『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『夜想曲集』 カズオ・イシグロ

2011-03-05 | Books(本):愛すべき活字


『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』
”Nocturnes  Five Stories of Music and Nightfall” by Kazuo Ishiguro(2009)
カズオ・イシグロ(英:1954-)
土屋政雄 訳
2009年・早川書房
2011年・ハヤカワ文庫


++++

肝心のあの若いハンガリー人マエストロのことも、今日広場で見かけるまではずっと忘れていた。

体形が少し丸くなり、首の周りも太くなっていたが、見れば、あの若者だと気づくのは難しくなかった。


ただ、ウェイターを呼ぶときの指の動きに、昔と違う何かがあった。

私の気のせいかもしれないが、人生への不満からくる苛立ち、ある種の傲慢さ―――

そんな何かがあった。


もちろん、一瞬見かけただけで断定するのはフェアではあるまい。

それでも、周囲に気に入られたいという若者の気遣いを失い、慎重な立ち居振る舞いをなくしているように見えた。

まあ、この世を生きていくにはいいことだと言えなくもない。


++++



2005年の『わたしを離さないで』が、昨年映画化されたカズオ・イシグロ。(日本では今月26日から公開)



よりによって、ルイ・ヨシダの直後にカズオ・イシグロの事を書いて良いのか。

そんな疑念を、

「いや、吉田類だって、今に世界に誇る歌人になる・・・」

と、自分の中で強く打ち消しながら、書き進めていくのだった。


イシグロ初の短篇集。

音楽と夕暮れをめぐる5篇。

長編が得意な人だと勝手に思っていたが・・・、めちゃくちゃいいのです。

5篇いずれもハズレなしだが、個人的に『チェリスト』が好き。

人生の切なさが凝縮されていると思う。


ところで、単行本のカバーは表紙と裏表紙を開くと、レコード盤になってて、これいいジャケだなぁと思ってたんだけど。

今年出た文庫本ではアレンジされちゃってて、ちょいと残念。


夜想曲集(英)
ちなみに英版はこんなん。


■本 de ミュージック
『さよならバードランド』 ビル・クロウ(1996年・新潮社) 
『ジャズ・カントリー』 ナット・ヘントフ(1997年・晶文社) 
『ソング・ブック』 ニック・ホーンビィ(2004年・新潮文庫) 
『ペット・サウンズ』 ジム・フジーリ(2008年・新潮社)
『夜想曲集』 カズオ・イシグロ(2009年・早川書房)
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ もっとも嫌われもっとも影響力のあったアルバム』 ジョー・ハーヴァード(2010年・ブルース・インターアクションズ) 

■映画 de ミュージック
『ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!』 (1964年・英米/リチャード・レスター) 
『イエロー・サブマリン』 (1968年・英/ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス) 
『アマデウス』 (1984年・米/ミロシュ・フォアマン) 
『バード』 (1988年・米/クリント・イーストウッド) 
『あの頃ペニー・レインと』 (2000年・米/キャメロン・クロウ) 
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』 (2005年・米/ジェームズ・マンゴールド) 
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』 (2007年・米仏英中香/ウォン・カーワイ) 
『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』 (2008年・米/ジェームズ・D・スターン) 
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 (2009年・米/サーシャ・ガヴァシ) 


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夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語(単行本)
土屋政雄
早川書房



夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (文庫)
土屋 政雄
早川書房

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