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インターネットと表現の自由

『インターネットの法律問題』より 表現の自由

(1)公然性を有する通信

 ところが、情報通信技術(ICT)の高度化に伴い、電話におけるダイヤルQ2やパソコン通信におけるチャットのように、不特定多数による利用が可能な「通信」が現れるに至った。インターネットではBBSやウェブサイトをはじめ、不特定多数の者への情報発信を可能とするサービスが多様に展開されている。インターネットの黎明期には、情報発信の気軽さ・容易さと相まって、インターネットこそが現実の「思想の自由市場」であるとの楽観論も有力であった。しかし、こうした情報発信にも通信の秘密の保護が及んだ結果として匿名表現による権利侵害が増加し、しかもISP等の守秘義務は発信者情報にも及んでいるために、被害者側からの責任追及も困難を極めることになった。そこでこうした表現活動のためのアクセスは「公然性を有する通信」と捉えられ、BBSやウェブサイト等において表現内容となる部分は通信の秘密の保護が及ばないと解されるようになった。

(2)匿名表現の自由

 もっとも、「公然性を有する通信」のうちインターネットとの情報の送受信行為にはなお秘密の保護が及ぶため、ISP等が通信履歴を保有・利用し得るのは正当な業務に必要な範囲に限られる。発信者情報を任意に第三者に開示してはならず、むしろ一定の期間後には消去しなければならない。このため、表現の「匿名卜匹が解除されるのは発信者情報の開示(プロ責4)や公権力による押収(刑訴100 ・ 222)等の場合に限られる。捜査機関は原則として30日以内の期間で特定の通信履歴を消去しないよう要請できるが(刑訴197③)、その対象は既にISP等が業務上記録した情報に限られ、通信履歴の一般的保存を義務付けるものではないことに注意が必要である。また匿名表現の「内容」は表現の自由の法理に服するため、発信者は公権力との関係で表現の自由を主張できる。匿名表現の禁止が端的に表現の自由に反すると説く学説もある。さらに発信者は、ISP等による内容の不当改変等に対して、約款・利用規約等に基づく私法上の権利を主張できる。

(3)利用者の表現の自由と情報媒介者

 現在世界各国でFネットワーク中立性」ないし「オープン・インターネット」の概念が活発に議論されていることからも分かるとおり、情報媒介者(ISP・サイト管理者等)の位置付けは、インターネットのあり方を大きく左右する。「公然性を有する通信」の概念と、それを受けて制定されたプロバイダ責任制限法は、情報流通のボトルネックとなるISP等を一定の範囲で配信者(distributor)として位置付け、表現内容に対するコントロールの権限とそれに伴う責任を認めることを通じて、インターネットの健全な発展を期待したのである。実際にもISP等の利用・接続約款や業界4団体の「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」等の自主規制は、公権力の法執行よりも重要な役割を果たしている。

 その反面、インターネット上の情報流通をコントロールするよう情報媒介者を法的に強制するならば、それは公権力がインターネット上の表現の自由を広汎かつ強力に制約することにつながる。このため、立法がサイト管理者等に違法有害情報の送信防止措置を採るよう求めるとしても、それはあくまで努力義務規定にとどめられ、しかもその履行は他人の違法有害な情報発信を「知ったとき」に限定されて、サイト管理者等が流通する情報を常時監視する義務を負わないことを明確にしている(プロ責3、青少年ネット整備21)。こうした配慮は、情報媒介者の安易な規制が、インターネット上の表現の自由の死命を制する「劇薬」であるからにほかならない。逆に、ISP等による不当な情報流通のコントロールのおそれに対しては、通信の秘密の保護を含む事業法に加えて、競争法・消費者法等の間接的規制が有効だと考えられているのも、こうした事情によるものといえよう。
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