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発電の方式を市民が選ぶ

『エネルギーを選ぶ時代は来るのか』より 「エネルギー自立」への試み スウェーデンの選択 半世紀にわたる試行錯誤

「これからのエネルギーをどうするのか」を、日本各地の新たな取り組み、そしてスペインの政策に見てきた私たちが最後に見つめたのが、北欧スウェーデンだ。この国では、エネルギーのあり方を国が決めるのではなく、市民の判断に委ねているという。

「私はA社が売る風力発電による電気を使いたい」

「私はB社が扱っている水力の電気を買いたい」

電力会社が決めた発電方式(電源)による電気を使い、決められた料金を支払うことに慣らされている私だちからすると実現できるとは思えない話だが、市民一人ひとりが様々なメニューのなかから発電方式を直接選ぶという仕組みを、スウェーデンでは、どのように可能にしているのだろうか。

取材を始める前に私たちが感じていた疑問は、次のようなものだ。

 ・電気には色や形があるわけでもないのに個別の電力を選ぶとはどういうことなのか。

 ・電気は安定供給が大切というが一人ひとりが勝手に選んで大丈夫なのか。

疑問を胸に取材を進める過程で私たちは、日本のエネルギーのあり方を考えるうえでのヒントや新たな可能性に出会うことになった。

疑問の答えを求めて私たちがまず訪ねたのは、スウェーデンの首都ストックホルム郊外に暮らすヨ(ン・ヴィークストロームさんとエバさん夫妻のお宅だ。コンピューター会社のエンジニアの職を退き、いまは夫婦二人の年金暮らしだが、週末には近所に暮らす六人の子どもと十三人の孫が訪ねてきて、テレビを見たり、パソコンを楽しんだりと、思い思いの時間を過ごしていく。

その様子を見つめながらヨ(ンさんは、電気の発電方式を原子力発電ペースの電力から風力一○○パーセントのメニューに変えた理由をこう語った。

「孫たちに残せるものは何だろうかと考えました。未来の社会が、どのようになるかはわかりませんが、環境に優しい方法で電気を得られる、そんな社会を残したいと考えたのです」

冬の寒さが厳しいスウェーデンだが、ヅィークストロームさんの家の暖房は電気ヒーターとエアコンで、調理にもガスではなく電気を使っている。風力に変えたことでトータルコストは二割程度上がって月額およそ一五〇〇クローネ(日本円でおよそ二万円)になったが、それでもその選択に満足しているという。

「満足できるのは、自分が使っている電力が風力で発電されていると実感できるからです。私たちのこの選択が、社会の変化につながればと願って風力を選びました。これが私にできる社会への貢献だと思っています」

電気の発電方式を自由に選べるスウェーデン。その仕組みはどのようなものなのか。

発電会社と送電会社が分離されているのはスペインと同じだが、独特なのは各家庭に電気を売る「小売り業者」が、消費者向けに様々な独自の料金プランやサービスメニューを展開していることだ。

小売り業者が提示する料金プランの内容を見て、消費者は自分の家で使う発電方式を選ぶ。小売り業者には、それぞれのサービスメニューに使われる発電方式を明らかにする義務がある。

例えばプランAは、水力九〇パーセントに風力一○パーセントを組み合わせたもの。プランBは風力一○○パーセント。あるいはプランCだと原子力一○○パーセントといった具合だ。これが、消費者に発電方式の選択を促すことにつながっている。

電気の小売り業者を選ぶことができる国は世界に数多くあるが、こうした発電方式の明示義務によって消費者が「発電方式」そのものを選択する仕組みを整えているのが、スウェーデンの特徴である。これによって、消費者が選んだ発電方式に消費者が支払う対価が流れ、さらにその発電方式が増えていく。消費者の選択が国のエネルギーのあり方を決めていく、これがスウェーデンの仕組みである。
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