いので、特会の民間事業化は関連する独立行政法人の民間事業化にもなろう。いずれにしても財源に制約がある以上、これまでのような官業事業を維持することは難しくなっているとの認識に立って検討されることが望まれる。
明年度以降の予算編成においては、一般会計歳出の復旧、復興費として優先して必要額を計上し、他の歳出や事業を優先度を付して調整・整理し編成することが望まれる。
 特別会計予算については、段階的な節減を図りつつ、中・長期的には、廃止、ないし民間事業化などにより、特別会計の規模を抜本的に整理し、被災地復興のための財源として行くことが望まれる。
 またこのような行政、立法側の努力と平行して、財界も個々の企業の努力に加え、被災地の産業復興のために、財界全体として或いは産業グループ毎に、関係企業が出資、拠出等し、被災地の産業基盤の復興・再生や無利子の融資事業などが行えるシステムを構築することが望まれる。

 増税は、このような政府行政組織と国会の努力が十分に行われ、少子・高令化と低位成長の下での財政難という経済社会情勢に対応し、持続可能な行政モデルへの転換が図られる道筋がついてからが望ましい。消費者心理の更なる萎縮を避け、民間活力を最大限に維持、促進して行くことが、被災地復興の鍵であり、日本経済再生への早道となろう。
 なお将来的には、現行の消費税に付加する形で、ガソリンなど高率の暫定税が既に賦課されているものや、食料、子供用品など日常生活物資、日常的な必需品は除外する形の「付加価値税」については、影響が限定的となるので検討に値しよう。((2011.7.15)
(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
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