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我々は、自滅への近道を歩んでいる

『終末の思想』より 野坂昭如

未唯空間での配置:未来を描く

時が経つということは、良くも悪くも人間の記憶に膜をかける。

例えば立ち直れないほど傷めつけられた人間も、傷ばかり見て過ごすわけにはいかない。時間の経過とともに、自分が生きていることを意識せざるを得ない。

空虚で虚しい日々を過ごしながらも、飯も食えば睡眠もとる。悲しみの中で失ったものの大きさは、日に日に増すものだ。だがその一方で、その存在が、自分にとっていかにかけがえのない宝だったかを、改めて知る。その思いが明日の一歩に繋がる。ほんの一歩でも踏み出すには時間がかかる。

また、時間は人間を忘却の淵に追いやりもする。

地震、津波、原発事故、あまりに多くの災いに直面した。忘れることも許されるだろう。だが、都合よく忘れて済むことではない。

震災後、都市機能は麻疹、日本全体が機能不全に陥った。まずこれを取り戻すことが最優先、それは当然。だが何もかも元通りとはいかない。というより元通りにしてはいけないことがある。

今、日本では、うわべ震災前と何ら変らない風景が広がる。震災は過去のこと、被災地は着々と復興に向けて動いていて、地震対策は行政がやっているはず。まるで何事もなかったかの如く日常が営まれている。

立ち止まり、立ち返ることを忘れている。

悲劇は繰り返されるだろう。悲しいかな人間とはそういうものなのだ。

原発が、いかにいい加減な資本主義システムの中で、成り行きに任せ、馴れ合いの仕組みのもと、設置され、稼働してきたか。この度の事故で少しは世間も知ったはず。

原発はお上主導のもと、進められてきた。経営は民間電力会社ということになっている。事故で明らかになったのは、責任の所在がうやむやであるということ。これはあたり前で、原発導入のスタート時から、うやむやのままなのだ。ある時は国の御旗を振りかざし、ある時は電力会社が安心安全を言い立て、電力エネルギーなしに、日本の経済も生活も成り立たないと叫びつつ進められてきた。

世間は、便利なら何でもいい、またそれまで頼みの綱だった炭坑は頻繁に事故が起こり、年に数百から千人の犠牲者が出ていた。直接身にふりかからずとも、世間も報道で知っている。恐ろしく危険であることは先刻承知。それが原発となると、そういった死者は出ない。直接迫る身の危険もどうやらないらしいと受け取った。

導入からしばらく、原発推進派、反対派、双方の議論はあった。だがどうも噛み合わず、また素人には判りにくい内容。推進派は専門用語を並べ立て、安全だといい、反対派は言葉は判りやすいが、根拠のうすい数字を挙げて、危険性を強調。結局、架空の論議の域を出ない。そのうち稼働基が増え、稼働年数も増加、こうして既成事実が積み重ねられてきた。

お上と電力会社、その他原発に群がる御連中は、自らの縄張りを守ることに終始。各組織、それぞれ上から下までパラパラ。横の連携もない。原発でいうなら、現場で働く人間と、数字だけを見る人間が同じ会社にいながら問題を共有することはない。

彼らを結びつけてきたのは原発マネー。

稼働から十年経ち、二十年経って、発電所の性能はいくらかはよくなるだろう。しかし、科学技術の面、将来、核のゴミをどうするのか、それらの展望はひらけないまま現在に至る。

電力を使うことのみが優先され、つれて出る放射性廃棄物については、中間貯蔵施設もあやふや。最終処分方法にいたっては何も決まらぬまま、だが走り出し、やがて于不ルギー抜きに生活が成り立たない状態。

既成事実の積み重ねがまかり通ってきた。

何にせよ、突き進むという姿勢は快楽を伴う。お上にはお上の快楽があり、世間には世間の快楽があった。

何の根拠もないまま原子炉の寿命を延ばして、すべて先の人間に押しつける。この度の事故は、その先延ばしの矛盾を露呈させた。

危険を先延ばしになど出来てはいなかったのだ。

この震災と原発事故は、他人任せでよしとしてきた日本人の頬をひっぱたいた。大きな犠牲を伴いながら。しかし、すべて元へ戻し、自滅への近道を行こうとしている。

ならばいっそ行ってしまえばいい。

日本が八方塞がりになった時、初めて気づく。

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南北大分割の危険性の増大

『ユーロ危機』より ユーロの終焉か、ヨーロッパ合衆国か--きわめて多様な構図に開かれた未来-

未唯空間での配置:4.7.3.1 ギリシャ

まさに、生産・生産的資本・金融のグローバリゼーションに由来し、そして/あるいはEUの規制や指令に由来するところの、いわゆる変更不可能な「外的制約」に対して、欧州市民が自らの民主主義的権利を取り戻そうと決心したとしても、緊急を要するいまの場合、現在の危機を克服するためのテコとして欧州ガバナンスの民主化を求めても、それは遅きに失する。こうして一国の領土というものが、経済問題において大いなる自律性を取り戻すための好都合な土俵として現れてくる。だが、こうした動きは結果として、(あまりに)強い北のユーロと(あまりに)弱い南のユーロの分裂を引き起こしかねない。両者で作用している社会政治的ロジ。クが正反対だからである。

