Sleeping in the fields of gold

小麦畑で眠りたい

Ladies in Lavender

2007-10-06 | Films
「ラベンダーの咲く庭で」というイギリス映画を見る。舞台はイングランド南部にあるワイト島。老齢の姉妹をマギー・スミスとジュディー・ディンチが演じている。二人ともとても好きな女優さんである。

マギー・スミスを初めてみたのは、随分昔の「眺めのいい部屋」という映画だったと思う。堅苦しくて間の悪い冴えないオールドミスを演じていた。こういう役がことさら上手いのだ、この人は。高飛車で堅苦しく、感情表現が苦手なビクトリアン朝のイギリス婦人の典型みたいなイメージがある。しかし、この人の背筋のしゃんと通った姿勢と紅茶を飲む様の美しさには、酔いしれてしまう。

ジュディー・ディンチも深みのある演技をする女優さんで、とても好きだ。以前エリザベス女王(1世)の役をやったことがあるが、まぁ、威風堂々としていて様になっていた。このディンチ演じる老婆がこの映画の中ではなんとも愛らしく、切なく描かれている。

ワイト島の自然に囲まれのんびりと暮らす姉妹が、ある日海岸に打ち上げられている青年を見つける。溺れた彼を介抱し、伝わらぬ言葉にとまどいながらも言葉を教え、あれやこれやと面倒を見る。その若い彼に、段々と魅かれていくディンチの姿は圧巻である。「演じる」とはこういうことなんだ、と思う。実年齢でも70歳代であろう彼女が、いとも初々しい恋心を演じる。素直に賞賛できる。それが本当に純粋で一途であるがゆえに、時に自分を見失い醜い嫉妬もし、姉のスミスにそれとなく諭される。その様子を戸惑いながらも温かく見守っているスミスの姿もまた魅力的なのだ。70歳のおばあちゃんが20代の若者に恋をする。そんな年でもないでしょう。人はそう言うだろう。けれども誰かを「愛しい」と思うことに、その人の持つ「光」に魅かれることに、年齢制限のあるはずもない。人は生きている以上、愛しいものを探さずにはおれないのだ。

姉が彼の髪を散髪してあげている様をじっと背後で腕を組んで見ているディンチの姿は、怖ろしくもあり目を逸らしたいほど切なくもあり、見事でもある。切り捨てられた彼の髪の一房を、誰にも気付かれないようにディンチはそっと手のひらに隠し持つ。慕情というのだろうか。若さへの憧憬もあるのだろう。肉欲とは別に愛しい人を独占していたいという女の思いが、どれほど年を重ねた女であろうともあるものなのだなぁとしみじみと見てしまった。

やがて彼には類稀なるバイオリンの才能があることが判明する。そして、姉妹の下を離れ、ロンドンで音楽家として成功していく。バイオリンの音色はひどくロマンティックで感傷的で、映画にとても似合っている。バイオリンの才能のある若者という設定なのでその音色は映画の鍵ともなるのだが、とてもいい。少々甘すぎる感はあるが、この映画全体の雰囲気にはとても効果的だったと思う。映画を見終わった後調べてみたらJoshua Bellという新鋭のバイオリニストが演奏しているものだった。機会があったら、また聞いてみたいなと思う。

ワイト島の美しい自然と、イギリスらしい姉妹の家の庭園の美しさ、村の人々の素朴さ、老齢の姉妹の静かだけれど雄弁な心の機微が、とても丁寧に描かれた良作。

イギリスのこんな美しい風景を、見ることもなく滞在を終えてしまったことが悔やまれる。
イギリスの自然は、本当に美しい。それは一年の大半を重く垂れ込める雲が覆い、しとしとと陰鬱な気分にさせる雨が降るせいだ。
けれどその雨で、緑はまた輝く。
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