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地域コミュニティ

『よくわかる社会情報学』より

地域コミュニティの課題

コミュニティという言葉は多様に用いられる。定義や理論の変遷についてはG.デランティが詳しい。地域コミュニティについては、2004年に「地域づくり支援アドバイザー会議」が課題を提起している。帰属意識の薄れによる参画意識の醸成困難とリーダー育成についての方法論の欠如、地域づくりが別個に進められ、複数の主体の連携が不足していること。そして情報の未整理、交換のしくみが不全であるとの指摘がある。

地域コミュニティの課題については、ハイブリッド・コミュニティという概念を用いた議論もある。従来、個人は、国、地域、家族にくるまれ、重層的なコミュニティの一員として存在した。しかし、交通手段の発展、それ以上に情報技術の発展により、個人が地域という領域的概念を破って存在せざるをえない状況になったことへの指摘である。

情報技術による解決への志向

こうした状況の下、地域コミュニティの課題解決に向けた、情報技術を用いた多様な取り組みがおこなわれている。1996年に神奈川県藤沢市では藤沢市市民電子会議室が実験プロジェクトとして開設された。藤沢市市民電子会議室は市行政がテーマ設定をおこなう市役所エリアと、市民が会議室設定をおこなう市民エリアに分かれていた。参加した市民は、それぞれに関心のある会議室に分かれ、意見交換をおこなう。運営委員のコーディネートにより行政への提案もおこなわれた。

この取り組みは、情報技術を用いたデモクラシーを実現する試みとして高く評価され、同様の電子会議室を取り入れる行政が相次いだ。しかし、十分なリソースを投入しなければ維持できないしくみであり、その後、次々と撤退し、現在は藤沢市以外にはほとんど残っていない。

岡山県岡山市では2001年n月に電子町内会を開始した。既存の町内会を基礎としたシステムであり、岡山市ではもともと町内会が十分に機能していたことが前提となっている。しくみとしては、各電子町内会が外部向けと内部向けのウェブページをもった上で、電子掲示板やイペントカレンダーが整備されている。2014年現在でも岡山市電子町内会は活用されているが、他の自治体に広がっている状況ではない。

2004年以降、地域SNSと呼ばれるソーシャルメディアが積極的に導入された。熊本県八代市は2004年「ごろっとやっちろ」をはじめた。2004年当時、日本におけるSNSとして大きなシェアのあったmixiと同様な構造をもっていた。日記などを記す参加者の個人ページ、参加者が一定のグループになって意見交換する「コミュニティ」という二分構造である。ごろっとやっちろでは多様なグループが生まれ、積極的な意見交換がおこなわれるコミュニティもあった。これに注目した総務省は2005年12月に新潟県長岡市と東京都千代田区で地域SNSの実証実験を開始した。これを契機に、多くの自治体が地域SNSを導入した。しかし、地域SNSが成果を挙げたとする自治体は少数にとどまり、現在は兵庫県域をエリアに2006年10月から運営されている「ひょこむ」など一部が残っているに止まる。

これらは行政主導が目立つ取り組みであるが、民間企業が運営しているものに地域ブログポータルサイトがある。静岡県浜松市の「はまぞう」、沖縄県の「てぃーだ」をはじめ、多くの地域での取り組みがある。はまぞうは2005年に運営開始している。これらは一定の地域に関心をもつ人びとや組織、企業がそれぞれに同じシステムでブログを書く。それらの個別ブログを多様なかたちで紹介するトップベージがある。この二層構造であり、運営企業が積極的な個人ブロガーとも連携して、参加者間の交流を図るしくみもある。

静岡県島田市の「eコミュニティしまだ」も地域ブログポータルを主としているが、利用者が用いるブログシステムを統一せず、さまざまなブログからRSSにより記事内容を収集し、トップベーダで紹介している。 2004年の開設当初は(独)防災科学技術研究所の主導であったが、その後、特定非営利活動法人に運営が移管された。eコミュニティしまだは2014年現在ブログに止まらず、島田市に関わるFacebookやTwitterなども収集し、紹介している。あわせて、特定非営利活動法人が多彩なイベントなどを実施し、参加者の連携を図っている。

今後への提起

地域コミュニティの課題解決に向け、情報技術を応用した試みは数多い。しかし、持続的な成功を果たしたものは少ない。一方で領域的な地域とは直接につながらないFacebookやTwitterなどのSNSは隆盛を見せている。

あらためてハイブリッド・コミュニティの議論を基礎とすれば、人はすでに領域としての地域にくるまれてはいない。むしろ、情報技術を手にした人びとは領域を横断し、同時に複数の領域に所属している。そのことを前提とすれば、個人発の多様な情報を、それぞれの地域の視点からさまざまに編集して組みあわせるキュレーションの発想が、地域コミュニティの課題への対応として意義をもつ可能性が十分にあると考えられる。
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