欧州アジェンダの各項目が別々に解釈されている。一方にとっては、法的規mは絶対的な至上命令であり、社会の基盤そのものである。他方にとっては、それは解釈や適用に際しての出発点にすぎない。こうした食違いによって、安定・成長協定からの漂流が説明され(前掲第m章参照)、……おそらくまた、緊縮度の高い財政協定の実行や二○一二年夏に決定されたその黄金律がこうむるであろう不運が説明されよう。社会民主主義諸国やドイツでは、たいていの社会グループは社会経済改革の方向性をめぐる熟議に参加できているが、他方、その他のヨーロッパでは政治同盟の交替が起こり、大いなる不安定が生じ、また市場と資本主義の正統性についての論議が繰り返されている。

その結果、前者のグループ〔北欧やドイツ〕では、いくつかの大改革が決定され円滑に実施されうるが、そのためには長期にわたる民主主義的熟議のプロセスが必要である。反対に第二のグループ〔その他のヨーロッパ〕では、新政権によって拙速な改革が決定されるが、その実施や有効性は大規模な街頭デモによって阻止され、次期政権がこうした改革を帳消しにしてしまいかねない。明らかなことだが、第一のグループの方が、グローバル化やヨーロッパ化の挑戦にうまく対応しうる備えができている。

経済的特化の面では、両地域は世界経済の同一市場分野内部で競争しあうことはない。つまり第一グループは、いくつかの高需要・高品質財の高熟練・高付加価値型生産に特化しており、長らく技術フロンティアの最前線にいるという経験をもつ。第ニグループは、より多く内需主導的であり、外国貿易から多分に保護された伝統色の強い財を指向している。その結果、両者が同一の為替レートのもとで共存すると、一方には慢性的な貿易黒字が、他方には巨額の赤字がもたらされることになる。もし競争力のある圏域からそうでない圏域への貸付が停止するならばーそれが起こったのであり(ギリシャを見よ)、加えて財政連帯はなされていないー同一通貨を共有しつづけることの成算はまったく限定的となる。少なくとも二つのユーロをつくろうと提案する人たちがいるのは、おそらくこの理由からであろう。調整とありうる債務不履行という苦痛にみちた一定の期間ののち、南が高度成長に復帰すれば、それこそが経済成長と市民の社会的要求-産業再活性化、雇用創出、教育・医療制度の存続-の遂行とを和解させうるのであろう。長期的には実質的な収斂を想像することもでき、その時には、おそらく再び同一のユーロを共有することができるが、しかしそれは、まったく異なった参入為替レートと刷新された「調整」様式のもとにおいてであろう。

政治的には、こうしたシナリオはばかげたものではない。大多数の北の住民は南への恒常的移転を続けることに反対しないだろうか。南の市民はユーロ圏にとどまりたいと宣言するが、同時に緊縮プログラムの停止も要求する。最後には第二の議論が第一のそれを上回ることはないのだろうか。もちろん、経済政策が完全に各国別のものに戻るにつれて、ユーロが無秩序かつ混沌のうちに解体することもありうる。
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人生に納得できるもの 仕事

『満足して死に逝く為に』より 人生に納得できるものとはなんでしょうか

未唯空間での配置:7.8.4.4 存在の無へ

◆好きな仕事

 定年後にがんになってしまった、六十代後半の男性の方に、「お好きな仕事をされてましたか」と問うと、すぐに返答されました。

 「男性で好きな仕事をしてきた人は、ほとんどいないのではないかな」

 そして、会社時代のことをその方はいろいろ話して下さいました。

 「組合運動もやりすぎて、部下からはかなり慕われたけれど、上司たちからはけむたがられていたな。とにかく会社の組織にはまって仕事をするのは、楽じゃなかった」

 振り返ってみれば、人生の多くの時間を費やしてきた仕事は、その人にとってどんな意味があるのでしょうか。

 八十代の男性の方に、「ご自分の人生を百点満点で計算してみると、何十点になりますか」と問うてみたことがあります。その方は、優しい妻と立派な子供さんを二人お持ちで、お仕事のほうも定年退職時には、登りつめた役職にも就いておられました。名誉も地位も財産もお持ちの上、家族にも恵まれているその方が、なんと「五十点です」と言われたのです。百点満点のうち五十点。人生の満足度があまりに低いので、びっくりしてお尋ねしました。

 「何、がお具合い、悪かったのでしょうか」

 すると、「仕事です。好きな仕事ができなかった」と言われました。

 「私はね。物を発明したり、分析したり、製造したりするのが好きでね。そういう仕事をずっとしていたかった。それなのに、年齢とともに昇格し、会社組織の中をいろいろ移動させられた。好きでもない仕事をさせられた日々のほうが長かった。そして役職についたゆえに、部下の首切りまでさせられた。その時は辛くてね」

 「もし、その好きな仕事ができる部署にずっといることができておられたら、点数は何点になっていたとお思いですか」と問うと「九十点台になっていたでしょう」と言われました。

◆仕事との向き合い方

 人生の満足をはかるものの中で、「仕事」つまり、自分、が何をして生きてきたかは、これほどまでに大事なのだというのです。仕事をされている多くの方々は、生活のために働いておられます。そして仕事を選ぶという余裕を、誰もが持ち合わせていません。とにかくどこでもいいから就職して頂戴と、今の親たちの多くは子供たちに対して願っています。定職を持っているということだけでも、恵まれていることなのです。

 しかし生計を立てている人にとって、一日のほとんどの時間を費し、人生の大半を占める仕事というものは、少なからず人生の意味や意義に影響を与えることでしょう。

 就職して仕事をしているうちに、気が進まなかった仕事が好きになったり、自分には案外向いている仕事と思えたならば、ラッキーです。高望みせず、与えられたらなんでも前向きにやってみようと思えたら、これも幸せかもしれません。

 問題なのは、どうしてもしたいことがある人、希望していることがはっきりしている人の場合です。自分の望む仕事が与えられたらいいのですが、たとえ与えられたとしても、長年勤務する中で、仕事の仕方を変えざるをえなかったり、昇格することで今まで満足していた働きを失うこともあります。私、が今いる病院の世界でも、看護部長という病院組織の中で一番部下を多く持つ役職にまで登りつめた方の複雑な思いがあります。

 「看護部長というのは、全くの管理職でね。大切な働きであることは十分に承知しているけれど、本音を言うと、一人のナースとして病棟で働いていた頃、が一番楽しかった。患者さんと直接関われた時代がやっぱりよかった。現場に戻りたいと思うことがあるのよ」

 好きな、望んだ仕事ができない時、どうするか、妥協するかしないか、今、できずにいることにこだわるか、それとも願い通りいかずとも自分の人生を変更することを楽しみ、与えられたチャンスの中から幸せを見つける努力をするか、道はいくつかあります。

 仕事という世界から受けるもので、人生の満足感も変わってくることを思うと、好きな、したい仕事に就くことだけが目標ではなく、変様する仕事との向き合い方も、大切になってきます。
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地域医療センターで導尿

地域医療センターで導尿

 いくら力んでも、尿は出ない。どうにも、我慢できずに、深夜2時に地域医療センターへ。運転する間も痛みは増すばかり。

 導尿したところ、900mlあり。溢れる寸前です。本当にギリギリでした。治療は近くの泌尿科に行って、くださいとのこと。

トヨタ記念病院へ

 9時から、栗田クリニックに行ったけど、導尿もできないということで診療を断られた。いつも、通っている加藤内科にとりあえず、行くことにした。処理室がなく、多くの看護婦と老人の医師一人の内科です。

 相談したところ、トヨタ記念病院の泌尿科への紹介してもらえることになった。その場で連絡して、すぐ来るようにとのこと。この時点では、尿はさほど、溜まっていなかったので、トヨタ記念病院へ直行。

 到着後、40分ぐらい待って、診察。前立腺が大きいことが指摘された。抗生物質5日分と前立腺を小さくする薬28日分をもらってきた。抗生物質で前立腺の炎症を直す方針です。これでどうにかなりそうだと思い、豊田市駅前のスタバに直行。

スタバでの対応に不備

 タンブラー購入時のカードを使うつもりだったけど、何でもいいけど、タンブラーがなければ、使えないということだった。スタバのマニュアルなき対応としてはマニュアル通りの対応です。頭に来て、その場でカードを破った。

OCR作業

 家に帰って、『満足して死に逝く為に』『ユーロ危機』『終末の思想』『ザ・ホスピタリティ』『本よむ幸せ』『日本行政学』をインスピレーションへの反映。


 続いて、『フッサール』のOCR作業を実施
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エネルギー・ロードマップ2050をめぐるポーランドの抵抗

『EU経済の進展と企業・経営』より EUにおける再生可能エネルギー政策と「ポーランド問題」

未唯空間での配置:10.2.3.3 LとGGとの関係

EUとポーランドにおける再生可能エネルギー政策、ポーランドにおける2020年までの再生可能エネルギー予測、そしてポーランドがエネルギ`一安全保障を保つためにあくまで石炭を中心とするエネルギー構成を想定していることを明らかにしてきた。本節では、EUにおいて近年、2050年までにCIIGの排出量を1990年比で80%以上削減しようとし、低炭素社会・脱炭素11:会を目指すとするエネルギー・ロードマップ2050の議論が高まるなかで、ポーランドが交渉の場においてあくまで自国のエネルギー政策に基づいて反対を繰り広げている現状を整理してみたい。

2011年6月21日の環境閣僚会議でのポーランドの反対

 2011年になるとEUでは、欧州委員会を中心として、エネルギー・ロードマップ2050に関する議論が本格化した。石炭利用を継続することを望むポーランドは2011年4月14~15日。巨大な炭鉱と石炭火力発電所を抱える首都ワルシャワの南西160kmにある炭鉱都市ベルハトゥフでエネルギー関係官僚会介を開催した。会合の場所にこの都市を選んだのは、石炭を中心とした自国のエネルギー・ミックスは守るというポーランドのメッセージであるという。当時のエネルギー省副大臣で、のちに環境相に就任するコロレツは、「1990~2007年のあいだに、ポーランドはGDPが2倍になったにもかかわらず、CO2排出量を37%減少させた。これは世界トップクラスのパフォーマンスである。(中略)問題は、競争力を維持したまま、いかにしてCO2削減の努力を継続するか、なのだ」と語り、エネルギー・ロードマップ2050推進の流れを牽制した。

 2ヵ月後の6月21日のルクセンブルクで開催された環境閣僚理事会では、ポーランドは全加盟国中唯一、2050年までに1990年比でGHG排出量を80%削減し、また現在の2020年までに同20%削減の目標を, 25%削減に引き上げる、というエネルギー・ロードマップ2050案に反対した。2008年には他の新規加盟国とともに妥協交渉をはかったポーランドも、このたびは孤立した状況の中での反対となった。イギリスの気候変動書記官は、会議後の公式会見で「ヨーロッパを低炭素経済へと動かしていくための妥協案を受け入れなかったポーランドに深く失望する」と話すなど、他の加盟国のあいだに失望感が広がった。この失望には別の理由もある。それは、2011年後半の欧州理事会議長国がポーランドであることである。それゆえ、ポーランドが強硬に反対しているエネルギー・ロードマップ2050が当該期間に進展しないだろうとみられたからである。

2011年後半:ポーランド議長国時代

 2011年後半に欧州理事会議長国となったポーランドは、EUの低炭素社会にむけた動きに襖を打ち込むようになる。経済相で副首相でもあるパヅラク(Pawlak, Waldemar)は同年7月12日、「私たちは低炭素(Low-carbon)について話すべきではない。低排出(Low-emission)について話すべきだ」として低炭素という表現に懐疑的な見方を示した。そしてその理由としては、「低炭素について話すのであれば、その焦点は石炭に向かうが、低排出について話すのであれば、エネルギー効率を含むより広範なアプローチについて話すことが可能だ」として石炭が問題の焦点になることを嫌った。環境相クラシェフスキ)も、「ヨーロッパ各国の独自性が考慮されるべきである。EU全体としてもヨーロッパ商品の国際市場における競争力を低下させるべきではない」「ポーランドの最大の燃料は石炭であり、それゆえポーランドはEUの野心的なGHG排出削減目標を達成するのが難しい。石炭を他のものに置き換えるというのはポーランドにおいては現実的ではない。(中略)ある諸国にとっては達成が容易なことが、別の諸国にとっては難しいことがあるのだ」と語り、ポーランド独自の立場を強調した。

2012年3月9日の環境閣僚会議でのポーランドの反対

 議長国ポーランドの上述のような姿勢もあり、2011年後半に議論の進まなかったエネルギー・ロードマップ2050についての議論は、2012年前半に議長国がデンマークに移ると再燃する。これに対してポーランド国内では、ポーランド商工会議所が2月、2030年から2050年までのEU気候政策を実施するのにかかるコストを提示し経済への過度な負担となることを示し,また同月、副経済相トムチキェヴィチが「世界的なC02排出削減の合意のないなかで、EUがエネルギー・口ードマップ2050の議論を進めるのは不適切」と兌言するなど、ポーランドでは議論の再燃を牽制する動きが相次いだ。

 2012年3月9日の環境閣僚理事会において、議長国デンマークはEUにおけるCO2排出量の削減目標を、1990年比で, 2030年までに40%、2040年までに60%, 2050年までに80%とする案を提示した。これはデンマーク人の欧州委員会気候委員ヘデゴー肝いりの政策であったが、ポーランドはここでも加盟国中唯一反対した。この数日後、欧州議会は賛成多数で当政策を支持したが、ここでもポーランド選出の欧州議員はすべて反対にまわり、自国のエネルギー政策に固執する形となった。さらに2012年6月の欧州理事会においてもこの政策が俎上にのぼったが、これもポーランドは一国のみ反対した。

 ポーランドはエネルギー・ロードマップ2050に含まれるGHG排出削減目標が、いつの日か法的拘束力のあるものに変わることを恐れているという。またデンマーク案に含まれる脱炭素という言葉にも敏感に反応している。ポーランドは交渉の席上この言葉を低炭素という言葉で置き換えるよう求めたが、デンマークは拒否したという。環境相コロレツはインタビューで以下のように述べた。「加盟各国にはそれぞれ重要な問題がある。イギリスは金融規制だろうし、フランスは原子力発電問題だろう。ポーランドの場合は、それが気候政策だということだ。」
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対策達成に影響を及ばす不確実性要因:危機脱出と現状のユ一口圏残存の見通し

『EU経済の進展と企業・経営』より ユーロ危機--教訓と解決策--

未唯空間での配置:4.7.3.1 ギリシャ

危機を解決し現メンバーでユーロを長期残存させるために導入された対策は有効だろうか? 以下のような多数のリスクファクターが疑問を投げかける。

 ①ギリシャは(および救済融資を求めてきた他の国々は)、財政的なバランスを回復する能力をもっているか。

 ②スベインはユーロ圏や欧州中央銀行の支援で、緊急融資用有限な資金を背景に、公的債務や銀行危機から脱出できるだろうか? この疑問は程度の差こそ小さいがイタリアについても同じである。

 ③経済財政政策の調整を拡大することは現実に可能か。

 ④周辺諸国が、通貨統合の中にとどまるのに必要な程度の経済構造改革を成し 遂げることは可能か。

第1の点に関して、ギリシャは、救済融資を受けるために課されている財政条件を満たすことがかなり困難になっている。もしこの援助が止まれば、ギリシャは破産して、ユーロ圏を去り、以前の通貨に戻らなければならないであろう。ギリシャが脱退すれば、ギリシャだけでなく他のユーロ圏諸国の経済や、はるかに離れた諸国にも大混乱をもたらすであろう。2012年11月1日の時点では、ローンの次回分割分の出資認可についてギリシャとトロイカの間で依然交渉中で、ギリシャが調整プログラムの2年延長を依頼した。

第2の点に関して今後の緊急援助に利用できる資金量は、欧州金融安定基金が約1,200億ユーロ、さらに欧州安定メカニズムが5,000億ユーロに上る。さらに、IMFが追加的な援助を提供することができる。だがこれらの資金が、緊急融資をスペインあるいはイタリアの政府に提供するのに十分かどうかは非常に疑わしい。これらの諸国が必要とする資金は、これまでに救済された政府の場合よりも著しく大きくなるかもしれないからである。しかし、政府資を調達コストを削減し、金融市場へのアクセスを維持するために欧州中央銀行は無制限国債購入プログラムを公示したが、このプログラムによりスペイン(またはイタリア)はユーロ圏や国際通貨基金にローンを依頼しないですむかもしれない。

第3の問題に関しては、不均衡に対して集団的に調整された行動を達成するのはきわめて難しいという事実について、現実的でなければならない。そのためには、経済政策の決定をほとんど完全に独立して行う習慣にある各政府と各国議会が、思考様式を根本的に変えることが必要である。自国の経済的意思決定と相手国の経済的意思決定の間の相互依存性を自覚する方向に、相手国の困州を防止し軽減するような形での自国の重点政策の調節を快諾する方向に、精神構造が変わらなければならない。規定の実施が政治的利害によって左右される傾向を減らし、いっそう自立的に行われるようにしなければならない。新しい安定・調整・統治条約は、制裁を発動する権限を、欧州司法裁判所に与えている。だが、そのような権限を法律機関に与える試みは、まだ実地に検証されてはいない。

経済財政政策の調整をさらに進めようとすると、共通通貨の利益を優先する形で、おそらくは各国議会の意志に反して、国家政策そのものを修正する現実的可能性が必然的に生じてくる。主権の実際の移譲が必要になる。課税と財政支出は、各国議会がまだほとんど排他的な支配をしている、数少ない残された分野のうちの一つである。加盟国においては、各国議会が欧州連合の活動に対して適切な監督を行うことができていないという感情が、すでに存在する。ユーロ圏諸国の集団的な決定について、その民主主義的正当性を確保する手段をみつけなければならない。

ドイツのような債権国では、持続的経常収支の黒字や銀行による周辺国の政府や民間部門向けの無分別な貸し出しが、危機の一因となったわけである。ドイツはユーロがもたらした安定の恩恵を受けていることもあって、ユーロを救う価値があるとこれからも考えるだろう。したがって、経済分野でも今後ドイツが一定の犠牲を払わなければならないと説得はされてもよい。これらの犠牲には、ドイツが国内需要の刺激策を通して経常黒字を削減する行動をとること、周辺諸国の国債負担を持続可能な水準にまで引き下げることができるようにドイツの銀行が損失を受け入れ、周辺諸国の国債整理を進めること、などが含まれるであろう。

第4の点に関して長期的にみてさらにやっかいな問題は、先進的な中心的諸国と比較して、若干の周辺諸国の経済構造が本質的に異なることである。これは、通貨統合の内部で対処するのが困難な問題である。ユーロ圏には、財政資金を移転するシステムがなく、アメリカ合衆国のような自動安定装置(税収移転の削減、連邦プログラムからの受取分の増額)もない。したがって、ギリシャやポルトガルのような、慢性的に競争上の困難をかかえた周辺諸国が通貨統合にとどまるためには、中心的諸国の発展の水準に追いっかなければならないことになる。同じことは、より小さい程度ではあるが、スベインにも、部分的にはイタリアにもあてはまる。アイルランドは、特殊な例で、同国の問題は主に銀行危機が原因である。

問題となっている諸国が競争力を向上させることができる唯一の方法は、市場開放・リストラ・近代化を通して、中心的諸国の市場との経済統合を深化させることである。国内の構造改革は、周辺諸国が競争力を回復するための必須の条件である。それら諸国は、中心的諸国に存在する標準的な労働市場の柔軟性・生産性・公共部門の効率性・年金制度などを実現する必要がある。「欧州2020」は、例えば、就業率を75%まで引き上げること、再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げることなどをうたっている。これにより、周辺諸国が競争力を向上させるのに役立っであろう。単一市場の規則をより断固として適用し、エネルギーその他の市場および政府調達分野の自由化を実行することもまた有用であろう。

東欧の加盟国の中にも、経済の相対的な後進性が現段階でドイツおよびフランスと単一通貨を共有することと矛盾している国々がある。
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「欧州2020」の概略

『EU経済の進展と企業・経営』より EUにおける人的資本強化策

未唯空間での配置:10.2.3.3 LとGGとの関係

低下したEUの全要素生産性上昇率

 EUは、2000年3月に開催されたリスボン欧州理事会において、人的資本に注目し、「世界で最も競争力を有する知識基盤型経済」の構築を目指す「リスボン戦略」を発表した。ただ、それにもかかわらず今回の経済危機を回避できなかったことから、2010年5月、2020年を目途とした新たな中期成長戦略「欧州2020」を策定する。

 この「欧州2020」は、次の3本柱から構成される。①「知的な成長」、②「持続可能な成長」、③「包含的な成長」であり、この柱に基づき3つの優先事項、7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれた。また、この中期戦略には具体的な数値目標が掲げられている。就業率)を69%から75%へ、研究開発投資/GDP比を2%弱から3%へ、また、20/20/20、すなわち、2020年までに温室効果ガスを1990年対比で20%削減すること、エネルギー効率を20%改善すること、さらに、再生エネルギーのシェアを20%に高めることである。加えて、学業放棄率15%を10%へ引き下げること、また、貧困層を25%以上削減することなども重要な数値目標とされている。

 ここで注目したい点は、「知的な成長」である。すなわち、「欧州2020」によると、2008年以降のユーロ危機・経済危機の主たる要因はEU経済の脆弱性であったとされ、その背景には、研究開発やイノベーションヘの投資が不十分であることが指摘されている。より具体的には、全要素生産性上昇率が低下あるいは相対的に低水準であることこそ、今回の危機を招いた主因の一つとされている。事実、日米EUの全要素生産性上昇率を比較した図によれば、EUのそれは日米を大きく下回っている。したがって、「欧州2020」では、上記の3つの柱からなる中期成長戦略の中でも経済成長の牽引役として、知識およびイノペーションを促進し、その結果、全要素生産性の上昇を促すことが必要であると主張される。なお、この全要素生産性を決定する要因として、いくっかの点がありえるが、ここでは、技術革新に注目し分析を進める。

「知的な成長」を目指した政策

 既述したように 同戦略には7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれているが、そのうち、次の3っは技術革進をもたらす「知的な成長」に関連する。その概要は以下のとおりである。

 (I)イノベーション・ユニオン(Innovation Union)

   ここでは、イノペーションを強化し、EU全体で研究開発投資水準を引き上げる(対GDP比3%へ)ことが目標とされている。このため、①欧州研究領域(European Research Area : ERA)の完成と戦略的研究アジェンダ(エネルギー安全保障・交通・気候変動・資源効率・健康・高齢化といった分野)の策定が盛り込まれている。また、②企業のイノペーションを促進するための条件改善(EU特許・特別特許裁判所の創設など)も重要とされる。さらに③「ヨーロッパ・イノペーション・パートナーシップ」を導入することが図られている。具体的には産学官連携により、「2020年までにバイオ経済の構築」、「ヨーロッパエ業の将来をっくる主要な技術の強化」、「高齢者の自立的生活と社会活動を可能にする技術」などを強化することなどである。また、④イノペーション支援策の強化と開発も重要な柱となっている。ここでは、構造基金、地域開発基金、研究開発投資枠組みプログラム、競争力・イノペーション枠組みプログラム、欧州エネルギー技術戦略プランなどが利用・強化される。

 (2)教育・トレーニング

   2つ目の柱は、若者の移動促進、教育制度のパフォーマンスの強化、高等教育の国際的魅力向上である。すなわち、EU内の全生徒の25%は読解能力が乏しく、14~15%は教育・職業訓練を中退している。また、25~34歳の学士取得割合はアメリカ40%、日本50%に対してEUは33%であり、EUが最も低いレベルにとどまっている。このような状況を変革しようとするのである。

   この2本目の柱を実現するために①学生・研究者の移動促進のプログラムの強化、②高等教育の近代化、③若手専門家の移動プログラムを通じた起業促進、④ノンフォーマル学習(学校以外、例えば、学習塾・公民館などにおける組織的な学習が重要とされる)、さらに、⑤インフォーマル学習、すなわち、生涯にわたるさまざまな場面における非組織的な学習の促進、加えて、⑥若者の雇用促進政策枠組みの策定も盛り込まれている。

 (3)デジタル社会

   このフラッグシップ・プロジェクトの目的は、ヨーロッパのデジタル化および高速インターネットの展開を加速し、デジタル単一市場を形成しようとするものである。このために、①高速インターネット・インフラヘの投資を促進する安定的な法的枠組みの提供、②ブロードバンド周波数帯に関する効率的なスペクトル政策の策定、③EU構造基金の利用促進、④オンラインのコンテンツとサービスの単一市場の創設、⑤研究・イノペーション基金の改革とICT分野への支援強化、⑥EU市民のインターネットアクセス利用の促進などが盛り込まれている。

   上記が「欧州2020」の重要な柱である「知的な成長」、その中でも人材育成にかかわる部分であるが、このように人的資本の強化策、すなわち、教育・卜レーニングが重視されているのは、次のような背景がある。

   図は、縦軸に労働力不足を示す指標、横軸に失業率を示すというベバリッジ曲線である。本来、この曲線は右下がりとなっているはずであるが、近年同曲線は原点から遠ざかりっつある。すなわち、EUでは、労働力不足と失業が並存する経済へと変化しつつあるのである。例えば、スキルを持ったICT技術者が不足する一方、一般労働者の失業は増加するといった状況である。したがって、人材教育を充実させることが可能となれば、労働力不足と失業者増という問題を二挙に解消することも不可能ではない。換言すれば、EUの労働市場では、スキル・ミスマッチをいかに解消するかが政策課題となるのである。

   なお、2012年9月時点でEU27カ国の失業率は10.6%,最も高率であったスペインは2.8%となっている。中でも深刻であるのは若年失業者であり、同時点でスペインは54.2%,ギリシャに至っては55.6%に達している。すなわち、ポイントとなるのは、若年者に対する職業訓練なのである。
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最後の老人ホーム訪問

排尿痛

 昨日から続く、「排尿痛」のために、10分単位でトイレに行くしかない状態です。

 岡崎図書館は2週間経つので、行かざるを得ないので、コンビニのトイレを経由して、岡崎へ。

 車を運転しながら、何回も寝てました。本当の睡眠不足ですね。

 トイレが心配で、豊田市へ行くのは止めにした。お昼はセブン・イレブンの100おにぎりです。やはり、貧弱でしすね。

 この「排尿痛」対策で、明日は年休にするつもりです。何しろ、トイレなしの高速バスの1時間に対応できません。

 その前に、今夜も寝不足ですね。元々、3時間ぐらいしか寝ていないので、どうにかなるでしょう、

岡崎図書館から借りた10冊

 それなりの本がありました、特に2月と3月が目立ち、歴史と経済を中心に選択してきた。

 336.2『知的生産のための科学的仮説思考』

 364.1『北欧モデル』

 188.8『道元と曹洞宗がわかる本』

 007.8『ScanSnap仕事便利帳』1台を使い尽くす180の活用法

 010.4『図書館と情報モラル』さまざまなメディアを活用する図書館の現場で、図書館員はどのようにすれば情報モラルを身につけられ、利用者にそれを広めていくことができるのか。個人情報や知的財産を取り扱い、情報を適切に受信・発信し、受け取った情報をいろいろな角度から読み解くメディアリテラシー能力を学び/教えるためのテキスト

 191.2『哲学者キリスト』

 404『Xイベント』複雑性の罠が世界を崩壊させる

 313.1『SNSが世界を統一する』世界連邦への具体的シナリオ 戦争、飢餓、貧困、領土問題、宗教問題……全人類を漆黒の淵へと導くかに見える。現代国際社会の閉塞状態から抜け出し、地球全体を持続可能なシステムに作り替えて、新しい世界秩序を形成するのは、世界連邦の樹立しかない。未来を切り開いていく意志と連帯に支えられた世界秩序のグランドデザインを大胆に提起する。

 295.3『トウヴィルが見たアメリカ』現代デモクラシーの誕生

 238.9『デンマーク国民をつくった歴史教科書』

最後の老人ホーム訪問

 母の老人ホームを最後に回ってきた。途中のコンビニで、母のお菓子を買おうとして、亡くなったことを確認していた。

 センター長が居たので、6年間のお礼を言ったつもりです。母が死亡した当日の昼過ぎに話していたこと、夕食に母が参加していたことを知っていたので、急死には驚いたそうです。皆、そう言っている。それなりに母は気を使ったんでしょかね。

 老人ホームに行くんだったら、テレビを持ってくるように言われたので、どうにか車に入れました。このテレビが母の唯一の楽しみだったんですね。それにしても「嵐」が好きだったとは、通夜の打ち合わせの時に、妹と奥さんから聞かされました。

OCR化の10冊

 昨日の27冊の本のうち、OCR化の対象は10冊です。5時までに、どうにか9冊に対応。

 最後の『フッサール心理学宣言』は骨が折れそうです。何しろ、絶対孤独からの哲学です。私の「孤立と孤独」と似たところがあります。ゆっくりと自分のものにしておきましょう。
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夫婦関係の成立

『民法』より 第三章 夫婦

未唯空間での配置:7.5.3.3 奥さんとの関係

夫婦関係は、婚姻(結婚)によって成立するが、法律上正当な夫婦と認められるためには、実質的要件と形式的要件を必要とする。

(1) 婚姻の実質的要件

 実質的要件というのは、夫婦となる男女について一定の事情(婚姻障害)があってはならないということである。すなわち、両当事者に婚姻する意思(婚姻意思)、があるほか、第一に、男は二八歳、女は二六歳以上(婚姻適齢)でなければならない(七三一条)。男女に年齢差を設けていることには批判が強く、平成八年の民法改正要綱では、男女とも一八歳としている。

 第二に、重婚であってはならない(七三二条。重婚の禁止)。第三に、女は原則として前婚の解消(夫の死亡や離婚)又は取消しの日から、六ヵ月を経過した後でなければならない(七三三条)。この再婚禁止期間は、前婚の子と後婚の子との父性決定の困難を避けるためであるが、女性にのみ再婚を制限するのは男女平等原則に反するなどの批判も強く、廃止論も有力である。なお、民法改正要綱では、この期間は二〇〇日間に短縮されている。第四に、近親者であってはならない(近親婚の禁止)。すなわち、直系血族又は三親等内の傍系血族であってはならない(七三四条。いとこ同士はよいが、おじ・めいはいけない)。ただし、養子と養方の傍系血族(例えば養男子と養親の娘)との間はさしつかえない。また、直系姻族の間(例えば先妻の子と後妻)では、姻族関係が終了した後も婚姻はできない(七三五条)。さらに、「養子、その配偶者、養子の直系卑属又はその配偶者」と「養親又はその直系尊属」との間では、縁組による親族関係が離縁によって終了した後でも、婚姻することができない(七三六条)。第五に、未成年者が婚姻をするには、少なくとも父母の一方の同意を必要とする(七三七条)。

(2) 婚姻の形式的要件

 婚姻は、右の要件を備えた男女が、単に儀式を挙げて同棲しただけでは、法律的には効力を生じない。必ず戸籍の届出を必要とする(七三九条)。これを法律婚主義という。婚姻の形式的要件である。この届出は、夫婦となる者双方及び成年の証人二人以上から、口頭又は署名した書面で、夫婦の称する氏(夫の氏か妻の氏か)その他戸籍法と同施行規則に定めることを届け出るものである(戸籍法二五条こ二七条・七四条、戸籍法施行規則五六条)。

(3) 婚姻の無効・取消し

 外形上成立した婚姻が無効であったり、後に取り消されたりすることがある。右に述べた婚姻の要件の一つを欠く場合には、法律の認めない夫婦関係だから、これを無効とするのが当然のように思われるけれども、ともかく一たび成立した婚姻を、初めから無効なものとすることは、当事者その他の者に重大な影響を及ぼすことになるから、民法はただ二つの場合にだけ婚姻は無効なものとし、その他の場合には取り消しうるにすぎないものとした。

 婚姻が無効な二つの場合は、親が勝手に届出をしたというような、当事者の間に婚姻をする意思(婚姻意思)のないときであり、他の一つの場合は、届出のないときである(七四二条)。この婚姻意思は、ぽ(に社会観念卜人婦であると認められる関係の設定を欲する意思(実質的意思)をいうのであって、単に婚姻届を出すことの合意(形式的意思)では足りないとされている(最判昭和四四年一〇月三一日民集二三巻一〇号一八九四頁)。仮装婚はもちろん、子供を嫡出子にするためとか、日本在留資格の取得を容易にするために婚姻届を出したような場合には、その婚姻は無効ということになる。

 婚姻年齢に達しないとか、近親婚であるというような、前に述べた要件の一つを欠く場合には、法律の定める一定の者から裁判所に訴えて、婚姻取消しの判決を受けることができる(七四三条-七四七条)。しかし、婚姻を取り消す判決を受けても、財産上の契約が取り消された場合とは違って、婚姻が最初から効力をもたなかったことになるのではなく、その取消しの判決のあった時から以後、将来に向かって夫婦関係がなくなるだけである(七四八条)。なお、詐欺又は強迫を受けて婚姻をした者も、この婚姻の取消しを裁判所に請求することができる(七四七条)。しかし、この場合にも、その婚姻関係が取消しの判決を受けた時から解消するものであることは、他の取消しの場合と同様である。
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チエ・ゲバラとボリビア

『ボリビアを知るための73章』より

未唯空間での配置;米州連合

チエ・ゲバラがカストロと決別し、革命後キューバの閣僚の地位や特権のすべてを投げ捨てて、「二つ、三つ、さらに多くのベトナムを作る」ことを合言葉に、ボリビアでの革命闘争に身を投じたのは1966年の11月のことであった。11月4日空路ラパスから偽名で潜入したチエは、陸路コチャバンバを経由して、7日サンタクルス県のニャンカウアスの宿営地に到着、そこを拠点としキューバから同行した17名の戦士と現地で合流した30名足らずのボリビア人らと闘争を開始した。アメリカ帝国主義に対抗するため、南米大陸の中心に位置するボリビアの持つ地政学的条件は理想的に映った。そこから革命的解放の火を南米全土に拡大しようとするチエの考えには、独立運動のさなかに南米の統一に想いを寄せたシモン・ボリーバルや、今日の南米共同体に向けた地域統合の動きと重なり合うものがある。

だが翌67年10月8日、アメリカの軍事援助を受けたボリビア政府軍によって捕らえられるまで、険しい渓谷部での約1年にわたるゲリラ闘争は孤独なものだった。持病の喘息の発作に苦しむ姿とともに、その一部始終を書き綴ったいわゆる『ボリビア日記』には、都市など外部との連携の不足と農民層の支持を得られないことが毎月の総括として記されている。ゲバラの実践しようとした根拠地革命を冒険主義として拒絶するソ連に忠実な、ボリビア共産党の冷淡な姿勢と裏切りがあった。期待した鉱山労働者の合流もなかった。革命後ボリビア農村は農地改革によって保守化しており、とくにバリエントス軍政と農民との間につくられた同盟関係は障害であった。壮絶な死をむかえるひと月前には、農民大衆が密告者となっていることを深く嘆いている。2000人の政府軍を前に、多い時でも50人そこそこで戦わねばならなかった。キューバのシエラ・マエストラでの闘争の展開とは、地形を含め、その条件において大きく異なっていたのである。

寒村のラ・イゲラで銃殺された後、密かに埋葬されたチエの遺体は、30年後の97年キューバ政府の強い要請により掘り起こされ、遺骨はキューバに運ばれ、10月サンタ・クララの霊廟に埋葬された。他方、ラーイゲラにもチエの胸像や記念館が建てられ、「ゲバラ通り」などゲバラに因んだ観光インフラが整えられた。グローバル化のなかで世界のゲバラ人気にあやかリ生き残りをかけようとする社会主義の孤塁キューバと、思想はともかく、観光客の誘致を意識した新自由主義のボリビアという相対立する政府の思惑が、ゲバラという遺産をめぐリ奇妙にもクロスした形である。

だが、そうした権力側の思惑とは別に、39歳の若さでこの世を去ったゲバラの、正義の実現に向けて注がれた理想主義は、ボリビアのみならず世界の人びとを惹きつけ続けて止まない。
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